小説家・桜井鈴茂さんの連載エッセイ「サバーバン・ブルーズを蹴散らしながら」第4回。今回は、これまで舞台となってきた朝のベーカリー・カフェとは家から反対方向にある地区へと散歩に出掛けた午後のお話。そして、前回伏せられたままになっていた「ある事実」が明かされます――





文・写真=桜井鈴茂


 朝のベーカリー・カフェについてはもういいだろう。第一に……飽きた。そこに行くのには飽きていないが、というより、飽きる飽きないといった感覚を超越したからこそ行きつけのカフェなんだろうが、それについてうだうだ書くのは飽きた。書く機会があれば書いておきたかった「彼女」についても書いたし、その際には触れないわけにはいかないだろうとぼんやり思っていたトイレについても書いたし、じっさいに書きつけるまでは書くなんて思いもよらなかった「ほぼ常連の老紳士」についてまで書いた。じゅうぶんだ。長篇小説なら次のチャプターに進む頃合いだろう。よっぽど意地悪な、あるいはひたすら自分自身と芸術のためだけに執筆する作家の長編小説を別にすれば。これは長篇小説ではない――のちのちどうなるかはわからない、いつのまにか、ほとんど誰にも気づかれないうちに長編小説に変容しているとか、それはそれでなかなかにワクワクするアイデアだ――が、いずれにせよ、おれはさほど意地悪ではないし、自分自身や芸術のためでもあることを完全には否定しないが「ひたすら」や「だけ」がつくほど自分自身や芸術のためではないので、頃合いを大切にしたい……とかなんとか、こういうのを御為ごかしと言うのかもしれないが、これが次に進む第二の理由。

 さて、おれはいま、自分の習慣にはないことを実行している。何かと言うと、午後の明るいうちに、日の沈まぬうちに、散歩に出たのだ。午後の明るいうちに、日の沈まぬうちにふらりと散歩に出る習慣はない。そんなことは何年もやっていなかった。午後の明るいうちに走ることはけっこうあるのだが、走るのと散歩は違う。いま、それをやっている。というか、正確には、習慣にない午後の長い散歩の途中で、しばらく足が遠のいていたがかつては深夜によく来ていたファミリーレストランに入り、お代わり自由のドリップコーヒーを頼み、ノートを広げている。

この記事は登録読者だけが閲覧可能な内容を含みます。続きを読むにはPublishers IDによる読者登録が必要です。