河村:今回は作り手がドンって出したっていうことですよね。このアルバムはこれで聴いてほしいというのがUNITのライブだったという。
那倉:演奏して自己完結してこれで俺たちのロック終わりってことじゃなくて、手に届くところまで隅々まで面倒見てDIYで夜中に作業している人たちという二人のイメージがありますね。再生環境じゃないですけど、間違えがないようにやってある感じが。全部出るように聞こえるように。CDにはCDの、LPにはLPの、ライブにはライブの。シルクにはシルクの。
河村:サンプル盤さえも異常な手の加え方をするというのも今回勉強になりましたね。 今は印刷とかもこだわりがなくなっている状況があって、色校一つでないのも結構当たり前。昔は色校って当たり前に組み込まれていたけど、今は色校はまずもうないから出てくるまで成功か失敗かわからないし、失敗だとしても世の中にばらまかれるという状況。ずっとそれが続くとこっちまで慣れてきちゃって。今回のBorisのジャケットやTシャツはプロダクトとしての感動があって、やっぱり手に持った瞬間にハッとする。
Atsuo:安い印刷がネットで早くできたりと、そんなのばっかりだからね。俺は昔からCMYKがすごい嫌いなの。特色の印刷だとカラーチップと同じ色で印刷されるだろうから、もし色校なくてもまだ安心、自分のイメージが反映されやすいね。
河村:どんどんイメージが薄れていくなかで、ちゃんとそういうのにこだわってやってると、上がってきたのインパクトってこんな差があるんだというのをリアルに感じたというか。
Atsuo:レコードは本当にいい仕上がりだった。美意識の蓄積。感動を生む臨界点というのがやっぱりあって、職人の経験値やこだわりによってそのラインを超えられたって今回は特に思ったね。間に誰かが入ることによって「作品」が「商品」になる瞬間ってあったりするじゃない、そういうことをなるべく排除した状態で今回はやれたから。ものを触ってほしいとか、このもの自体を見てほしいとか発言しやすい状況が今回はあった。

Boris 『DEAR』LP
那倉:そこは二人の元々の趣向として共通している部分。河村さんって時代背景からしてみると、あの時期に紙媒体の雑誌「ERECT Magazine」を立ち上げるとかそういう趣向が強いですよね。
Atsuo:適切と同時に俺らはクールと思ってこれを出しているからね。
那倉:なんだかんだ最後にデザイナーとしてAtsuoさんが構えていることで収束、調整している面がBorisのコンテンツにはありますよね。
河村:いかに手を煩わせないというか。自分の役割だけを一つずつ終わらせていくという。
Atsuo:今ヨーロッパツアーの準備でTシャツを作らないといけなくて、でもクオリティがすごく下がるんじゃないかって不安でしょうがなくて。職人でありアーティストの田巻くんだったから今回はすごくスムーズにいったし。
河村:職人としてあれを出しているんだけど、アーティストの一面も出している。
田巻:アーティストは田巻という名前で、仕事は本名でしているんですよね。完全にそこが別々になっていて。僕の中では仕事は仕事の自分があって、アーティストはアーティストの自分があるからどちらも100%本気で。
Atsuo:そんなバキッて分けられるもんなの?
田巻:分けれるから自分のできる時間内で田巻でいられるというのがあって。そこが一緒になっちゃうと訳がわからなくなっちゃう。逆に自由な時間がありすぎてもずっと田巻でいられるかといってもそんな感じもしなくて。仮面被るじゃないけど。
Atsuo:いるいる。バンドでも仕事をやりながらの方が活動しやすいという人もいる。
田巻:どんっと自由なところに出されても困っちゃう。その間だけだよって。ウルトラマンじゃないけど3分間、そこだけでフルでやるみたいな。そういうのがある。
那倉:見習いたい。
河村:でもTシャツとかにちょっと溢れでる田巻感とかはあるよね。
田巻:それを段々みんながわかってきてくれているのであれば、いいですよね。そこが混ざってくると一緒になっていくのかもしれないですね。
Atsuo:どんどん見たいよね。
那倉:河村さんだとどこまでが本気でどこまでが本気じゃないって見えないぐらいな感じですよね。Atsuoさんはしっかり自分でここからこうで分けています、という。田巻くんはプロデュースが行き届いてるよね。『My War』(毎日Black Flagの「My War」デザインの衣類を着て写真に残すプロジェクト )が強いからね。エンタの神様でBlack Flag芸人って言ったら絶対出てきますね。

『My War』instagramより
Atsuo:日本でBlack Flagを崇拝している人とかわずかだけど、アメリカだったらいっぱいいるからね、海外にどんどん出て行って欲しいな。『My War』RepostしたらBorisのinstagramにもいっぱいコメント付いたし、「This is the best thing」だって。
河村:BorisとかSunn o)))とかね、恐ろしい。Atsuoさんが@つけてツイートとかすると1日30人ペースでフォロワーが増えていって、facebookはSunn o)))がポストすると海外のメタルファンの人たちから沢山友達申請してきて、怖くなって一人ずつとりあえずプロフィールを見て、こいつは人を殺さなそうとか確認してから承認してる(笑)。
Atsuo:あんな毎日着てたら服めちゃめちゃ増えるじゃん。どうしてんの?
田巻:いや、そんなに増えてなくて40種類くらいです。着てるって写真だから。
Atsuo:シャツに刷ったりとかバリエーションも増えてるでしょ。祝い事のバージョンとか、版もいっぱいあるんでしょ?
