boidマガジン

2016年03月号 vol.1

Television Freak 第4回 (風元正)

2016年03月05日 21:25 by boid
家では常にテレビつけっぱなしの生活を送る編集者・風元正さんが、ドラマを中心としたさまざまな番組について縦横無尽に論じるTV時評「Television Freak」。今回は1~3月期放送の連続ドラマから『フラジャイル』、『スペシャリスト』、『家族ノカタチ』の3作品が登場。アイドルとしても活躍する俳優が主演という共通項を持ちながら、医療ドラマ、刑事ドラマ、ホームドラマというそれぞれ異なるジャンルに属する3つのドラマを風元さんはどのように見ているのでしょうか。
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旧山川方夫邸 (撮影:風元正)



「壊れやすさ」について


文=風元正


 山川方夫の家を探しに、二宮まで行ってきた。1930年生まれの作家で、江藤淳、坂上弘などを世に出した「三田文学」の伝説的編集長。ショートショートの名手としても知られるが、65年、国道1号線でトラック事故に遭い、34歳で亡くなった。夭折したため作品数は多くないが、2度も全集が出るなど、根強い読者がいる。「日々の死」「海岸公園」「夏の葬列」など佳品揃いだが、異彩を放つのは「愛のごとく」だろう。死の2年前に発表された小説であり、自画像を思わせる人物が主人公で、毎週土曜日、夫のいる女が部屋に通ってきて情交をする日々の中、女が突然に来なくなり、噂で交通事故死したと知る。ぷつんとした終わり方が、運命を予告しているような謎めいた小説である。
 都会を舞台にしたおシャレな小説が多いものの、書き方はぶきっちょで、自分の身を削るような繊細で痛々しいディテールが続き、ヒトの壊れやすさを繰り返し問い続ける。もともと、あまり長生きできそうな作風ではない。持病もあった。「生きづらさ」がテーマの作家であるが、その不安の質は現代を先取りしており、今の方がより新鮮に読める。私は学生時代から愛読者で、たまたま山川未亡人に知遇を得た。この人が……とある感慨が生じたけれども、歳もかなり離れていて、なかなか強烈なお人柄でもあり、思い出話などする蛮勇は持てなかった。しかし今頃になって、たった9カ月だけの新婚生活だったと知り、まあ、余分なことを訊かずによかった。
 吉田五十八設計の旧宅はペンキも塗り直され、新築同然に整えられている。眼下に西湘バイパスと太平洋が広がる崖の上の家は、強い海風にさらされるせいか、どちらかと言えば荒涼としていて、うら寂しくなる。山川方夫は私が生まれてすぐ死んだが、ご夫人の生涯を知っているせいで、人の「壊れやすさ」が身に迫ってくる。

山川邸の2階の書斎から見えた海 (撮影:風元正)


 『フラジャイル』(=「壊れやすさ」)というドラマが放映中である。TOKIOの長瀬智也が「偏屈イケメン天才医師」を演じる。今クールはたまたま、長瀬だけでなく人気グループの一員として第一線に立ち続けてきたアイドル主演のドラマが多い。諸外国の事情はよく知らないが、日本のようにアイドルがたくさん、しかも長期間にわたり活躍を続けている国は例がないだろう。TOKIOは22年、SMAPは28年。さほど関心はなくとも、プライペートに至るまでいろんなことを知っている。バラエティという関門もあるから、人柄も自ずと視聴者に伝わり、ほぼ24時間衆人監視の中で生きることになる。環境への慣れもあるとしても、得るものも多いが失うものもあるだろう。
 長瀬の俳優としての活躍は際立っている。『池袋ウエストゲートパーク』『タイガー&ドラゴン』『泣くな、はらちゃん』は強く印象に残っている。今回の病理医という役柄はこれまでとはやや趣が違うが、現年齢にはぴったりなのに驚く。「君たちが医者でいる限り、僕の言葉は絶対だ!」という決めセリフが、どんどん痛快になってきた。患者嫌いだから、細胞と向き合う病理医を選ぶという設定は、メディアで身体を張ってきたキャリアと響き合っている。
 とりわけ、第6話が面白かった。原作漫画のアマゾン・レビューを読むと、免疫不全を起こしていた赤ちゃんの病因に関して、賛否両論、熱い議論になっているけれど、意表をついた結末だと感心した。セカンドオピニオンを受けにきた母親のため、他の病院にまで患者の検体を盗み出しにゆく「馬鹿がつくほど患者好き」の熱い新人病理医、武井咲は、"制服を着て必死に走る”という適役を発見したようだ。
 長瀬の個性は眼にある。黒目の面積が広い大きな瞳。まずゴンタで正義感が溢れているとともに、物静かで憂いと哀愁を湛えている。ぐっとカメラに視線を向けるシーンの回数が飛び抜けて多いのだが、あの黒い眼に何となく安心して、どんな事態が起こっても説得されてしまう。だからアイドルを続けていられるのかもしれない。夜の屋台のラーメン屋で、病院のボス役を演じる北大路欣也(この人も病理医)と背中が並ぶシーンに風雪が感じられた。
 もうひとつ『フラジャイル』で注目すべきは、長瀬の助手を務める野村周平である。『若者たち』『恋仲』と来て、今、思春期感全開。とても有能だが、暗い過去を持つ臨床検査技師を演じ、安定感のある出演者の中で、ひとりだけ何にも馴染まない雰囲気を醸し出している。爽やかなイケメンという枠に収まらない精神性を感じるとして、まだ色気とは書きたくない。どういう役者になるのかも、まだ見えない。医療ドラマでは水戸黄門の印籠以上に霊験あらたかな北大路と長瀬ともに3つのタイプが出揃っているのが興味深い。
 ただ、今は野村の将来よりはむしろ、ずっとアイドルだった長瀬に北大路への路が拓けているのかが気になって仕方ない。両者のタイプはとても似ている。

