boidマガジン

2017年07月号 vol.4

特別座談会:Boris最新アルバム『DEAR』(Atsuo×河村康輔×田巻祐一郎×那倉太一)#1

2017年07月30日 22:46 by boid
2017年07月30日 22:46 by boid
国内外で活動を続け、結成25周年を迎えたBorisの最新スタジオ・アルバム『DEAR』リリース記念として、BorisのAtsuoさん、コラージュを手がけたboidマガジンでもおなじみの河村康輔さん、Tシャツを手がけたアーティストの田巻祐一郎さんのスペシャル・トークをENDONの那倉太一さんによる進行で4ページにてお届けします。『DEAR』のアートワークの制作過程や先週行われたレコ発ライブなどを中心に今回のコラボーレションについて話していただきました。
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Boris 最新スタジオ・アルバム『DEAR』ジャケット


『DEAR』の4文字に込められたもの

那倉:今回Borisと河村さんは初めてのコラボレーションですが、最初に認識したお互いの仕事は何ですか?
河村:最初に知ったのはハードコアを聴くようになってからなんで、97年とか98年ごろ。いつもその時代のハードコアの話をよくしていますよね。
Atsuo:俺とTakeshiがTACOS U.K.にいて。植地とか下北沢周辺の連中とやってたChaos U.K.のコピーバンドなんだけどね。
河村: その当時、Borisは『Boris』と『Barebones』のCDを聴いたりしていたけど、10年前くらいに(初期のBorisのアートワークなどを手がけている)植地毅さんから「今はあの二人は出世してね、Borisだよ」と聞くまでそれを知らなかったんです。昔のTACOS U.K.のビデオを見返して、「あれ!?Borisだ」ってわかるという。


TACOS U.K. フライヤー





植地毅氏制作のBoris『Barebones(Split)』ジャケット


Atsuo:俺が河村くんの仕事を知ったのはENDONのジャケット『MAMA』でいいなと思って。それで実際ENDONのレコ発とかで河村くんに会って、他のライブでも度々話をするようになって、今回一緒にやってみたいなと実現したわけだけど。


ENDONファーストアルバム『MAMA』ジャケットビジュアル


河村:今回のお話をいただいて音源を聞かせてもらった時に、ヘヴィロックだと書いてあったりしても未だに俺の中では相変わらずBorisはハードコアバンドだと思いました。
Atsuo:今回のは特にノイズコアだよね。
河村:そうですよね。聞いた時に大好物って思いましたもん。そこから変わらないという。
Atsuo:那倉くんも含めてこの3人はノイズコアの血が脈々と根付いてる感じがするよね。
那倉:歓迎しやすい作風が来たって感じですね。音源だけ聞くとヘヴィ回帰な、ブルータルな感じになっているというのがわかる。なんか悪い感じになった方がみんな喜ぶという。でもこれまでのジャケットだけを並べて見てみても、ロック的にベタを志向しながらも、最も『DEAR』がブルータルな感じなんですよね。Borisはスプリットやコラボは相手方のテイストのものが多くて、自身の作品では結構なるべく余計な情報を盛り込まないで色を使うか、本人たちを使うかっていうデザインがされていて。今回の『DEAR』はガツンとロックな感じじゃないですか、それはBorisとしては初に近いんじゃないかなと。ロックの持つ、力強いのだけれども保守的なイメージに積極的に関わっていってると思うんです。特にドクロというモチーフやMemento Moriという曲があるのも象徴的で、『DEAR』の「D」に関しては王道のヴァニタス感というか、むしろ過剰すぎて無効化しているというか。これまでを振り返ると、アンプというモチーフも四角い建造物という使われ方をしていたし、その他はカエルくらいしかモチーフがなかったんですよ。
Atsuo:数年前くらいから、Tシャツにはスカルを使ってデザインしてもらったりとそういうあえてベタな手法で、という流れもあって、今回は特にロック・マナーでやってみた。ジャケットの『DEAR』の4文字のそれぞれ一文字ずつでTシャツを作りたいという話を最初にしていて。


