boidマガジン

2017年08月号 vol.4

Animation Unrelated 第44回 (土居伸彰)

2017年08月26日 07:00 by boid

世界中のアニメーションの評論や上映活動を精力的に行なっている土居伸彰さんの連載「Animation Unrelated」第44回です。今回は7月末にソウル国際漫画アニメーション映画祭(SICAF)で審査員を務めたときのお話。運営に不備も多く、コンペティションの作品が全く観たことのない作品ばかりだったなかで、普段の映画祭では上映されないタイプの新しい作品との出会いがあったようです。

SICAFの開会式の様子。豪快にスペルミスしている




韓国でアジアの新しい風を感じる長編作品を観たこと


文=土居伸彰


 7月末、ソウルに行ってきた。韓国で最大規模のアニメーション映画祭SICAF(ソウル国際漫画アニメーション映画祭)の長編部門と子供作品部門の審査員の仕事である。SICAFは名前にあるとおり、漫画とアニメーションの両方を取り上げる映画祭で、ソウル市内の映画館でアニメーションの上映をして、コンベンション・センターで漫画の展示をする。(展示のほうではいがらしみきお(『ぼのぼの』は韓国でかなりの人気らしい)が来ていたりなかなか豪華だった。)
 SICAFの嫌な噂は最近よく聞いていた。映画祭として体をなしていないだとか、作家へのケアが悪すぎるだとか。残念ながら、その噂は概ね正しかった。聞けば運営がコロコロと変わり、継続して勤めるスタッフがいないのだとか……昨年までの映画祭を知らず、そもそも映画祭というものを知らない人たちが毎年入れ代わり立ち代わりという感じらしい。実際全期間滞在してみたけれども、大事なことがおさえられず、映画祭のようなものが行われるだけ、という印象……
 SICAFはウェブ上での情報公開が毎年かなりギリギリで、今年もまた然り。数日前になってもスケジュールやプログラムが発表されず、お客さんは来るのだろうかといつも思っていた。上映はCOEX Megaboxというカンファレンス・センターの地下のシネコンを使ってやったのだが、案の定お客さんはほぼいなかった。これは他人の映画祭とはいえ、見ていてツラい。プログラムが出るのがほんの数日前では、そりゃ当たり前だと思うけれども、映画祭に関わるものとして悲しい気持ちになる。数年前にSICAFに来たときもそうだった。明洞(ソウルの原宿みたいなところ)駅前のシネコンでやっていたのに、どのプログラムもお客さんが数人しかいなかったことを思い出した。こんなんでいいのか、と思ったものだけど、その後実際ソウル市からの補助金がかなり減額されたので、こんなんではよくないのだ。唯一の救いは、作家たちもあまり来ていなかったことだ。わざわざ海外からやってきて、ガラガラの劇場で、自分たちだけが観客……本当に惨めな気持ちになったことだろう。(しかし、となるとこれは一体何のためにやっているのか?)
 お金がないままに続けられているSICAFはとにかく空虚だった。元々は立派な映画祭だったから、メンツもあるしショボくするわけにはいかないのだろう。開会式はきわめて豪華だった、無駄に……カンファレンス・センターの巨大なスペースに数百の椅子が並べられ、展示会場を練り歩いているマスコットキャラクターたちやコスプレイヤーたちが数十人お出迎え。巨大なスクリーンにSICAFの歴史を教えるプロジェクション・マッピングが盛大に展開し、映画祭公式アンバサダーとしてK-POPのアイドル(最後まで名前が分からなかったがそこそこ有名な人らしい)の女の子たちがやってくる(巨大なカメラを携えたファンの男たちが無数に群がっていて、登場するたびに戦場のようにシャッター音が鳴り響く……)。よくもまあここまで上っ面だけは立派にできるものだと感心するくらいに、表層的な盛り上がりだけが演出された。
 閉会式もひどかった。シネコンの1スクリーンを使ってこじんまりと行われ、韓国語で進行するのに通訳はナシ。無限ともいえるほど賞があって、その発表だけが繰り返され、しかし授与するのは韓国のお偉いさんたちで、審査員は特に参加した意味がない。閉会式まで来るとゲストは皆この映画祭に失望しきっているので、改めてポカーンとはするけれども、苦笑いで「もういいや」となっている。そこにまたアイドルたちが登場し、とどめを刺す。会場の後ろ半分はカメラをもったファンたちで埋め尽くされていて、彼らのシャッター音がまたしても銃撃のように……もう笑うしかない。せめてクロージング・パーティーを楽しもうとするものの、会場までの誘導がきちんとされておらず、たどり着けた人たちは精鋭のみ……お別れの挨拶もできないままにほとんどの人とはさよならすることになる。

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