
文・写真=梅田哲也
言葉が交差する丸いテーブルの上にはワッフルのかけらとチョコレート、バナナに洋梨にナッツとドライフルーツ、特大サイズのポテトチップスがあって、みんな目線をテーブルの上に落とすことなく、お互いの目と目をぶつけあって、ときどき熱を帯びた様子で意見を交わすもんだから、食べ物を掴む仕草もえらく雑で、口元に運ぶまでにナッツやチップスのかけらがボロボロ手からこぼれ落ちてはどんどん散らばって、ハエが一匹やってきてはそのかけらとかけらの間を転々としはじめる。みんなお腹が空いてるんだろうな、気付けばもうとっくに夕食どきは過ぎてしまっていた。話題は2日後にはじまるパフォーマンス公演の細かい細かいディティールに関することで、僕は最初に意見をきかれた時分にある程度の考えを伝えてはみたけれど、正直その点についてはどっちに転がったところでそれぞれに良さがあるというか、それぞれに対して返せるリアクションがあるなとおもえたので、もっと言うならもうどっちでもいいじゃないかという気分もあったので、とっくに話題に飽きてしまって、椅子の背もたれに深くよりかかったまま目線だけハエの軌道を追いつづけていた、無意識のうちに。イングリットはもの静かで話しても声が小さく、鼻から息を漏らすようにフフフと笑うような、佇まいだけでなく一挙手一投足にまで細やかに品のある人で、それぞれの瞳の色が左右で少しずつ違ってるのがなんだかミステリアスな雰囲気の人だな、と感じていた。だから挨拶ひとつ交わすだけでもなかなかに緊張感があるというか、勝手に僕がドキドキしながら通り過ぎるようなことをやっていたのだとおもう。そんな彼女と目が合ったのはハエがちょうど僕の目線を結んだ点の上を通りすぎたときのことで、そこからふたり同時にハエを追って同じ方向へ目線を動かしたことに気付いたこの瞬間、どうやら彼女も僕に対して同じことをおもったのか口元の筋肉がちょっとだけ緩んで、それまで毎日顔を合わせても挨拶をかけあう程度だった彼女と僕の距離をぐっと縮めて、ほんのつまらない日常の会話だって交わせるようになってしまう
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