今週の映画川は、8月5日公開の『夜明けの祈り』(アンヌ・フォンテーヌ監督)をご紹介します。第二次世界大戦終結直後のポーランドを舞台に、ひとりの女性医師が戦時中にソ連兵から凌辱され妊娠してしまった修道女たちに出会い共に試練を乗り越えようとする物語。アンヌ・フォンテーヌ監督が熟練のスタッフを起用して作り上げたこの作品の見どころを、荻野洋一さんが解説してくれます。
文=荻野洋一
冒頭のカットは、引き気味のバックショットで始まる。厳粛な修道院の廊下を、僧衣に身を包んだ数人の修道女が歩いて、奥の暗がりへ消えていく。朝のミサの時間なのだろう。暗がりの部分に本作の原題『LES INNOCENTES』のタイトルインの白い文字。「無垢な人々」という意味だが、それが単に修道女たちが無垢であるという意味に終始しないことは、見始めて数分ののちに分かる。
フランスの女性監督アンヌ・フォンテーヌは、『ドライ・クリーニング』(1997)、『ココ・アヴァン・シャネル』(2009)、『ボヴァリー夫人とパン屋』(2014)など、比較的順調に日本でも作品が紹介されてきた中堅監督である。女性の生き方、自由への目覚めを軽やかに扱うことが多く、またほどよい通俗性が功を奏したのかもしれない。演出上の特長がきわだつほどではないけれども、登場人物の楽天性、軽薄さはいつも風通しがいい。
2018年12月号
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