映画監督の松林要樹さんが、世界最大の日系人居住地でもあるブラジルでの生活をレポートしてくれる「未来世紀、ホボブラジル」第5回です。松林さんがカメラを持って世界各地で取材をするようになって15年。その間には企画を立てたものの実現しなかった作品もたくさんあったそうです。今回はそんな企画のひとつ、ウルグアイのホセ・ムヒカ元大統領に取材すべく手を尽くしたときの体験をつづってくれました。
文=松林要樹
結婚もせずにフラフラしているので、不審がられているのか、取材に伺った先で何年間仕事をして、どんな映画を作ったのかとか、なぜそもそも映像を始めたのかとか、よく聞かれる。かれこれビデオカメラを持って旅に出始めて、15年がたっている。ああ、もうそんなに時間がたったのかという思いと、15年でもっといろんなことができたのにと思うことがある。
製作過程は経験上、必ず壁にぶち当たる。資金をはじめ、取材先の人間関係だったり、取材上の許可や申請、邪魔する連中が現れたり。そもそも対象者とまったく接触できなかったことも。壁に阻まれてお蔵入りした企画が多々ある。
企画がある程度進んでいて、それなりに時間とお金をつぎ込み、7割くらい撮れて、編集も始まっているときに中止になった企画もある。死んだ子の年齢を数えるような感情になる。これまで企画したドキュメンタリーが形になったのか打率で言えば、3割程度か。まだましだ。
それで中止した企画が、別の誰かによって映像化されると、なんか昔の彼女が結婚したような感覚になる。どこかおめでとうございますと素直に言えない。なんというか、自我が邪魔している複雑な状態というのかもしれない。
2018年12月号
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