1月号でお送りした『世紀の光』に関するインタヴューに続き、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督が3月26日(土)から日本で公開される最新作『光りの墓』について語ったインタヴューを掲載します。タイ東北部にある病院のベットに横たわる"眠り病”の青年たちと、彼らと関わるふたりの女性が織り成す物語が語られる『光りの墓』。アピチャッポン監督がこの作品でチャレンジしたこと、現在のタイで映画を撮ることなどについて語った発言をご紹介するとともに、樋口泰人が本作について考察していきます。

© Kick The Machine Films / Illuminations Films (Past Lives) / Anna Sanders Films /
Geißendörfer Film-und Fernsehproduktion /Match Factory Productions / Astro Shaw (2015)



想像力の周波数


取材・文=樋口泰人

 どう言ったらいいのだろう。明らかに何かが更新されていた。近年の言い方だとアピチャッポン2.1とかそんなことを言えばいいのだろうか。
 『光りの墓』である。いきなりのショベルカー。音もそれまでの映画の滑らかでまろやかな感触は残しつつ、どこかざらついている。輪郭のジャギーをあえてそのままにしているのか。単純にショベルカーだからそうなんだとも考えられるが、人の声もどこか高音が少しだけとがっている。空気の摩擦音。どこかにあるはずの軋轢が、そこにはっきりと刻み付けられる。
 怒ってるんだよ。気持ちよくなんかない。神秘的でもない、現実的なのだ。
 ざらついた空気の音が、そんなことを伝えてくる。まずはそこから。そしてだからこそあのまろやかさや滑らかさや眠りや夢が必要なのだ。絶対に近づけないはずの大統領のシェルターに入り込んだ主人公が、その障壁を「想像力」によって超えたのだと語ったジム・ジャームッシュの『リミッツ・オブ・コントロール』。われわれが無意識にコントロールされている、その限界を想像力によって超える。そんな力がわれわれにはある。戦いはそこにあるのだと、それは語る。『光りの墓』も冒頭からそれを宣言する。いきなりの戦闘モードである。
もちろんだからこそ兵士たちは眠っている。戦いの真っ最中なのである。眠り病なのだそうだ。それに催眠術の話も映画の中には出てくる。それだけでなく、あらゆるものが、われわれを眠りへと誘う。天井の扇風機、海にある攪拌機。機械の回転運動が頻繁に映される。すべてが『世紀の光』の回廊へと繋がっているようにも見える。

「催眠術の効果に関して、わたしと撮影監督とで興味を持ち、語り合った思い出もあります。例えばシャッタースピードを変えるだけで、扇風機や攪拌機の回転のスピード感を変えることができるんです。まるで、カメラとそれらの回転する機械との間で対話が行われているような、そんな撮影現場だったんです」


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