今回の映画川はライターの渥美喜子さんが約1年ぶりの登板。そして取り上げる作品はなんと『HiGH&LOW THE MOVIE』(久保茂昭監督)! EXILEや三代目J Soul Brothersのメンバーが出演している映画という認識しかない方も多いかもしれませんが、実際のところこの作品はどんな映画なのか、その魅力は何なのか、同作に続く映画第2弾『HiGH&LOW THE RED LINE』の公開を前に渥美さんが解説してくれます。
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文=渥美喜子


 「HiGH&LOW」とは、ドラマ、配信、コミック、SNS、オリジナルアルバム、ドームツアー、そして映画と、数多くのメディアとエンターテイメントを巻き込み展開する、世界初のビッグプロジェクトであり、映画『HiGH&LOW THE MOVIE』は、一つの到達点である――。
 というEXILE的事情はまったく知らずとも、映画が始まって3秒後には起こる大爆破に「え、何これ?」と疑問に思う暇もなく、怒涛の勢いで説明される異常に大量の登場人物。その世界にこちらは完全に取り残されたまま、映画は暴走する。
 どれがEXILEか非EXILEかもわからないのに、その上、三代目やら、ゴールデンボンバーやら、人気若手俳優やら、韓流スターやら、白竜やら、豪華といえば豪華な(?)キャストが入り乱れ、物語自体も回想シーンが大半を占めるため、一体誰が何のために今何をしてるのかがわかりにくく、一見の客にはかなり不親切な作りとなっている。
 ではこの映画が、EXILEファンのためだけに作られた内輪ノリ的な作品かというと、そうではない、と私は感じる。

 舞台となる架空のスラム街「無名街」、そこは時代も土地もはっきりしないはずなのに、見るものにとっては既視感のある風景だ。事実、この映画が幾つもの過去の映画を下敷きにしており、『爆裂都市』から『マッドマックス 怒りのデス・ロード』まで、その影響はわかりやすく散見している。そしてそんな街を舞台に、くすぶるやんちゃな若者たち、という物語も、今まで何度となく語られてきたお話だ。

 かつてはチーム「ムゲン」のリーダーであり、皆から尊敬されていたAKIRA演じる琥珀(柳葉敏郎似)。だが幼馴染が敵対するグループに殺されたことに責任を感じるあまり、復讐のため人格まで変わってしまった琥珀を止めるため、彼を慕っていた「山王連合会」のコブラ(岩田剛典)とヤマト(鈴木伸之)を中心に、男衆たちが立ち上がり、車やバイクで走り回り、5分に一度は殴り合う(ドローンで撮影されたのであろう、クライマックスとなる大乱闘のシーンは、グラフィティアートの施されたコンテナを舞台に100人以上の大アクションで、かなりの見応えである。ライムスター宇多丸氏の言う通り、この映画において、乱闘シーンをEXILEのヒット曲をBGMに踊るミュージカル映画として楽しむことも可能だ)。
 彼らがただひたすらに殴り合う、そのすべては「琥珀さん」のためであって、それ以上で以下でもない。言い換えれば、これは「地方都市でくすぶる若者たち」の物語ではなく、「琥珀さんを取り戻す」物語なのだ。彼らには、それが青春なのだ。

 これまでの青春映画といえば、都会(東京)に憧れ、野心を抱く若者の姿を描くのが常であり、「ここではない何処か」を求めていたはずだ。例えば、現在大ヒット中の『君の名は。』では、主人公の男の子はなんの不満も持たず東京に暮らしているのに対し、女の子は自分の血筋が色濃く影響する地元の田舎町に嫌気がさし、最終的にふたりは東京で再会する。そこに、田舎で生き続けるという選択肢はないらしい(いつのまにか友人たちも上京している)。
 しかし「無名街」の若者たちは、街が再開発に飲み込まれ、大人たちの手に渡ることははっきりと拒絶するものの、そこでの貧しい暮らしぶりや理不尽な出来事に不満をもらすことはなく、逆に、そこでつながった血の繋がりもない者たちの「絆」を「家族」として大切にし、そこでの生活を死守しようとする。なので琥珀さんがかつての琥珀さんでなくなることは、彼らの生活を変えてしまう、一大事なのだ。

 それを、小さな世界、つまりはEXILEという大きいけれど小さな器、母なる存在に守られることに安心感を覚える気持ちの悪いマザコン集団、と切り捨てることはできる。映画のラストを飾るYOUと小泉今日子(!)の登場は、それまで男一色だった世界にわかりやすくみんなのお母さん的存在として説明がつくだろう。
 だが、そう簡単に彼らを馬鹿にはできない、何かがある。
 呆れるしかないほど愚直に殴り合い、涙し、和解する若者たちの姿に心打たれるほどこちらもピュアではないけれど、そこに一切の疑いや葛藤がなく、肉体の説得力のみでスクリーンでこちらを説得してくる。そのことに圧倒されたと言ってもいい。『君の名は。』の洗練されたアニメーションや、あるいは『シン・ゴジラ』の即物的表現とも真逆の、その場所に留まり続けることに身体を張ってでもこだわり続ける、という「泥臭さ」が、この映画の魅力といえるだろう。あらゆるメディアを駆使して作り上げたプロジェクトの集大成がこれ(現実的な肉体)というのも、EXILEらしいといえばらしいのか。彼らは自ら、変わらない。

 正直、見ながら「そんなアホな」と失笑してしまうシーンは幾つもあった(メインキャラの大げさな登場とか、AKIRAの瞳孔開きっぱなしの演技とか)。物語としても破綻しまくっていると思う。それでもわたしはきっと、彼らの何も待ち受けていないこの先を見届けるために、『HiGH&LOW THE RED RAIN』を見に行くだろう(!?)。


HiGH&LOW THE MOVIE
2016年 / 日本 / 130分 / 配給:松竹 / 監督:久保茂昭 / 脚本:渡辺啓、平沼紀久、TEAM HI-AX / 出演:AKIRA、青柳翔、TAKAHIRO、登坂広臣、岩田剛典、鈴木伸之、窪田正孝、林遣都、V.I(from BIGBANG)ほか
公式HP
映画第2弾の『HiGH&LOW THE RED RAIN』は10月8日(土)より全国公開




渥美喜子(あつみ・よしこ)
東京渥美組代表取締役。映画ライター。2005年に開設した自身のサイト「gojo」で映画日記を執筆中。『森崎東党宣言!』(インスクリプト)のほか、女性カルチャーサイト「messy」、雑誌「映画芸術」「ユリイカ」などに寄稿。