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文=渥美喜子
お決まりの「黒い画面」と「マッチョなロゴ」から始まる『レゴ®バットマン ザ・ムービー』は、めちゃくちゃ可愛らしいレゴ映画、以外に、アクションヒーロー映画として、ふたつの重要な問題をクレバーかつ感動的に解決している。そして過去のバットマンシリーズ(特に『ダークナイト』か)への気の利いたアンサーにもなっており、ただのバットマンパロディーと思ったら、大間違いだ。
冒頭、あのゴッサムシティを相も変わらず破壊しようとジョーカーが大暴れ、そこに登場するバットマン(は、全部レゴⓇです、当然)。期待通りにふたりは対決するのだが、そこでジョーカーの発する「お前にとって一番の敵は俺だろ?」というセリフに対し、バットマンは「いや、別に。」とつれなく応える。その言葉が信じられないジョーカーは、何度も、「でも俺だけは特別だろ?」と問い直すも、「俺は誰とも特別な関係をもたない。」と突き放すバットマン。そのやりとりのあいだ、みるみる涙目になっていくジョーカーは本当に可哀想で、「はっきり言葉に出して"憎い”って言って!」と駄々をこねる姿は、振り向いてもらえない恋人に愛を求める人間そのもののようだ。
ここでこの映画は、みんな(観客)が薄々感じていた、ヒーローと敵のつながり=相手がいないと存在できないんじゃないか、という共依存的な関係(ルパンと銭形警部、みたいな)をあっさりと暴露してみせる。そのこっけいさを描きながらも、しかしその直後、バットマンが狂乱の街中から静かな大豪邸に戻り一気に日常に戻る瞬間(電子レンジの描写が秀逸)、ひとりであることのヒーローの孤独もしっかりと感じさせるのだ。
しかし自分では自分が孤独であることを頑なに認めず、誰の協力も拒否し続けるバットマンの元に、ひょんなことから養子として後のロビンが現れる。最初は「使い捨てだ」と邪険に扱っていたバットマンだが、行動を共にするにつれ、彼を「誇り」に思いはじめる。つまりヒーローと敵ではない、正常な人間(?)関係を築きだす。それは、家族であり、仲間であり、友情である。だんだんと、自分が「守っている」と思っていたものに、実は「守られている」と気づくのだ。
最近のアメリカ映画(特にコメディー)に顕著に見られる、血縁関係のない家族の可能性がここでも語られるのだが、バットマンに家族をもつよう助言し続けるアルフレッド(執事)や、バットマンに警察との連携を呼びかけるバットガール(新本部長)との関係もそうだと言えるだろう。

バットマンの意固地さのせいでなかなかうまくいかない彼らが、それでもラストには、4人で「家族写真」を撮る。その姿と、「Friends are Family !」と歌い上げるエンディングテーマが流れる時間には、いろんな感情が絡まり合って、涙を流さずにはいられない。
前作『LEGO®ムービー』にあったような、レゴⓇを通して世界を俯瞰するようなメタ構造こそないものの、今作は、実写映画でやるには少々シリアスになり過ぎるような内容を、レゴⓇアニメだからこそ楽しめる世界になっている。
お話の結末は、レゴⓇでしかあり得ないカタチでゴッサムシティが救われて、みんなハッピーにエンドする。
ほとんど二頭身のヒーロー、大富豪であることを自慢し、ヘヴィメタとラップが好きで、密かにラブコメ映画を見るのが趣味(お気に入りは『ザ・エージェント』)。日本の宣伝ではやたらと「かまってちゃんヒーロー」という言葉が多用されているが、かまってちゃんなのはむしろジョーカーの方で、バットマンは、両親を亡くしたというトラウマを引きずりまくりの典型的なこじらせ系ヒーローだろう。そんな情けない姿が、だんだんとかっこよく見えてくる、その点もこの映画のすごいところだ。
バットマン以外にも、有名なDC(「バットマンで荒稼ぎした会社」)のキャラクターたち総出演(スーパーマンからスーサイド・スクワッドまで)なうえ、グレムリンやキングコングや『ロード・オブ・ザ・リング』のサウロンまで、悪役も超豪華(レゴⓇだけど)で、大人のアメコミファンにも退屈させないサービス精神。
私は字幕版と吹き替え版の両方を見たのだが、どちらもそれぞれに楽しく、特に吹き替え版ではバットマンが活躍するシーンに周りの子ども達が歓声をあげたりしていて、とてもよい雰囲気だった(ロビン役の小島よしおも健闘していたように思う)。
映画のヒーローとしてのバットマン、コミックのキャラクターとしてのバットマン、そして映画としてのバットマンについて、お決まりの「白い画面」で閉じるこの作品は、新しいバットマンを見せてくれる。

2017年 / アメリカ、デンマーク / 104分 / 配給:ワーナー・ブラザース映画 / 監督:クリス・マッケイ / 脚本:セス・グレアム=スミス、クリス・マッケナ、エリック・ソマーズ、ジャレッド・スターン、ジョン・ウィッティントン / 声の出演(字幕版):ウィル・アーネット、レイフ・ファインズ、ザック・ガリフィアナキス、マイケル・セラ、ロザリオ・ドーソン / 声の出演(吹替版):山寺宏一、小島よしお、オカリナ(おかずクラブ)、ゆいP(おかずクラブ)
大ヒット公開中!!
公式サイト
渥美喜子(あつみ・よしこ)
東京渥美組代表取締役。映画ライター。「シネ砦」編集長。2005年に開設した自身のサイト「gojo」で映画日記を執筆中。『森崎東党宣言!』(インスクリプト)のほか、女性カルチャーサイト「messy」、雑誌「映画芸術」「ユリイカ」などに寄稿。4月末発売の「映画横丁」4号にて「名画座かんぺ」発行人・のむみちさんとの対談が掲載される。
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