
文・写真=桜井鈴茂
春もたけなわ。みなさん、いかがお過ごしでしょうか?
ぼくは……いや、おれは……かなりマズいことになっている。前回はたしか、ここしばらく抑うつ状態が続いている、春がやってきたというのに晩秋のクソさびれた海岸にへたり込んで棒切れで湿った黒い砂を穿り返しているような気分だ、しかし、藁にもすがる気持ちで入手した他人のリアルな不幸話を読んだことで、ようやく上向きになってきたぜ、サンキュー他人の不幸、みたいなことを書いたはずだけど……やっぱ、ダメだった。ハローアゲイン、ユウウツ。
というか、この数か月というもの、締め切り仕事に追いつめられて発狂しそうか、何にもやる気がしなくて発狂しそうか、ほとんどあらゆる事象にむしゃくしゃして発狂しそうか……だいだいそのどれかなのだ。まあ、発狂、というのは少々乱暴な、あるいは幼稚な物言いだろうけど、しかし、穏やかな、満たされた、ピースフルな気分でないことだけは、というか、暗く、重く、ささくれ立った気分であることは、確かである。
本エッセイに書いたかどうかは忘れてしまったが(バックナンバーを読み返せば、すぐにわかるだろうけど、今のおれはそんなことをする気にはとうていなれません、悪しからず)、生活の場を郊外から都心に準ずる地域に移した去年の初夏から、おおよそ初冬くらいにかけては、概してピースフルな……いや、ピースフルは言いすぎだとしても、少なくとも、まあまあな気分で日々を過ごしていたはずなのに、どうしてこんなことになってしまったのか。とくに何があったとかではないはずなのだけど。忙しいこと自体はちっとも悪いことではないし――とりわけ、仕事量がほぼ収入増に直結するおれのような職業の場合は(つーか、デリヘル嬢もタクシー運転手もそうだけどね)。比較的ピースフルな気分というのは、つまるところ、生活環境を変えたことによってもたらされた束の間の、ようするに、旅先とかで経験するような、高揚に過ぎなかったのか。新鮮だったはずの情景はまたしてもくすんだ日常の中へと溶け込んでしまったのか。結局、おれはサバーバンではなくとも、なんらかのブルーズの中に、ずぶずぶと沈み込んでいく運命なのか。そういう気質のしみったれ男なのか。
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