boidマガジン

2017年06月号 vol.1

樋口泰人の妄想映画日記 その39

2017年11月10日 16:33 by boid

boid社長・樋口泰人による5月11日~20日の業務日誌ときどき映画&音楽&妄想日記です。還暦サプライズパーティで見事に騙され、60歳からがスタートラインということで、名古屋ではラストバウス以来のマーク・リボウのライブを堪能し、京都では爆音映画祭とアナログばか一代と駆け巡った模様です。




文・写真=樋口泰人


 還暦を迎えた。人生初のサプライズ・パーティも体験し、いたずらに盛り上がった5月中旬だった。京都の爆音映画祭もあり、それまでの『PARKS パークス』から一気に通常営業へとシフトした。シフトしてみるとやはりこの感じ。どこかホームに戻ったような気持ち良さや、しかしここからどうするかという物足りなさや、さまざまな思いが渦巻く。引越し後少しは片付けたもののしばらくそのままだった事務所の整理も始めた。早くて半年後、つまり来年明けくらいには少し方向が見えてくるだろうか。何年も前、ガラガラの渋谷クアトロでワイヤーのライヴを見た興奮の中で、ブルース・ギルバートのチェーンソウのようなギターを評して大竹伸朗さんが「ロックは60から」と言っていたのだが、まあ、そういうことだ。ようやくスタートライン。気力も体力もゼロの場所でどうするか。誰にでも大声が出せるわけじゃない。


5月11日(木)
完全に騙された。数日前に土居くんから連絡が来て、木曜日の夕方に新宿あたりで打ち合わせしたいと。その前に武川くんから連絡が来ていて、ちょっと相談があるので木曜日の19時くらいに行きますと。いつも事務所で打ち合わせをする土居くんはどうしてこの日に限って新宿なのか、確かに他の打ち合わせもあるらしいのでboidじゃない方がやりやすいだろうが、よく考えてみると果たして打ち合わせをするような案件なのか? と疑問はあったもののあまり深く考えず。高田馬場の駅に向かう時、月永ともすれ違った。なぜ高田馬場にとは思ったが早稲田松竹に映画でも見にいくのだろうかと、こちらも疑問にも思わなかった。あとから思えばその時月永に何しに高田馬場へ? と突っ込めば、月永のことだから絶対にボロを出したに違いない。土居くんとの待ち合わせに遅れそうだった。

武川くんとの待ち合わせに遅れそうで、慌てて事務所に戻ったら鍵が開いていた。その日は田中さんが休みの日でわたしひとり。鍵を閉め忘れたかと思い中に入ると暗闇の中の風景が違う。やや、部屋を間違えたかと思ったものの、だがよくみるとboidの事務所である。だが風景が違う。それだけで自分がどこにいるのかわからなくなり、呆然とした。数秒くらいなのだろうか、単に馬鹿のように立っていたと思う。いや、予想外のことが起こるとマジで何も反応できなくなるものなんだと今更思うのだが、そんなのはわたしだけか。道路に飛び出し車が迫り立ち止まって身動きできなくなる猫の気持ちがよくわかる。気づかぬうちに猫化しているのか。

まあ、そんなところでクラッカーがパーンと鳴ったのだった。サプライズ還暦パーティであった。土居くんや武川くんの連絡も、田中さんが休みだったのも完全に仕込みであった。まさか自分にこのようなことが起ころうとは。これまでの人生にまったくあり得なかった事態が、今ここで起こってしまったと言いたいくらいの衝撃であった。しばらくは呆然としたままだったと思う。お祝いの鯛の塩釜焼きを始め、その後はいろんなことがあった。しかしその日わたしが、20時以降に誰かと待ち合わせているとか、若い愛人とふたりでこっそり還暦祝いをする予定になっているとか、そんなことは誰も思わなかったのだろうか? よく考えるとそれなりにかなり強引な企画にあっさりとはまってしまう普段の自分の何事もない暮らしは如何なものかと反省もした。いずれにしてもみなさま本当にどうもありがとう。次の機会には、「いや俺、このあと予定があるんで」と爽やかに語り夜の街に消えることにします。


 

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