今年から京都に仮寓を構えた青山真治さんによる日付のない日記、「宝ヶ池の沈まぬ亀」第2回です。連載開始直後にboidマガジンが休刊してしまったため、3カ月ぶりの掲載。京都が最も過ごしやすく美しい季節だったその間、日本ポップス史に残る数々の名盤を生んだ音楽プロデューサーとの出会いがあったり――。そして例外的に日付とともに記されるのは、安部公房の戯曲『榎本武揚』を上演した日のこと。



文・写真=青山真治



2、多忙遠望

某日、米を炊く。七分づきミルキーウェイなる銘柄。美味い。京都に棲んで決めたのは自炊の可能性の探求である。とはいえ、いわゆる男の料理を極める、みたいなことを目指す気はさらさらなく、たんに普通のものを拵えて腹が満足すればそれでよし、だがこの七分づきミルキーウェイ、妻が四条のデパートで贖うたもので、まるで米に拘りがあるように聞えるだろう、それならそれもよし、ともかく美味いのだから何の文句もない。但し購入量にも当然だが限界あり、1キロあっという間に食べきった。現在は近くのスーパーマーケット、フレスコにて贖う2キロの平凡な銘柄に落ち着いている。流行りすぐに廃る。
この連載の第一回直後、マガジン休刊の報。しかしまあいつかは人目に届くと腹を括って始めた物は続けるしかないのでメモだけはつけてきた。前回の頃はまだ叡山の山肌が枯色に覆われていたが、いまやびっしりと繁茂した濃緑が陽光を受けて弾んでいる。二年前、本当には京都は五月、六月です、とタクシー運転手に諭されたのを何度となく思い出し、事実その季節が最も過ごしやすく美しかったのだがいまやその季節も急ぎ足で去った。いや、余裕もなく過ぎてしまったのはこちらだった。

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