世界各国の先鋭のドキュメンタリー作品が数多く上映され、たくさんの映画人が集うことでも知られる山形国際ドキュメンタリー映画祭。10月8日~15日に開催されたこの映画祭の模様について、『花と兵隊』『祭の馬』などのドキュメンタリー作品で知られる映画監督・松林要樹さんがレポートしてくれます。近年、ブラジルのサンパウロを拠点に活動している松林監督が観た南米特集(ラテンアメリカ)プログラムの作品や"トリップ”に誘うという共通項を持つ何本かの映画のことなど――。
松林監督は12月に再び南米に旅立たれますが、その旅の記録、現地での撮影&上映活動の報告をboidマガジンで連載していただく予定です。乞うご期待!
旅(トリップ)する映画を探しに!
文=松林要樹
はじめに
10月8日から15日まで山形国際ドキュメンタリー映画祭(以下 山形映画祭)が開催された。隔年で開催されている同映画祭も今年で14回目。今年は160本の映画が上映され、南米特集のプログラムが組まれた。私はこのプログラムを中心に映画を観た。
文章の出だしとしては障りなく聞こえをよくしたが、実際の様子は若干違う。毎晩人だかりができた山形映画祭の名物飲み屋の香味庵で「初孫」という日本酒を浴びるように呑んで、記憶があいまいになりながらフラフラしていた。かわいい女子大生を見かけては、声をかけるも玉砕が続き、これ以上フラフラしていると、私とは人間性も繊細さもかけ離れた、これまで作ってきた作品に対してマイナスイメージを与えるからやめろと厳しい指摘を近い友人らから受けた。
今回、はじめてboidマガジンに寄稿させていただくにあたり、今年2015年の山形映画祭で観てきた作品について触れたい。
権力への意識を覚醒させる『チリの闘い』
まずはじめに自己紹介を兼ねて。私は20歳のころ、アジアの一人旅にはまった。それ以来、風来坊を続けている。旅のなかで映画を作っている。権力への反抗のまねごとを覚えたのも、この旅からだった。今でも金はないので旅の宿泊先は、当時と変わらずいまだにほとんどドミトリー。だが、年齢を問わず世界各地の仲間が出来て良かった。2000年の夏にパキスタンのペシャワールで泊まったドミトリーで、チリの戒厳令の小説を読んだことがある。朝からチャイを飲んでいたとき、同じ宿にいた日本人旅行者から小説をもらった。脂でおなかを壊して横になっていたため、気の毒に思った差し入れだった。
文庫本のカバーがなぜかエルヴィス・プレスリーだった。しかも手書きのタイトルの横にゑるびす文庫と書かれていた。エルヴィスファンの旅行者が文庫本を配っているという。その本をとると、私と同じ福岡県筑後地方で生まれた五木寛之という作家が書いた『戒厳令の夜』という小説だった。旅先で読んだ生まれ故郷に近い九州の炭鉱町を舞台にした小説だったため、一気に読んだ。
だが、その時に読んだ小説の内容なんてほとんど忘れていたが、今回の山形映画祭で、チリで何が起きたかを久しぶりに垣間見た気分になった。15年前に読んだ小説の記憶が映画とつながったのだ。ありがとう、南米の巨匠パトリシオ・グスマン。映画を観て高揚する気分にさせてくれて。
2018年12月号
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