boid社長・樋口泰人による業務日誌ときどき映画&音楽&妄想日記。3月中の事務所移転を決めたもののまだ見つかっていなかった新事務所がようやく決定した3月11日~20日の日記をお届けします。『バンコクナイツ』(富田克也監督)のサウンドトラックCDや『クーリンチェ少年殺人事件』のムジーク爆音上映の話も。

文・写真=樋口泰人
牧野貴くんの新作上映から始まって『クーリンチェ少年殺人事件』のムジーク上映で終わる3月なかば。相変わらずだがむちゃくちゃ忙しかった。無茶だと誰もに言われ、絶対できないと誰もが思っていたはずのboidの引っ越しのため、ついに新事務所も見つけたり、しかも引っ越し業者が超繁忙期でまったく捕まらないため、これまた無謀にも自力引っ越しを決めたりした。自力での引っ越しなんて、いったい何10年ぶりか。元トラック運転手である富田克也他空族メンバーと、引っ越し無理やり強行を私の忙しさを無視して俄然推し進めた某編集者がいなかったら絶対にできなかった。感謝しかない。最低の状況に陥れば陥るほどどこかから何かの使者のような人たちが現れるという自分の強運を改めて感じた。もちろんまだこの時点では、引っ越しができるとは思っていなかった。いつでも辞めてやると思っていた。
3月11日(土)
嘘のように暖かな1日だった。猫様も日向ぼっこを楽しんでおられた。

そして庭園美術館の木々もすっかり春になっていた。

牧野くんの新作は、本日はジム・オルークの演奏によるもの。前夜は『スター・ウォーズ』絡みのあれこれが見えたり、魚の群れが見えたりと、いったいどうしてそうなるのかまったくわからない驚きでニコニコしていたのだが、この日は、もっとダークなものになった。音によって、自分の無意識のダークサイドを引き出されてしまったということになるのだが、まあそれでも単に『ノスフェラトゥ』の黒い影とか巨大コウモリの腹とか、これまたわけわからないものが頭上を通り過ぎていくわけだから、ダークサイドといっても大したことはない。そんな大したことはない人間でも、十分に壮大すぎる人生を見てしまえる数10分だった。自分と映像と音楽とが混ざり合いながら、自分の思いもしない広がりを体験できる。こんな味を覚えてしまうと、通常の劇映画はつらい。大概の映画がつまらなく見える。だがだからこそ映画を見続けるのだとも言える。山ほどのつまらない人生とともに生きているのだし。それで全然OK。
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