小説家・桜井鈴茂さんの連載エッセイ「サバーバン・ブルーズを蹴散らしながら」第5回は、走ること、その他についてのお話。週に2回はランニングをして、ハーフ・マラソン大会に出場したりもする桜井さんが習慣的に走る理由とは――
文・写真=桜井鈴茂
走ってきたところだ。音楽をガンガン聴きながら走ってきたところだ。いわば、ひとり爆音ランニングをしてきたところだ。ひとり爆音ランニング、なる言葉を思いついたのはたった今だが。どこを?――東京郊外A地区からB地区にかけての広範囲を。緩やかな坂道とけっこう急な坂道を上ったり下ったりまた上ったりしながら。村上龍がよく愛犬だったかお母様だったかを散歩に連れて行くらしい――テレビで本人が写真とともに紹介していた、実際に見かけたことはないが――緑地公園を通り抜けつつ。距離にするとざっと8キロくらいかな。そうして、熱めの風呂に浸かった。何年かぶりにシェーヴィングフォームを顔に塗ったくってT字カミソリで髭も剃った。久しぶりすぎて腕が落ちたのだろう、あるいは微小な吹き出物でもあったのか、口角のところを切ってしまったが。ともあれ、今は肉体的にも精神的にも爽快だ。エネルギーを使ったのに逆にエネルギーが補給されたような感覚だ。少し若返ったような気さえする。まあ、それでどうなるというものではないが。若返ったといってもせいぜい2歳とかそんなもんだし。数時間後にはおおむね元に――つまり、ここんところのベースである、メランコリック、かつ、むしゃくしゃした気分に――戻るんだろうし。
2018年12月号
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