ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの著書『映画は頭を解放する』(勁草書房)やインタヴュー集『ファスビンダー、ファスビンダーを語る』(2013年に第1巻、昨年の8月に第2・3巻(合本)発行)の訳者・解説者である明石政紀さんが、ファスビンダーの映画作品について考察していく連載「ファスビンダーの映画世界」。前回(其の二)は現存する最古のファスビンダー作品である『宿なし』を取り上げましたが、今回は『宿なし』に次いで撮影され、ファスビンダー自ら主演している『小カオス』について解説してもらいます。



ファスビンダーの短編映画、其の二
『小カオス Das kleine Chaos』



文=明石政紀


 ファスビンダー小物ギャング映画の先駆としての『小カオス』

 前作『宿なし』は浮浪者劇、今回の『小カオス』は強盗映画。社会のなかで居場所のない人間を主人公に据えた『宿なし』が、後年の『四季を売る男』、『自由の代償』、『13回の新月がある年に』『ヴェロニカ・フォスの憧れ』などの潜在的先駆だとすると、こちらの『小カオス』は、2年後にファスビンダーがつくりはじめる一連のギャング映画につながっていく。
 『宿なし』の主人公が被害者だったとすると、『小カオス』の主人公は加害者となり、「いじめ」の構図は逆転。前作に比べると起承転結がはっきりしたこの短編、ハリウッドやヌーヴェル・ヴァーグへの目配せが散りばめられているという点でも、その後のギャング連作のさきがけである。とはいっても、寡黙な絶望に覆われたこれらのギャング映画とはちがい、この『小カオス』は愉悦に満ちたシネマニア犯罪物である。
 ここに出てくる男ふたり、女ひとりの主人公三人組構図も、やはり小物ギャング映画『愛は死より冷酷』や『悪の神々』、あるいはその変形とでも言うべき非ギャング映画『リオ・ダス・モルテス』に引き継がれていくが、じつはこの三人構図、ファスビンダー本人の生活とかかわっている。その当時、ファスビンダーは同棲相手のクリストフ・ローザーとイルム・ヘルマンのアパートに転がり込み、男ふたり女ひとりの三人暮らしをしていたからだ[*1]

 お話は、雑誌の購読予約の勧誘をやっている男ひとり女ふたりの三人組が、いっかな儲けがないのに業を煮やし、あるお宅を襲ってお金をせしめるというもの。

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