今週の映画川は、香港のアクションスター"デブゴン”ことサモ・ハン(洪金寶)が約20年ぶりに自ら監督を務めた『おじいちゃんはデブゴン』を、荻野洋一さんが紹介してくれます。かつて人民解放軍の要人警護エリートであり、孫娘を誘拐されてしまった暗い過去を持つ孤独な老人が、近所に住む少女の命を救うためにひとりでマフィアに立ち向かっていくという物語が描かれる本作。荻野さんはそこにサモ・ハン監督による自己総括とカンフー映画の歴史的検証が盛り込まれているといいます。
これはサモ・ハンにとっての『グラン・トリノ』だ
文=荻野洋一
香港カンフー映画の正統を体現する甄子丹(ドニー・イェン)主演『葉問』シリーズの最新作『イップ・マン 継承』(2015)がこの春、日本でようやく公開された。「ひょっとして日本公開されないのではないか」と心配していたところだった。ところが今回、アクション監督(武術指導)が従来の洪金寶(サモ・ハン)から交代し、『マトリックス』『キル・ビル』などハリウッドでも引き手あまたの第一人者、袁和平(ユエン・ウーピン)がつとめているのが少し気になった。なぜなら、特に前作第2作『イップ・マン 葉問』(2010)において洪金寶がアクション監督をつとめた武術シーンの設計はきわめて美しく、なおかつ洪金寶自身の出演場面の薫り高さは、誰にもマネできない境地に達していたからだ。
もっとも、人間関係のこじれとか、そういう問題でないことは明らかである。甄子丹(ドニー・イェン)は袁和平のもとで修行を積み、袁和平自身の監督作『ドラゴン酔太極拳』(1984)でデビューした、もともと袁一家の一員であって、それに袁和平は中国戯劇学院で洪金寶の同窓なのだから、家族付き合いの中のちょっとした人材の回し合いに過ぎないのだろう。
2018年12月号
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