田巻:あります、でかいのやら、白黒やカラーバージョンやら。
河村:こないだ下北のTシャツ屋で「My War」を見つけて欲しいなと思ったけど買わなかったもん。「My War」と思った瞬間に田巻くんが出てきて、この絵すごい好きなんだけど、俺はこれを着ちゃダメなんじゃないかなって。
Atsuo:俺、ロリンズに連絡取るよ。
那倉:ロリンズに「My War」着てもらってその写真撮るだけのためにアメリカ行こうよ。
河村:ある時、田巻くんじゃなくてロリンズが出てるっていう。
那倉:その次の日は白いシャツ着てるんでしょ(笑)。
河村:ロリンズに取られた~って。絵が抜かれた~って(笑)。
那倉:それで止めれるじゃん。
Atsuo:ゴールが見えた(笑)。
河村:また始めるときは握手してたらいいじゃん。折り畳んだTシャツをロリンズから田巻くんに渡しているところをアップして。
Atsuo:またいい展開が見込めるね。
Boris / DEAR (Japan)
2017.07.12 Release
Daymare Recordings
2CD: DYMC-300 (3,200yen + tax) / 3LP: DYMV-300 (7,000yen + tax)
日本盤のみボーナス・ディスク付 CD2枚組, LP3枚組仕様
Atsuo(Boris)
92年より活動開始、96年にTakeshi、Wata、Atsuoという現在のメンバー編制へ。活動当初より自分達の居場所と方法論は自ら作り上げるスタンスで、ワールドワイドに展開。文字通り音を‘体感’するダイナミクスに満ちたライヴで熱狂的なファン・ベースを確立。そのパフォーマンスはナイン・インチ・ネイルズをも魅了し、USアリーナ・ツアーのサポートに抜擢。断続的なスタジオ・セッションを通じ、ほぼ全て自ら録音する‘ひたすら音と向かい合うレコーディング’は代表作『PINK』(05)、『SMILE』(08)、『NOISE』(14)をはじめとする30数作に及ぶフル・アルバム、サンO)))との共作『Altar』(07)他約20作品に及ぶコラボレーション作を産んだ。『ニンジャスレイヤーフロムアニメイション』に書き下ろし新曲3曲と新録1曲を提供(15)したことも記憶に新しい。
また映画『リミッツ・オブ・コントロール』(09)『告白』(10)へも楽曲を提供、映像的と評されることが多い楽曲とのマッチングの良さで、音楽界以外でも注目を浴びている。 2013年より改めてゲスト・プレイヤーを含まない3人編成でのライヴ活動に主眼を置き、メンバー間の相互作用とバランスを更に強化。日本/北米/ヨーロッパ/オーストラリアを中心に行うワールド・ツアーは、現在も規模を拡大しながら2006年以降毎年行っている。
結成25周年を迎える2017年、最新スタジオ・アルバム『DEAR』を全世界同時発表。
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河村康輔
1979年、広島県生まれ。東京都在住。グラフィックデザイナー、アートディレクター、コラージュアーティスト。「ERECT Magazine」アートディレクター。多数のアパレルブランドにグラフィックを提供、コラボレーションTシャツを制作している。他にもライブ、イベント等のフライヤー、DVD・CD のジャケット、書籍の装丁、広告等のデザイン、ディレクションを手掛ける。代表的な仕事に、「大友克洋GENGA展」メインビジュアル、「ルミネ×エヴァンゲリオン」広告ビジュアル、アートディレクション、デザインなど。コラージュ作家として国内外での個展、グループ展への参加他数。2017年、大友克洋氏と共作で「INSIDE BABEL」(ブリューゲル「バベルの塔」展)を制作。
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那倉太一(ENDON)
エクストリーム・ミュージックの決定的な更新を目論み結成、2007年現行のヴォーカル / ギター / ドラム / ノイズ×2体制に。ギター / ドラムのソリッドな演奏を機軸に、ハードコアやブラック・メタル的意匠をまといノイズで空間を埋め尽くすサウンドは、シーンの最先鋭として知られる。1stアルバム『MAMA』(2014年、BorisのAtsuoプロデュース)発表以降、バンド / ノイズ界は勿論、クラブ・カルチャーからストリート・シーンまで横断して活動。海外でのライブ活動も積極的に行い、2016年には2度の北米ツアーを実施した。2017年春にKurt Ballou(CONVERGE)によるUS録音の2ndアルバム『THROUGH THE MIRROR』を発表。秋にはBorisの北米ツアー全行程に帯同する。
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田巻祐一郎
1985年東京生まれ。 2004年より作品発表を開始。ドローイング・立体・シルクスクリーン・ボディパフォーマンスなどを用いた表現活動家。 潜在的に体内にあるエネルギーを作品に投影する。そこには一切の文脈的な意味付けなどは存在しない。
<個展>
2004「IDENIT」ギャラリー・ディスコガール/東京
2008「IZKO へ」The Ghetto 百 Gallery/東京
2017「リトミック」小岩bushbash/東京
グループ展 2009「POMY Pirates Of Mise desu Yan」La Fuente 代官山 Creative Bridge/東京、「ANAL DRAGON」commune/東京
2015「”Magnetic Composition - 01” Three Men Exhibition」CORNER PRINTING KG GALLERY/東京
2016「Hidden Circus presents"DUNNO”Group Exhibition」CORNER PRINTING KG GALLERY/東京、「”Magnetic Composition - 02” Three Men Exhibition」PULP/大阪
公式サイト
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