『フラジャイル』 フジテレビ系 水曜よる10時放送  (C) フジテレビ


 『スペシャリスト』は、「無実の罪で10年服役した「元受刑者」の刑事」を草彅剛が演じる刑事ドラマ。まず、『相棒』『科捜研の女』など、刑事ドラマを作り続けてきて蓄えたテレビ朝日のノウハウが全開である。テンポがいいし、語り口も巧み。謎の提示から解決まで神経が行き届いていて退屈しない。とはいえ、あまり手慣れた感じが前面に出過ぎると予定調和に陥るが、草彅の存在感が画面に活気を与えている。
 主人公の宅間(草彅)は表情や感情にさほど起伏がなく、いつも飄々としているけれど、どこか内に秘めた強い情念がある。その破れ目が生まれる理由が、日々みんなが感じているストレスと似ている印象を受ける。特別な存在なはずなのに、何となく普通の人に近い。それゆえ、「いい人」役だと内に秘めた情念があまり生きないが、犯罪心理学のスペシャリストである刑事、という役柄により、これまで尋常でない人生を送ってきたことが伝わってくる。「わかるんですよ、僕。だって10年入ってましたから」というセリフを、薄笑いを浮かべながら口にして似合う人はほかにいない。
 主人公が事件現場の細部から心理を読み解いてゆく手際は鮮やかだが、第4話の冒頭、窓の外に電車が走っている行き止まりの部屋に忍び込む強盗はいない、という推理には唸った。ガードが固い金庫ほど興奮する金庫破りが登場し、草彅と犯罪談義に興ずるシーンはこのドラマならでは。NHKの朝ドラでのスクエアな姿が記憶に残っている夏菜や和田正人がちゃんと刑事らしい感じで頑張っているのもいい。

『スペシャリスト』 テレビ朝日系 木曜よる9時放送  (C) テレビ朝日


 『家族ノカタチ』は、冒頭、西田敏行が生イカをぴかぴかのマンションの風呂に放ったり、39歳の「こじらせ男子」香取慎吾と32歳のバツイチ「クレーマーハナコ」上野樹里がやたらツンケンしていたりで、どう入り込んでいいのか、ちょっと戸惑った。しかし、後輩社員の結婚を隠していた千葉雄大と川口春菜のカップルが、みんなの励ましと尽力で訳あって挙げていなかった結婚式にこぎつける経緯でストーリーにノリ、独身をこじらせている荒川良々が「乾杯」を歌い上げるシーンには感動した。
 実はかなりシリアスな人間ドラマである。登場人物はみなどこかに心の傷を持っているけれど、分かち合うことができない。でも、何となく寂しいから自然に集まってしまう。常に食卓の中心にいるのは西田敏行である。もう、素晴らしい。いや、西田に関してはずっと、なぜ『釣りバカ日誌』で「ハマちゃん」なのか、亡くなった三国連太郎には何の咎もないけれど、ずっと疑問だった。自分でも意味のないこだわりだと思うが、テレビ版『釣りバカ日誌』でついに「スーさん」になり、濱田岳との名コンビが実現して、わだかまりがすべて氷解した。
 妻を亡くし、30歳年下のシングルマザー水野美紀と再婚したが逃げられ、中学生の連れ子とともに息子・香取慎吾の部屋に転がり込んだ元漁師。ずけずけと他人の懐に入り込み、大ゲサな喜怒哀楽を表すことで、いつの間にか固い心をほぐしてしまう日本のお父さん。身なりにも構わず、鈍感なようでいて、実はじっと人を観察している。いつも快適な自分のロフトに逃げ込む香取と好対照なのは設定としても、日本の世代間の違いの代表選手みたいだ。香取のキャラだからこそ、西田の厚かましさを中和できるのだと思う。今クールのドラマに出演しているSMAPの2人は、見る方にとって素と虚像の区別がつかなくなっている点で似ている。夫と離れて勝手に生きる風吹ジュンと難問を抱え込んでしまったキャリアウーマン上野樹里の母娘もまた、あるある、という気がする。
 このドラマの面白さは、香取の上野のふたりがフツーの人に見えることである。スターだからこそできる演出だが、はたしてこれから、心が寄り添ってゆくのかどうか。後輩の結婚式の引き出物を徹夜で作るシーンは、とても好感が持てた。

『家族ノカタチ』TBS系 日曜よる9時放送  (C) TBS


 ときたま、「テレビドラマ」という名の巨大なストーリーがあって、中にまた刑事モノとか病院モノとか家族モノという枝分かれした部屋があり、全体を見渡すことができる人などだれもいないまま、日々音もなく更新されているというイメージを持つことがある。現実の隣にある虚構世界であるが、ちかちか明滅しながら、出演する人は常に入れ替わってゆく。「アイドル」も例外ではない。一寸先は闇、と山川方夫の事故現場に立った後ずっと考えていたら、近所で大火事があった。あまりヘンなことを考えるものではない、と少し野次馬してから家に逃げ帰ったけれど、火はなかなか消えなかった。

火の用心 (撮影:風元正)




風元正(かぜもと・ただし)
1961年川西市生まれ。早稲田大学文学部日本史学科卒。週刊、月刊、単行本など、活字仕事全般の周辺に携わり現在に至る。ありがちな中央線沿線居住者。吉本隆明の流儀に従い、家ではTVつけっぱなし生活を30年間続けている。土日はグリーンチャンネル視聴。

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