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文=梅田哲也、雨宮庸介、中尾微々
写真=梅田哲也
湖に水没してしまった旧国道に立つと、背丈よりも高い草むらの奥に赤い鉄でできた線路跡のような橋をちょっとだけ覗くことができた。水はそれほど深くないまましばらく歩いていけそうだったので、長靴の口から水が侵入してこない程度にじゃぶじゃぶ歩を進めてゆくと、道の中央分離帯のようなところに車のエンジンらしきものが沈んでいるのをみつけて、車からエンジンだけが飛び出してしまうわけないので、これはきっとこの辺り一帯が水没してしまったあとで、誰かが処分に困ったエンジンを橋の上から放り投げたのだろうと推測した。それにしてもなんだ、水没した道路の上に、赤錆で覆われたエンジンが沈んでいるというこの状況は。そもそも、国道が水に沈んでいるという、この状況は。はるか頭上に架かっていた橋からは、ときどき妙な金属の破裂する音がきこえる。日中との温度差がそうしてるのかな。同行した小田原さんは、前日の異常気象で薄く張った氷の上を歩こうとして、片足を濡らしてしまったらしい
たとえば高速道路の下を流れる東横堀川の中間の、絵に描いた稲妻のようにぐいっと曲がった箇所にはかつて河童はいると噂されていたのだそうです。こんな濁った堀川に河童が住んでいるだなんて夢のある話だなあ、なんておもうわけですが、これにははっきりとした由来がありました。大阪にはかつてガタロとよばれる人たちがいたというのですが、これは落語の代書屋という噺のなかで、金網で川底のものをごそっとさらう仕事でんがな、と説明される商売のことで、中国地方や関西の一部では河童のことを河太郎(ガタロ)とよぶことから、この場所には河童がいる、という伝説へとつながっていったのだそうです。川底のものをごっそりさらって売る商売ときいてまた思い当たるのが、砂舟でしょうか。うちとこのおばあちゃんとお父さんはむかし砂舟の仕事しとったんや。砂舟ってわかる?セメントに混ぜる砂を川底からごっそり掘って売る商売のことな。塩がない分、海の砂よりも質がええてゆうて、大阪では今でもこの商売が残ってんねんで。おれの船をつけてる造船所のところに砂山みたいなんつんだごっつい船いくつか停まってるやろ。あれがその船やねん
まあ、その、そうですねえ。やっぱり、滑り台をつくろうかとおもうんです。兄ちゃんはそんなのなくてもいける、てゆうんですけど、まあ僕はシロウトなんで、直滑降はむずかしい、というかまあ、十中八九、転覆するとおもうんです。だから、滑り台をつくることで、着水が楽になるとおもうんですよ。そうじゃなかったら、防波堤からいきなり急角度で落下することになるので。そもそもこんな高いところからいけるか、ていう疑問もあるにはあるんですけど、まあ、兄ちゃんは大丈夫てゆうてます。けどまあ、滑り台をつくったところで、それも僕はやったことがないので、まあ、十中八九転覆するとおもうんですけどね。だから僕はその、そうですねえ。やっぱり船に引っぱってきてもらおうかと考えてるんですけど。そのほうが簡単なんじゃないかと。となると、滑り台はなんのためにつくるかってことなんですけど、それは、まあ、その、そうですねえ。まあ、兄ちゃんも、ないよりはあったほうがいいとおもいますし、僕も、会期中どこかのタイミングでやれるようになるかもわかりませんし。とりあえず作っとこうかな、とおもいまして。まあ、やったことないんで、わからないんですよね。結局のところ。どっちに転んだところで十中八九転覆するんで。大半が、あそこのハシゴにつかまって、船から水を抜く作業になってしまうかもしれない、ということです
船のツアーなんで当然船を出さないことにはつくれないような内容でもあるのだけれど、船にのれる機会なんてそうそうつくれるもんじゃないので、実際のところは思考実験のようなことを繰り返しながら内容を組み立てていくわけです。去年なんて本番まで思考実験しかやってないのだから。でも今年は、去年の経験というものがひとつ蓄積されているせいで、こんなにも違うかってくらいに具体的な経験則として身に付いたものがあって、経験には遠く及ばない想像力の小ささをおもい知るわけですが、一方ではやはり深みにはまったまま浮き上がってこない去年の記憶を、自分の意識ごと水没させてしまうことで身体に馴染ませてから、また浮かび上がってくるような行程の快感があったりもするわけです。でんでんでんでんでんでんでんでんでんでんでんでんでんでんで~。ぼく雨。わたし雨。くもり空はきいてなんかくれない。ぷんぷん!、、、、、、、ハイ!でんでんでんでんでんでんでんでんでんでんでんでんでんでんでんでんでんでんで~。ぼくくもり。わたしくもり。はれたそらはさいてなんかくれない、、、、、、ハイ!てばなした空をわたしはおもう、すいちょくせんの角をまがりそこには大きなあやつり人形ルルルル
今更聞くのもなんですけど、これ使っていったい何しはるんですか。使うのはかまいませんけど、あの上に登るんやったら、かならずヘルメットをかぶって安全帯をつけてくださいね。あと注意してほしいのは、もう長年放置したままなんで、カラスが巣をつくっとるんですよ。今は飛んでませんけど、ほら、あそこにまあるいのがみっつあるでしょ。あいつらがね、登ったときにアタマつつきに来よるんですよ。ほんまに怖いんでね。気をつけてくださいね。大丈夫です、安心してください。この土も、木も、声も、ことばも、ここにいま見えている風景も、ただ水に沈めるだけですから。いまあなたに語りかけている、このわたしは、あなたの目の前にたっている、わたしよりも、一年前の、わたしです。これより、しばらく、わたしから、あなたへ、ときどき、おもいついたことを、話しかけたり、話しかけたり、話しかけたり、話しかけたり、はなしかけたり、はなしかけたり、はなしかけたり、はなしかけたり、はなしかけたり、はなしかけたり、はなしかけたりいたしますが、お返事は、いただかなくてもけっこうですし、適当に聞き流していただいてもかまいません。もうええわ、ちーくわイエット!
