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2017年04月号 vol.4

『宇宙の柳、たましいの下着』放浪篇 #26 (直枝政広)

2017年04月29日 01:18 by boid
2017年04月29日 01:18 by boid
カーネーションの直枝政広さんがオーディオの工作や改良に奮闘する日々の中で出会った音について綴る『宇宙の柳、たましいの下着』放浪篇。オーディオのお師匠さんであるA師匠の情報で、リム・ドライヴ(アイドラー式)のターンテーブルの出物があることを知った直枝さんは、オークションで早速落札、初めてアイドラー式ターンテーブルを手に入れます。汚れもなく、ちゃんと音も出ることにほっとしたのも束の間、細部を改良すべくA師匠に助言をもらいつつメンテナンスに取りかかりますが、その作業は思わぬ緊張と発見の連続で――




星空のリム・ドライヴ


文・写真=直枝政広


 先月、A師匠からアイドラー式(リム・ドライヴ)のターンテーブルの出物があるという連絡を受けた。御自分でも最近までメインで使っていた機種、CECのSTP-92とのことだった。プレーヤーにはモーターの回転数をレコードと同じ速さに下げ、モーター軸そのものでターンテーブルを回すダイレクト・ドライヴ、1本のゴムベルトでモーターとターンテーブルを結び駆動させるベルト・ドライヴ、そしてモーターとターンテーブルの間にゴム・タイヤ(アイドラー)を入れ、回転速度を落としながら駆動するリム・ドライヴがある(修繕でどたばたを繰り返した謎のベルト・ドライヴ式プレーヤー「JP」については以前このエッセイでも紹介してます)。ゴムベルトはモーターの振動を防止し、ターンテーブルに有害な振動を与えないところが長所。リムの場合もモーターに欠陥がなければ力強いダイレクトな再生が可能だ。ただ、要となる部品が消耗しやすいゴムであることや、日本では関東と関西の周波数(50Hz/60Hz)に違いがあるため(再生速度に問題が出る)、地域に合わせたモーターやそれに見合ったプーリーが必要であるという面倒もある。それらは国産の古くて安価なプレーヤーに多く存在するが、ヴィンテージ・オーディオの中でも人気の高い高級機種のガラードなどはアイドラー式である。音にコクと深みがあるということだろう。ぼくはこれまでにベルト・ドライヴとダイレクト・ドライヴしか体験してこなかったから、リム・ドライヴがどういう音をだすのかとても興味があった。
 いつものネット・オークションである。「関東からの出品なので周波数は50Hzだと思いますが絶対とはいえません。肝心の周波数に関する質問がないのは、それがわかると入札が増えて値段が上がってしまうかもと考える人がいるからでしょう」。A師匠はいつも掘り出し物のいい情報をくれる。とはいえ回転速度はもっとも重要な問題となる。「賭けですね」とはいいつつも前回のベルト・ドライヴの時にプーリーの磨きとゴムの調整で再生を甦らせた経験があったし、今回は運にまかせてみようと心の中では覚悟を決めていた。「アイドラー式でアームがユニヴァーサル・タイプって意外とないんです。カートリッジ交換ができないものの方が多くて。その点これはユニヴァーサルだし、オート・リターンなので使いやすいんです。プラッターがアルミで30センチのアイドラー・ドライヴもありますけど、やはり値段は結構しますから」。レコードを置く部分のプラッターの重さが音に深みをもたらすと言われている。もちろん上位機種は金さえあれば何とかなるのだろうが、ここはリム・ドライヴの入門者として謙虚にこの出会いを楽しみたい。最終日にはお約束のライヴァル出現。値段は2万円を超えたが、なんとか意地で入手した。「値段、結構いっちゃいましたね。リム・ドライヴはモーターのゴムがヘタっているとうまく回転しない場合がありますが、今回のものは回転確認済みとのことだったので大丈夫でしょう」とA師匠。動作は確認済みとはいえ、音質がどうかわからないものに金をつぎ込むのだから相当な好き者じゃなければありえない。「またこれはboidマガジンのネタになるはずです」と告げると「大ネタですね」という返事が来た。
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