大著作集『大音海』の編纂を兼ね、湯浅学さんの過去の原稿に書き下ろしの解説を加えて掲載していく「大音海の岸辺」第26回。今回からはこれまであまり取り上げてこなかった日本のアーティストに関する原稿を数回にわたって再録していきます。まず前編では青江三奈、阿久悠、そして"荒井由実”名義で発表されたユーミンの初期作品について書かれた原稿をご覧ください。

荒井由実『ミスリム』



文=湯浅学


青江三奈『青江三奈全集』

 まず声、そして姿。衝撃的な女性として、第一印象が今でも尾を引いているのだ俺の場合。そうかもう30年か、と思うとガキの心に"夜”をぶちかました青江三奈という人の偉大さに改めて敬意を表したくてたまらなくなる。青江三奈こそ"夜の歌謡曲”の茶髪女王である。深い助平心のやるせなさをこれほどクールに歌ってしまえる人は、この世には現在あと数人しかいない。
 ビクターのコンパクトな箱ものである。CD6枚と野沢あぐむさんの熱帯解説付きブックレットが、きれいなイラストにくるまれているが、中味はずっしり、聴き応えお楽しみはたんまりだ。内訳は、第1巻から第4巻までが〈A面コレクション〉で、全シングルのA面70曲を収録、第5巻が日本の"スタンダード歌謡”のカヴァー集〈女の物語(バラード)〉、第6巻はクラブ育ちの青江を伝える〈洋楽(ジャズ)倶楽部〉と題された洋楽スタンダードのカヴァー集、となっている。数々のオリジナル・アルバムを発表してきた青江の全況がこれ一箱でわかる、というものではない。あまりにもスケールが大きい歌手にとっては、CD6枚ではその入口から第一応接室にやっとたどりついた、程度のものであろう。現役であるわけだし。近い将来この箱の続編が作られることを、密かに、しかし大いに期待しております。

この記事は登録読者だけが閲覧可能な内容を含みます。続きを読むにはPublishers IDによる読者登録が必要です。