いつもまだ日本で公開されてない注目作をいち早く紹介してくれている映画批評家の大寺眞輔さんが今回取り上げるのは『Midnight Special』。同作は『テイク・シェルター』(11)や『MUD』(12)などのインディペンデント作品を手がけてきたジェフ・ニコルズ監督が初めてメジャースタジオで撮ったSF映画です。特殊な能力を持った子供をめぐる逃走/追跡劇を描くこの作品が観る者の心を動かす理由とは――
文=大寺眞輔
ワーナー・ブラザーズが製作配給を行う『Midnight Special』は、ブロックバスターばかり並べられた近年のハリウッドスタジオ作品としては異例のものである。事実、これまでに3本インディペンデント作品を作った監督ジェフ・ニコルズがワーナーにこの企画を持ち込んだとき、彼は次のように言われたそうだ。「私たちは100億円かけて400億円稼ぐ映画を作る。20億円かけて40億円稼ぐための映画は作らないんだ」。
だがワーナーはそれでもイーストウッドが40年以上に渡って40本近い作品を作ってきたスタジオであり、クリストファー・ノーランのような個性的作家にも投資している。ごく限られた映画作家にチャンスを与える例外的スタジオでもあるのだ。そしてニコルズもまた、ワーナーで20億円のバジェットで映画を作るチャンスを掴んだ。それはハリウッドのスタジオ作品としてはきわめて低予算であり、イーストウッド作品と比べても半額程度でしかない。しかし同時に、ニコルズがこれまで作ってきた3本の映画のバジェットを全て足してもさらに倍以上になる。この絶妙なバランスが、おそらく『Midnight Special』の成功を支えたと言って良い。そう、それはまるで初期スピルバーグ作品のように、スペクタクルなビジュアルや作品設計、サスペンス豊かな展開で映画ファンの心を躍らせ、同時にその作り手の個人的な世界観や眼差し、感情、手触りのような生々しいものまで味わうことの出来る特別な作品であるのだ。
2018年12月号
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