いつもまだ日本で公開されてない注目作をいち早く紹介してくれる映画批評家の大寺眞輔さんが今回取り上げるのは『Aferim!』(ラドゥ・ジュデ監督)です。2015年のベルリン国際映画祭で最優秀監督賞を受賞した本作は、19世紀初頭のルーマニアを舞台にした西部劇。地主の妻と姦通したロマ族の奴隷を捜索する官吏親子の旅を通して何が描かれているのか、その物語や演出について大寺さんがじっくり解説してくれています。
文=大寺眞輔
『Aferim!』は、19世紀ルーマニア南部ワラキア地方を舞台に、モノクロ・シネマスコープサイズ(1:2.35)の35ミリフィルムで描かれたルーマニアン・ウェスタンである。ジョン・フォード『捜索者』をはじめ、西部劇ではしばしば好んで取り上げられてきたコミュニティからの逃亡者とその追跡・捕獲、共同体の秩序の回復といった主題が描かれている。これが長編三作目となるラドゥ・ジュデ監督の狙いは、共産党政権時代あらゆる資料から削除・隠蔽され、ルーマニア映画でもこれまで描かれることがなかったロマ族(北インド出身でヨーロッパに北上したジプシー民族)への迫害と奴隷制を正面から主題としつつ、その悲劇の歴史をシリアスなドラマとしてではなく、殆どオーソン・ウェルズ的なコメディとして語ることにある。その哄笑は、映画が取り上げる固有の時代と場所を越え、現代を生きる私たちの世界の差別と暴力にまでダイレクトに差し向けられた寓話となっている。
2018年12月号
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