な、ちーくわいえっと、ええやろ。おやすみグッナイ。がんば~。小さいとき、なんになりたかった? わたしもう、目的地を忘れてしまいました
どうもこんにちは。美術家の雨宮です。これは誤植じゃないです。今は2016年の11月の終わりの午前2時。今ちょうど夜の大阪の街を片道一時間ぐらい自転車で梅田さんと一緒に下見してきました。自転車のせいで脚はやられてしまいましたが、打ち合わせは続いています。Webの変更についてデザイナーさんと話したのち、今は工務店さんと発着場の事や機器のセッティングについて電話で話しこんでいます。
この連載を梅田さんが書いている事は前々から知っていましたし、ここ数日の間でもこちらのボートツアーの事で走り回りながらも、
「文章の締め切りが近い」
「締め切りに間に合わなそうだから知り合いの中学生に代筆を頼んでみた」
「なんとか間に合った」
「間に合ったと思っていたけれど、こともあろうかヌートリアの話は去年も書いたらしいので書き直さなければならない」
というファニーな展開は聞いていました。
「これまで原稿が間に合わなかった事はないけれど、初めて落としてしまうかもしれない」
と自転車で言っていたので、ふと
「それ、僕がつづき書きましょうか?」
と申し出た、というのが事の次第です。ちょうど今、そのボートツアーの制作をするため、大家さんの特別なはからいで梅田さんの住んでいる部屋の廊下を挟んだ反対側に部屋をとってもらっています。僕の今回の役目はもう一艘の船に乗り込むという、ある種デュプリケート(重複)する存在になる事だと思っています。
なので2つ目の梅田さんの部屋にいるのは理にかなっている。
2時に人の書くべき原稿を書いているのでさえも理にかなっている時だってある。
ヌートリアは大阪の海で2度吠える。
ベルも2回鳴らす。
2つの大きな川を結ぶ直径3メートルの2本のパイプ。
それぞれ違う会社が作っているという。理由はわからない。それらは総長何十キロもあって、水量の調整に使われる。そのパイプの中に水を通す実験のため、そのパイプを眺める役割を引き受けた。地下室に巨大な2本のパイプと自分、そしてインターフォン。いざ水を通すと、ウォーターハンマー現象という名の、変圧によりパイプの中を大勢の人がハンマーで壁を叩きながら移動するような音がする。恐ろしい。
「なにか異常があったらそこのインタフォンで知らせて」
って言うけどな
「なにが正常でなにが異常か、こっちにはわからんぞ。そもそもこんなもん、なにかあった瞬間にアウトだろ。」
って思ったけれどなぜだか言わなかった。
《7つの船》
開催日:2016年12月1日(木)~4日(日)/9日(金)~11日(日)
出航時間:①18:00/②20:00 ※①②それぞれ、本船と裏船の2便が出航
集合/出航場所:[上り]名村造船所跡地奥 船着場/[下り]本町橋船着場
チケット:3,000円(ホットドリンクつき)
アーティスト:梅田哲也、さわひらき、雨宮庸介、Hyslom、松井美耶子、辰巳量平 ほか
ケータリング:コサメ ほか
写真:西光祐輔
映像:小西小多郎
梅田哲也(うめだ・てつや)
国内外の美術館およびオルタナティブな空間におけるインスタレーションを発表するほか、音楽やパフォーミング・アーツの現場で活動。その他の近況、活動については→UMEDA TETSUYA Homepage
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