
爆音映画祭「モーラムユニットライヴ」@渋谷WWWで演奏する井手健介と母船
「カンペ」だらけの世界
文=風元正
今、「井手健介と母船」に首ったけである。始めて聴いた生音が『パリ・テキサス』のテーマで、あの映画が封切られた20代の頃と現在が、いっぺんにつながってしまった。清潔にして繊細。目をつむっていると、深い森で樹々の葉が風ですれる音や渓谷のせせらぎと似た領域の音が耳に届く。ちょっと浮世離れした世界の中で、井手健介の高音は甘く濡れている。ユーチューブで曲は聴いていたが、ライブでは全体の印象がかなり違い、響きが分厚くスケールが大きい。録音した時とはメンバーの大きな入れ替わりがあり、ようやく落ち着いた状態だと知り納得した。「母船」のメンバーが演奏する楽器のひとつひとつが独立した旋律を守り、折り重なってメロディーとなってゆくプロセスがスリリングである。「母船」の音の中で井手健介は「人間の声」を出している、とつくづく思う。声が歩いたり、走ったり、止まったり。ひとりで歌えば、また別の光を放つだろう。「あおいさんぞく」と声が途切れる瞬間、こちらもつい深いため息をつきながら肩の力が抜けてしまうし、「ろしあのへいたいさん」という声もトリップを誘う。ちょっと洞窟温泉感もある。バウスシアターが終わって、井手健介は音楽活動を始める気になったのだから、世の中何が起こるか分からない。この若々しい音楽集団がどんな景色を見せてくれるか、ワクワクしている。
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