Boris 『DEAR』ジャケット


河村:そうですね、4種類のTシャツを作って並べるという最初から明確なビジョンというか。
Atsuo:コンセプトの骨格だけね。あとは河村くんのノリでやってもらおうと。すごくいいもの作ってもらって本当に嬉しい。
那倉:どういう素材を使ってという細かいディレクションもなかったんですか?
Atsuo:『DEAR』の1文字ずつが「Death」、「Evil」、「Alone」と「Ruin」の頭文字にあたるといったざっくりとしたテーマ設定はしたね。
河村:あとその文字をどれくらいのバランスでジャケットに乗せるかというのでフォントは指定してもらって、その形に沿って作っていきました。
Atsuo:最初は4文字をダブルジャケットで各面に入れるというアイディアだった。とにかくサイズはLPのアナログが前提で。
河村:僕自身、常に正方形に近いもののサイズ感覚でずっと作っていて。
那倉:今回、結果として出てきたものはすごくロックな王道なものになったのが面白いというのがあるんですよ。Borisはベタにロックの部分を背負ってきているんだけど、僕たちロックじゃないですよっていう顔のジャケットでずっとやってきていますよね。河村さんはコラージュで死とエロというテーマを手遊びのように使っているんだけど、その扱い方ってそのテーマの軽さも重さもどちらも無効化しちゃっているように見えるんです。それを仕事としても、また遊びとしてもチューニングしているというか、近代までの西洋の感覚にある死の重さのイメージまで、現行の自分の手元でチューニングして、Borisが持つ現行のロックマナーへの歩み寄りを「河村康輔」のままうまく結実しているなと思いました。
河村:普段だと、例えばタイトルもらったとしてもざっくり聞くだけで、深いところまでは入っていかないようにするんですよ。その時の感覚だけでイメージを集めて、手の動く感覚でガンガン組んでいくというやり方、まさに手遊びで。でも今回『DEAR』は「D」って書いてその下に「死」って書いて、それを一個ずつ見ながら素材集めもしていて。
那倉:普段よりちょっとシリアスな顔つきが出てきたみたいな?
河村:あんまりヘラヘラしてない感じでね。パーツ数どこまでいってやろうというのがあったし、あと最後の「R」をシュレッダーでぶち壊すというのがあったから、そのためには精度を上げておかないと壊しがいがなくなるというのもあった。久々に異常に細いコラージュを作ったけど、あんまり意味がわからなくなりすぎなかったのが良かったかな。
Atsuo:今回は、河村くん一人に背負わせちゃった部分はある。俺もENDONのプロデュース(『MAMA』)をしたりとか、その流れで河村くんに出会って、いろんな縁がここに結実しているというか。昔、植地とやってたことに影響を受けた河村くんが新しい世代として自分達の25周年のアルバムで一緒に仕事をする。
河村:どこにも格好悪いところを見せれない状況ではありましたね。Atsuoさんに対して「ここで下手なことはできない」、今まで植地さんがやっていたという交差がありそこにも「下手な顔は見せれない」、そして今度後輩のENDONというのが絡んできて「ここにダサい顔も見せれない」みたいな。あと世界中にいるファンたちからの目線もあって。
Atsuo:上からも下からもね。そのチューニングの結果がこの4文字になってる。


