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2017年04月号 vol.1

ヒスロム日記 第15回

2017年04月09日 10:11 by boid
2017年04月09日 10:11 by boid
ヒスロムの先月の活動を写真、テキスト、動画で記録するヒスロム日記。今回は2月初旬から3月初旬までの雪深い地域での活動記録です。青森県立美術館での展示のために昨夏に飛騨市の数河峠に埋めた木の根っことコンクリートの型を掘り出し、軽トラックに乗せて青森へ。雪風吹きすさぶ八甲田山の麓では2週間小屋に滞在し、三内丸山遺跡では地元の馬主の中野渡さんとともに馬に乗りその地での作品制作をしたようです。ぜひ映像記録もご覧ください。





文・記録=ヒスロム
写真=内掘義之



2月6日(月)〜11日(土) 高山建築学校にて

軽自動車を2ヶ月レンタカーし、できるだけ荷物を選び抜くが、車はパンパン。京都から出発。
どんどん雪景色に変化していく。車はまったくスピードが出ない。1車線の道で後ろに他の車を詰まらせながら、高山建築学校、岐阜県飛騨市の数河峠へと向かう。日本でも有数の豪雪地帯で周囲には多くのスキー場があり、昨年ヒットした映画、新海誠監督「君の名は。」の舞台にもなっている地域。
ヒスロムは建築家の岡啓輔さんに誘われ、2015年からここに来るようになり、昨夏、ヒスロムの大事な1本の木の根っこ部分をコンクリートで制作し、土の中に埋めた。(ヒスロム日記、第13回高山建築学校参照)
これから、雪で見えなくなった埋めた場所を探し当て、雪を掘り、土を掘って。しっかり固まった根っこと、その型枠を取り出す。
その後、掘り出した根っこを持って、青森の八甲田へと移動する。約1ヶ月半、冬国での制作、生活。

建築学校の隣に住む、宮田保さんに挨拶に行き、雪かき道具、雪用のスコップとスノーダンプを借りて、岡さん、ヒスロム、ボリさん。保さんで、雪に埋もれた建築学校までの道を造る。
高山の雪はふわふわで柔らかい。しんしんと雪が振る。1メートル50センチは積もっている。
様々な人が造った、建築物、造形物は全て見えない。もっこりと、雪がユニークに積もっている辺りは何かがあるのだろう。
仙台から林剛平さん一家が軽トラで来た。2人乗りなのに剛平さん、奥さんのゆりかさん。子供のたよう(太陽)と屋久島の屋久犬のむぎ。
大人2人、子供1人、犬1匹。これで仙台から岐阜まで下道。
この冬の生活に備えて、薪を造って準備してくれた、山口ゆうきさん到着。
後にゆうきさんの幼なじみ、宮さんが来る。20年振りに、ゆうきさんに会いにはるばるここまで来た。
前に別れた時、自分がどんな人生を歩か、決心したら会って話すんだと決めていた。 たまたまだけれど、今回がその時なんだよ。と宮さん。じっくりゆっくり話せるまで、僕も皆とここに居ます。
雪に覆われた、古い木造家屋で薪ストーブ。なんだか、時代、時間が分からない。特別な場所での生活が始まった。

夏、埋めた場所にはポイントを付けていなかった。
この辺りちゃうかな!?各々予測するポイントへ、にんじんを投げる。
夏の記憶、見えなくなった風景を思い返す、雪がなければ?あの木があそこで、これが、あれやし、だからあそこか点。
風景の変化、見え方は想像を越えていて、分からない。とりあえず、だいたいの範囲を決めて雪を掘り出し始める。
白。雪。雪、掘る。掘る。地面に置いた目印が見つからない。何か、出て来た。でかい石。この石、なんか見覚えある。
これが、あるってことはこの辺り。いや。見当たらん。違う石かな。地面が出ても、白い雪で直ぐに隠れてしまう。
白、茶色、黒色。茶色の範囲を広くしていく。翌日。昨晩から30センチは積もった。全部、白に戻る。
掘ったのに埋まる。また掘る。茶色を増やす。雪振る。ゆっくりとまた白く変わる。

でっかい氷柱を舐め回しながら早稲田建築学生2人組、松木と高野たいきがやってきた。
昨夏、彼らと一緒に、夜中から朝までコンクリート錬って、根っこを埋めた。
やっと見つかったで。この下にあるはず。こっからは速い。どんどん進む。
これ、ほんまに木の根っこ?自分たちで造って置きながら、雪の下から土の下から掘り出したこの物体は、巨大な隕石に見えてくる。

総勢、12名と犬1匹。
薪ストーブを囲む。食事に必須なのは、宮田保さんが作る、七味唐辛子。たもっちゃん南蛮。
これはけっこう辛い。何にでも入れられて何でもその味に寄り添う。様々な乾燥させた素材が入ってる。
雪国の人は自家製の食べ物を多く造っている。軒先には色んな食材が干してある。
しかし、寒い。焚き火スペースをもう1つ造る。竹は煙が出なくて赤く良く燃える。ゆうきさんは火起こしのスペシャリスト。独自の火付け方法で火種に息をピンポイントで勢い良くあてる、指使いを取得している。
その方法を教えてもらう。竹の内側にあるとても薄い皮は、焚き火の蒸気でふぁっと舞い上がる。高山の雪みたいにゆっくり落下してくる、火の近くに来るとまた蒸気でスーっと、黒く大きな梁がある天井まで上がる。
これを見て4歳になる、たよう(太陽)は「魔法のじゅうたん」と名付けた。

皆で巨大な固まりを揺らしながら、遊びながら。根っこの型枠をはずす。
ボロボロ型枠が取れていく。ぼんやり根っこの形が見えて来た。
これでやっと、造成地で切り出したなんでもない杉の木が一本になるはず。
昨年、秋に八甲田の牧場に置いた、根っこの上の部分。
木の先っぽまでの生木を雪の中から全部、掘り出せれば。

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