
文=松林要樹
結婚もせずにフラフラしているので、不審がられているのか、取材に伺った先で何年間仕事をして、どんな映画を作ったのかとか、なぜそもそも映像を始めたのかとか、よく聞かれる。かれこれビデオカメラを持って旅に出始めて、15年がたっている。ああ、もうそんなに時間がたったのかという思いと、15年でもっといろんなことができたのにと思うことがある。
製作過程は経験上、必ず壁にぶち当たる。資金をはじめ、取材先の人間関係だったり、取材上の許可や申請、邪魔する連中が現れたり。そもそも対象者とまったく接触できなかったことも。壁に阻まれてお蔵入りした企画が多々ある。
企画がある程度進んでいて、それなりに時間とお金をつぎ込み、7割くらい撮れて、編集も始まっているときに中止になった企画もある。死んだ子の年齢を数えるような感情になる。これまで企画したドキュメンタリーが形になったのか打率で言えば、3割程度か。まだましだ。
それで中止した企画が、別の誰かによって映像化されると、なんか昔の彼女が結婚したような感覚になる。どこかおめでとうございますと素直に言えない。なんというか、自我が邪魔している複雑な状態というのかもしれない。
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