
ユーリー・ノルシュテイン『話の話』
ユーリー・ノルシュテインと2016年のアニメーションのこと
文=土居伸彰
2016年が終わりを迎える。今年はアニメーションが盛り上がった年だと巷で言われてるが、はたしてアニメーションにどっぷり浸かって、というかアニメーションで生きている人間からするとどうかといえば、たしかにそうだったと思う。今年は盛り上がった。
世間的には、まず『君の名は。』があって(その前フリと言ったらアレだけど『シン・ゴジラ』があって)、『この世界の片隅に』があって、この二本がとんでもない盛り上がりと刺さり方をしているので、今年は長編アニメーションの当たり年だと言われる。そこに『聲の形』を加える人もいる。(僕は実は上記三本では『聲の形』が一番グッときたかもしれない。ハーツフェルトが好きな人は観たほうがいいと思う。)
海外作品を加えると、2016年の盛り上がり感はさらに高まる。ディズニーは『ズートピア』があった。これも途方もなく面白かった。ビックデータに基づいたフィクション、みたいな感じがあった。カスタマイズがきっちりされて、面白いと思える要素が全部詰め込まれて、圧倒的に面白いというか、怖ささえ感じた。(その怖さは『君の名は。』にも感じたのだが。新海誠は「思想のない」アニメーション作家なのだなあと……『ズートピア』と『君の名は。』のヒットによって、なにかのストッパーが外れたような感じさえする。変な話、インディペンデントに何かやるべきことは残されているのか、とさえ思った。)
古くから短編やオルタナティブな海外長編を観てきた人にとっては、マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィットの『レッドタートル』もあった年だ。スタジオジブリが製作に入ったこの作品は、正直なところ面白くはなかったし、2000年代の短編アニメーションブーム(知らないかもしれないがそういうのがあったのだよ!)を支えた彼が、いざ長編を作ったとき、結局よくわからないままに怯えて終わってしまったように思えたことは残念だった。(彼のナイーブさだけが増幅されてしまった感じ……)
一般的に考えられる「2016年のアニメーション豊作」の眼中にはまったく入っていない感アリアリだが、世界のインディペンデントも盛り上がったと思う。今年の日本では、『父を探して』(アレ・アブレウ監督)や『明日の世界』(ドン・ハーツフェルト監督)といった棒線画系の作品や、『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』(トム・ムーア監督)も公開された。前者2本はニューディアーで配給しているので手前味噌感はんぱないのだが、どれも海外インディペンデントの最良の達成とみなしてよい水準のものだ。『ソング・オブ・ザ・シー』は見逃している人が多い気がするけれども(とはいえ『父を探して』よりも動員あるのですが)必見です。
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