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2017年06月号 vol.2

大音海の岸辺 第39回 前編 (湯浅学)

2017年06月17日 17:49 by boid
2017年06月17日 17:49 by boid
大著作集『大音海』の編纂を兼ね、湯浅学さんの過去の原稿に書き下ろしの解説を加えて掲載していく「大音海の岸辺」第39回です。幻の名盤解放同盟(湯浅さん+根本敬さん+船橋英雄さん)による『ディープ・コリア』が出版されたのが1987年。刊行30周年にあたる今年は「ディープ・コリア再訪の旅」プロジェクトが進行中で、ちょうど今週、同盟の3人で今年2回目の渡韓を果たしたばかりです。というわけで、本連載においてもこれから数回にわたって大韓民国の音楽について書かれた原稿を再録していきます。まず今回は1987~88年に『ディープ・コリア』刊行と時を同じくして書かれた原稿をお届け。前編では、湯浅さん自身が制作に携わった、本連載第1回でも取り上げた韓国を代表するロックバンド「サヌリム」の日本編集盤『僕が告白したらビックリするよ』のライナーノーツを掲載します。

サヌリム『제11집(第11集)』(『僕が告白したらビックリするよ』への収録曲多数)



文=湯浅学


サヌリム『僕が告白したらビックリするよ』


 サヌリムのCDを日本でリリースするという話を、韓国の音楽業界、一般の音楽好き、誰にしても一様にその返事は「それは、当然だ。よいことだと思う」というものだった。特にレコード制作に携わっている人達は、サヌリムのリーダー(実質的には現在はサヌリムといえば彼個人のことをさすわけだが)の金昌完(キム・チャンワン)のことを評して「彼は特別だよ」とか「彼のような才能は独特なもので他とはちょっと違う」等と言う。
 今から10年前、1977年12月、当時GSや歌謡ディスコ全盛だった韓国のポップス・シーンの中に、突如として自らの言葉をロック・ビートに乗せて出現した最初の人たち。それがサヌリム=山彦である。
 朴政権下でじわじわと日常的に抑圧を感じていた大学生たちが、国中で石を持ちバリケードを築き民主化を声高に叫んでいたその渦中に、彼らサヌリムのデビュー曲「アニボルッソ(もうすでに)」は大きな支援の声を持って迎えられた。当初は、あまりにもそれまでの韓国の一般的な歌謡曲とかけ離れていたことを理由にオンエアを渋っていたラジオ局も、こうした動向を知ってサヌリムの存在を認めざるをえなくなった。サヌリムこそが新しい代表、韓国ロックの先駆者なのだと。
☆長男でリーダー、リード・ギターの金昌完(1954年2月生まれ)
☆次男でベースの金昌勲(キム・チャンフン 1956年3月生まれ)
☆三男でドラムの金昌翼(キム・チャンイク 1958年1月生まれ)
の金三兄弟からなるサヌリムは、こうして一躍韓国ロックのイノベーターとして大きな存在となったのである。
 それ以後今年に至るまでの10年間に、彼らは、同一デザインで色とイラストの違うレギュラー・アルバムを11枚、オリジナルの子供用の曲=新ロック童謡集を3枚、金昌完のソロ・アルバムを2枚、計16枚ものアルバムを制作・リリースという盛力的な活動ぶりだ。
 特に最初の1年間には4枚のアルバムを続けざまにリリース。いくらシングル盤のない国とはいえ、中には、アルバム片面全部を費やしたたった3人のプログレッシブ・ロックへの果敢なアプローチ=18分35秒に及ぶ「クデ・ヌン・イミ・ナ(君はすでに僕)」という大作もあるという、まさに韓国ロックの抜きん出た開拓者だった。
 実際サヌリムの登場以後、大学生を中心としたロック・バンドが続々と名のりをあげ、80年代の韓国ポップスの方向性のひとつがそれによって決定づけられたのである。
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