boid社長・樋口泰人による業務日誌ときどき映画&妄想日記。鬱と幻聴の中で再刊される『地球に落ちて来た男』(ウォルター・テヴィス著/古沢嘉通訳)を読み続けた11月前半の日記では、新千歳空港国際アニメーション映画祭や、『聖の青春』(森義隆監督)や『マイ・ベスト・フレンズ』(キャサリン・ハードウィック監督)のことなどが綴られます。



文・写真=樋口泰人


 11月はほぼ毎日、『地球に落ちて来た男』の原作本を読んでいた。来年早々、再刊されるのだ。その解説を書くことになったのだが、読み始めると先に映画を観ているためか、あるいは文体によるものなのか、「作品」を読んでいるような気がしない。映画に出て来たあの宇宙人が毎日側にやって来てあれこれつぶやいている、そのつぶやきを毎日聞き続ける。それに伴って彼の周りのさまざまな人たちの話も聞く。小さな物語がいくつも聞こえて来ては消えていく。ただそれだけの日々を送った。そんな小説だった。燃え上がるような大きな物語があるわけではない。単にそこに何かがいて大したことはない何かが起こる。それで十分。だから読み終えると寂しかった。このまま死ぬまで付き合って欲しかった。通常の映画や小説はこういう散漫さを恐れている。寂しくなって、レコードを買い始めた。大したことが歌われていなくていい。そんな歌でもいつかふと思い出すときがある。それでいい。

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