今週の映画川は、2月24日(金)公開のミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』(デイミアン・チャゼル監督)です。若きジャズドラマーとバンドの指揮者を務める音楽教師との激しい"師弟関係”を描いた前作『セッション』で一躍脚光を浴びたチャゼル監督が、ミュージカルというジャンルにどのようにアプローチしているのか――。以前『セッション』についても書いてくれた降矢聡さんが迫ります。




文=降矢聡


 雨の日が憂鬱に感じ始めたのは一体いつの頃からだろう。『雨に唄えば』はそんなことを思い起こさせる魅力に満ち溢れている。ミュージカル映画を見る私たちは、素晴しい楽曲に心奪われ、この世のものとは思えないタップやダンスに陶酔する。間違いなくミュージカル映画の特徴といえば、それら歌やダンスのことでもある。あるいは逆に、急に歌い踊り出すことの不自然さを指摘して、このジャンルへの違和感を表明するのももはや常套句となって久しい。しかし、雨どいをつたって流れ落ちる雨水をわざわざ傘で受け止め、傘をくるくると回してみせる遊びともいえぬ遊びをし、水たまりにあえて足を踏み入れ、バシャバシャと駆け回ったことは誰しもあるはずだ。ミュージカル映画(少なくともヒットミュージカルの映画化が隆盛を迎えるまでの60年代以前の作品)の歌やダンスは、この世のものであり、不自然でもなくほとんど日常のそこかしこで出会う感情や行為を起点としていたはずで、だからミュージカル映画ほど私たちにとって身近な映画はそうないだろうと思うのだ。フラッシュモブなんていう現象が流行ったことを思い出すが、私たちの頭の中では『Singin’ in the Rain』のイントロが、「ドゥルドゥッドゥ♪ドゥルドゥルドゥッドゥ♪」と鳴っている。プレス資料によると「ラ・ラ・ランド」とはロサンゼルス、主にハリウッド地域の愛称であり、陶酔し、ハイになる状態を表す言葉であり、そして夢の国を意味するものであるらしい。いつの間にか、些細なこと(雨どいから流れる雨水の滝)に心奪われることがなくなり、ほんの身近に、夢の国=「ラ・ラ・ランド」が広がっていることを忘れてしまっていたことを思い起こさせるのが、ミュージカル映画なのだ。

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