新作『バンコクナイツ』の特殊先遣任務のためタイに潜入した空族による極秘レポート「潜行一千里」第二十九回をお届けします。10月20日より決行される本作戦(=撮影)を前に、一時日本に帰国したカーツヤ隊員は、本作戦にも参加するCN MMM隊員が砦を構える山梨県の一宮町を訪ねます。その一宮町の山の斜面から望む景色にカーツヤ隊員が見出したものとは――。
いよいよ『バンコクナイツ』本作戦が開始されるのにともない、先遣任務報告を公開してきたこの連載も次回から本作戦を遂行中の隊員たちから届く機密写真を中心としたレポートを公開していく予定です。また、作戦決行に合わせてその後方支援を募るクラウドファンディングが10月20日からMotion Galleryで開始されますので、ご支援・ご協力をお願いします!




文・写真=空族


仏歴2558年10月15日

 いつだってあの密林の甘い誘惑はわたしを迷わすが、現任務つまり前線がバンコクであることに疑いの余地がない以上、市街地任務によって体が鈍らぬよう今日もバンコク前線基地であるところの隠れ家に近い、"テーヂウ”という中華系タイ人たちの公園墓地を走っている。在タイ華僑は潮州にルーツを持つ人々が圧倒的に多いが、テーヂウがまさにその潮州系華僑たちの寺院にして、隣接する公園墓地のここは近隣住民たちの恰好のジョギングコースにもなっている。しかし墓地だけに陽が暮れきると走る人々の姿は消える。そこでわたしは走りはじめる。日本では耳慣れない、東南アジアの熱帯特有の爬虫類や昆虫、鳥たちの咆哮が、より人気のなさを煽り立てる。そこに整然とたたずむ墓石の列を常に呑みこまんとしている地表の本来の姿であるところの熱帯植物は、このコンクリートジャングルの中に閉じこめられてはいるが、かつての、いや本来の姿であるところを隠し切れずいつでも溢れかえろうとしている。人間が一瞬でも注意を怠れば、この熱帯の、まさに今、雨季のさなかならなおのこと、決して面積の広いとは言えないバンコクなど一瞬にしてジャングルに戻してしまうだろう。日本の東北の、あの20キロ圏内の今を思えばそれらは容易に目に浮かぶ。
 ここは公園墓地であるが故に、土の割合が多い敷地内は蔦の絡まる巨木に囲まれ風が抜けず湿度が籠り空気がよどんでいる。ジャングルを思い起こすには充分だ。走りはじめるとすぐに汗が噴きだす。幽かにジャングルの気配漂う夜の公園墓地をジョギングコースに選んだのは、このバンコクにありながら常に自らを、"あの状態にチョッケツさせておかねばならない”からである。

この記事は登録読者だけが閲覧可能な内容を含みます。続きを読むにはPublishers IDによる読者登録が必要です。