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2015年12月号 vol.4

大音海の岸辺 第23回 中編 (湯浅学)

2015年12月26日 22:04 by boid
2015年12月26日 22:04 by boid
湯浅学さんの連載「大音海の岸辺」第23回は『ミュージック・マガジン』1991年10月号~1992年7月号の「ラップ・ハウス」レヴュー欄に掲載された原稿をおおくりしています。本ページでは現在日本で伝記映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』が公開中のN.W.A.のファースト&セカンド・アルバムのレヴューも。

ECD『ECD』




文=湯浅学


ブラック・シープ『ア・ウルフ・イン・シープス・クロウジング』
 ネイティヴ・タング派の注目株。奔放で無茶なようで、大雑把ではあるが、なかなか鋭い術策を持っていそうな2人組。ジャケットのおとぼけぶりを見よ。油断できない音の連続。ノイズ系とおぼしきギターをそれとなく使ったり、犬の吠え合いをパーカッション代わりにしてみたり。それでいてダンサンブル(?)な高揚感の持続もあるという、これは快作といわねばならない。(9)

D-ナイス『トゥ・ザ・レスキュー』

BDP一家の若頭、セカンド・アルバムでは、実直さはそのままに余裕を感じさせるほど、じっくりとラッピン。ノーティ・バイ・ネイチャーとの共闘などもあるが、いなたいR&B感覚で低重心の攻め。おちゃらけないのは親分ゆずりだ。仕掛けという仕掛けはないが、耳にくっきりと残る音を自分のものにしている。(8)

キャンディマン『がまんできないキャンディマン』
 下ネタ得意の西海岸のおとぼけ野郎、トーン・ロックのお仲間、第2弾登場。これがさらに明朗さを増してなかなかの心地よさ。徹底してお笑い系のネタふりと、それに合ったファンキーな曲揃い。トータル・イメージを大切にするラップ芸人根性にはなかなか熱いものがある。またもヒットか?(8)

タム・タム『ドゥ・イット・タム・タム』
 ボストン出身の女性17歳。声の張りが素晴らしいし、ラッピンも胸張ってる感じがバリバリで、たのもしい。さぞやライヴはハッチャキなんであろうと想像させられます。ラティーファというよりヨー・ヨーのほうに近い。ストーンズの「ミス・ユー」のラップもほどよいまとまり。が、もっとスリルがほしい。音が無難すぎます。ポップってんですか?(7)

ハマー『ハマーⅢ』
MCが取れてどうなったかというと、前よりいい気になっている。ハマーのラップの間抜けぶりも、より強調されている。バックの人々のほうが歌えてる。ファンキー? 冗談じゃねえぞドンキー。俺には関係ないところで勝手に踊っててくれよ。なんならペプシやめてコカ・コーラ飲んで歌手にでもなれば?(3)

2ライヴ・クルー『スポーツ・ウィークエンド』
こいつらにつける薬はない。スカスカの音とズリズリのスクラッチという、いつものサウンドに変化なし。4文字言葉はもちろん続出。日本盤封入の湯村先生のイラストがえぐい。人間は下半身のみに生きる、か。それもいいんじゃないかと思えるほどに、自信に満ちたこの態度をこそ見習うべきでしょう。(8)

ビッグ・ダディ・ケイン『プリンス・オブ・ダークネス』
 またしてもこのノリ。といってもこの人に大変身求めるなんて。いつもながらの太いささやきラップでスケコマシ。さすがのサンプリングの妙技もたっぷり楽しんでください。前作よりも落ち着きがあるようにも思える。この人の場合、セックスの後の余韻。前戯というよりはしつこい後戯。眠気もあり。(7)

F・S・エフェクト『ソー・ディープ・イッツ・ボトムレス』
 『ニュー・ジャック・シティ』のサントラに収録されていたアル・B・シュア!の息のかかった4人組。F・Sとはフル・スウィングのことだそうな。複数プロデュース・システムで多彩さを出そうとしているが、結果はまあまあ。フロントはラッパーだが、コーラス・ワークが結構いける。ソフトな面を強調していくということでしょう。(7)
クッキー・クルー『フェイド・トゥ・ブラック』
 ロンドン出身の娘2人組のセカンド。ダディ・O、ダニー・D、ギャングスターなどプロデューサー陣が豪華だが、それぞれにしっくりハマっているのは見事だ。特にブラック・シープのやつがクセモノ。かのロイ・エアーズのカヴァーなどもある。メッセージもしっかり主張。成長しています。日本盤には48ページにもおよぶ歌詞/対訳、解説つき。(8)

アイスMC『マイ・ワールド』
 イタリア/ドイツで特に人気という、ちょっと妙なイギリス、ノッティンガム出身のお兄さん。これが2作目だそうです。ハウスとレゲエを軸に、オーソドックスな(5年前に流行ったような)サウンドなどの他、ジャズ風味などを加えて幅広いアプローチを見せている。声が"のぺたん”としているのは残念だけど、勉強家だと思う。(7)

X-クラン『トゥ・ジ・イースト・ブラックワーズ』
 なぜか今ごろリリースされた90年のヒット作。意識向上を第一義とするブルックリンの4人組のデビュー作。リーダー=プロフェッサーXは公民権運動家ソニー・カースンの息子だ。Pファンク色の強いサウンドで、アフリカン・アメリカンのアイデンティティ確立に言及する曲が次々に登場する。ハードに押すというより、ひとつずつ説いて聴かせるというもの。(8)

オーヴァーロードX『ウェポン・イズ・マイ・リリック』
 こちらは89年1月発表の作品。アルバム・タイトル曲はロンドンのギャングスター・ラップの代表作だ。L.L.クールJからの影響を強く感じさせるハードな押しのラッピンが中心だが、中にはオールド・スクールへの敬意あらわなものも。やる気みなぎる力作だ。サウンドも重く厚め。(8)

CHE『ゲバラ・ウォーフェア&ソーパウダー』
 アート、ファッション、音楽と総合的にクリエイトしている、パラダイスというロンドンの集団の中心人物=ジョン・ヘルマーによる、山あり谷ありのハウス。仕掛けたっぷり、けれん味もかなり。だが愛嬌もたっぷりあるので親しみが湧いてしまう。グループ名の"チェ”はチェ・ゲバラにちなんだものだと。(7)
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