落書きだらけの壁に絵を描く感覚

那倉: Borisも河村さんもそれぞれの界隈の中だと異形、異端じゃないですか。その活動の仕方とか仕事の取り方とかもアクロバティックだったりして、同じ部門のシェアを拡大しようとしている同業の方達と同じ形を取っていない。それが今回チューニングを合わせて王道をやったというのが、不思議というか。異端なのにそのジャンルを背負ったような仕事をしたのが面白いなと。
Atsuo:ここの3人てさ、異端なりに文脈をちゃんと持っている3者なんだよね。そこが共鳴しあってこうやって3人集まっているから。
那倉:正当ないわゆる〜史ってあるじゃないですか。この二人だったらロック史、美術史ですね。Borisがフィルモアでやったりルー・リードに呼ばれてオペラハウスでやったりとか、河村さんがブリューゲル「バベルの塔」展の作品(大友克洋と共同制作「INSIDE BABEL」)を作るとかは、そういうのに切り込んでいくような活動ですよね。明らかに史実に接見していて、それを経てのチューニングを感じましたね。
Atsuo:俺は何年も前からロック史の中に自分がいるって思ってやってるからね。
河村:俺はずっとフラフラしている感じでいっちゃってるんで。
那倉:いや、ブリューゲルの仕事はでかいと思いますよ。例えば、会期が近いですがいささか強引に言ってしまえば「アルチンボルド」にだって応用可能なわけです。さっき言ったような、周りに下手なところ見せれないというのって、周りの人たちの文脈が集中しちゃうっていうことじゃないですか? 大げさに言えばその美術史的な文脈も来ちゃう、引いちゃうというか。
河村:すごい複雑なところに今いる感じなんですよね。元々ハードコアのジャケットデザインをやりたくて始めて、それをやってるのがめちゃくちゃ楽しくて。自分で寄って行ってるわけでなく、知らないうちに美術的な仕事とかがやってきて、どっちがベースというのではなく未だにふわふわとやってるんですけど。でも、それこそ『DEAR』は25周年の作品だし、ENDONの『MAMA』もファーストだったり、ブリューゲルも世界で公式でああいう風にできたのは初だし、なんかこうポイントになるところをみんなに無意識でもらっている感じはあるなって。
Atsuo:なんかすごい交差点になってくれるもんね。
河村:そうですか。それはすごく嬉しいです。
那倉:なのに中間管理職的な交通整備とかしないからうざくないみたいな。
Atsuo:ふわふわしているからこそ、制約を周りに与えず、それぞれの最大効果が出るというか、交通整理もされないから爆発力が出る。交差点で何かが衝突してるような。
河村:事故りまくっているみたいな感じですね。
那倉:河村さんは美術史的なことは意識しないんですか?
河村:そんなにしないですね。美術史に興味はあるけど長すぎてね。
Atsuo:ロック史より全然長いもんね。
那倉:なんで聞きたかったかっていうと、どこで地位が上がると嬉しいのかなって。ぐっとくるのかなっていう。
河村:グラフィックだと例えば音楽、洋服とか細分化されたもの全部がミックスされた状態が一番いいなと思って。昔からフラットな状態が一番好きで、区分けしたり横断したりというよりも、もうミキサーでぐっちゃぐちゃにしたノイズの状態のまま上がりたい感じ。ブリューゲルや大友克洋さん、根本敬さんの作品を触りつつも、アパレルもやって、ハードコアやって、ヒップホップやって、テクノやって、ノイズやってアイドルやるみたいな。悪い言い方するとすごく節操ないんだけど、あえてそこで節操ない状態のトップになりたい。
Atsuo:俺らが使ってるキャンバスって落書きだらけの壁みたいな感じ。そこに自分たちの絵をどう描くかみたいな。その落書きだらけの中で三人の目に見えてくる部分が共通していたり、文脈が重なる所がやっぱりある。ENDONは音楽のロックの文脈を大切にして、ロックの落書きだらけのキャンバスの上に自分たちの絵を描いているように見えるし、自分たちもそう。河村くんの場合は、コラージュって元の素材があるからね。
河村:それをどう構築するかというところだから。真っ白なキャンバスに描けない仕事をしてる感覚というか。普通は真っ白なキャンバスに線を引いていくけど、僕はコラージュだから真っ白って元々ない。
Atsuo:今回の『DEAR』って余白を大事にしたアルバムのつもり、自負があるんだけど、その余白と言っても白じゃなくて、ライブハウスの楽屋の落書きだらけの壁に絵を描いてる感じ。
那倉:背景のない世界って存在しないですもんね。ただコンテクストが交差しているのが透けて見えることで安心できる部分が多いわけですかね。
Atsuo:仕事する上ではね。
那倉:二人に共通しているのはノイズとエディットだと思うんですよ。ノイズは3人に共通しているけど、エディットは夜中に作業している二人だけ。打ち合わせとか面白そうだなって思いましたね。意味には変に時間をかけずに、物事を配置することに時間をかけてうまい結果を出す速度感というか。
Atsuo:構造の美で話がどんどん進んでいったりとかだね。こないだツアーの日程を入れたTシャツを河村くんにデザインしてもらって。「BORIS」というロゴを作ろうとした時に、『DEAR』の中で「R」はもうすでに出来ている。その「R」がシュレッダーデザインだったから、じゃあ「BORIS」全文字シュレッダーで作ってもらおうとか、その構造だけで話が進んで、発注した次の日にできてたから。


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