boidマガジン

2017年08月号 vol.3

映画川『キングス・オブ・サマー』 (常川拓也)

2017年08月19日 02:51 by boid

今週の映画川は、8月19日(土)から公開される『キングス・オブ・サマー』(ジョーダン・ヴォート=ロバーツ監督)という作品を取り上げます。今春公開された『キングコング:髑髏島の巨神』を手掛けたヴォート=ロバーツ監督の長編デビュー作であり、『ジュラシック・ワールド』(コリン・トレヴォロウ監督)で注目を集めた若き俳優ニック・ロビンソンの映画デビュー作でもある本作は、家出を計画した3人の少年たちのひと夏の出来事を描いた青春映画です。この作品の見どころ、楽しみ方について、boidマガジン初登場のライター・常川拓也さんが書いてくれました。



文=常川拓也


 「子どもの頃を懐かしんでいる人はもう決して子どもではない」と言ったのは『カルビンとホッブス』で知られる漫画家ビル・ワターソンだったが、『キングス・オブ・サマー』の舞台となるのは、彼の故郷としても知られるオハイオ北東部に位置するチャグリン・フォールズである。たしかにいわゆる青春時代を題材にして描く場合に、ノスタルジーはすでに過ぎ去った思い出を色づけし美化してしまう恐れを孕んでいる。それは、映画の中にセンチメンタリズムや過度なメロドラマを持ち込んでしまうのだ。しかし、『キングス・オブ・サマー』は十代の頃と同じ気持ちに戻って語ろうとする。不満や怒りを抱え込んでいる15歳の少年たちをオハイオの緑豊かな自然へ解き放ち、活気に満ちたトーンで童心そのままの彼らを活写するのである。

 1984年生まれのジョーダン・ヴォート=ロバーツは、この長編デビュー作において、1980年代の米コメディ映画の形式を持ち込んでいる。自身で認めるように、『グーニーズ』(1985)『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)といったスティーヴン・スピルバーグ主宰のアンブリン・エンターテインメント製作の映画や『スタンド・バイ・ミー』(1986)、そしてジョン・ヒューズの映画の精神やユーモア感覚を受け継いでいるのだ。とりわけ、保守的で抑圧的な家庭から逃げ出したジョー(ニック・ロビンソン)とパトリック(ガブリエル・バッソ)の間に無表情のまま予期せぬ行動を取る奇抜な人物ビアジオ(モイセス・アリアス)を配置することで、映画は馬鹿げたユーモアを取り入れ、コミカルで陽気なトーンを築いている。コロンビア系の背の低いその少年は、全く不可解な存在として現れ、コメディックなキャラクターならではの意表をついた立ち居振る舞いを見せるのである。
(ところで、アンブリン社をはじめとした1980年代の少年たちの冒険を描いたアメリカ映画の影響を受けた近年の作品といえば、『MUD マッド』(2012)や『コップ・カー』(2015)もそうだったことが思い出される。1978年生まれのジェフ・ニコルズは『MUD マッド』の次作『ミッドナイト・スペシャル』(2016)で往年のスピルバーグが手がけたSFを踏襲し、1981年生まれのジョン・ワッツは『コップ・カー』の次作『スパイダーマン:ホームカミング』(2017)でジョン・ヒューズにオマージュを捧げているわけで、80年前後の若い世代の新鋭たちが80年代のティーン・ムービーの精神を継承しようとしていることもまた興味深い。)

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