今週の映画川は、現在公開中のイギリス映画『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』(ロジャー・スポティスウッド監督)をご紹介。イギリスで大ベストセラーとなったノンフィクション『ボブという名のストリート・キャット』を映画化した本作は、ホームレスのストリート・ミュージシャンが一匹の野良猫との出会いをきっかけに人生を切り開いていく姿を描いています。自身も二匹の猫とともに暮らす渥美喜子さんが、本作を通して見えてくる猫と人の関係性について、人間と猫が共に生きるとはどういうことかを書いてくれています。

文=渥美喜子
ジャンキーのホームレスが一匹の野良猫を拾ったことをきっかけに、あれよあれよと幸運に見舞われる……、そんなアホなとつっこみたくなるような物語が実話だというし、劇中に登場する野良猫のボブはなんと本人(本猫?)だというしで、世界は不思議に満ちているのだなあと素直に感心するしかない。
路上ミュージシャンとは名ばかりの、家も仕事もない主人公のジェームズ。ドラッグの更生プログラムを受けながらも、一日の稼ぎは小銭程度、寝る場所もなく、夜な夜な街のゴミ箱を漁って食料を調達し、なんとか生き延びている。つまり彼は野良猫以下の生活をしている。
親切な更生担当者が用意してくれたボロアパートに引っ越したその日、茶トラの野良猫が家に迷い込む。隣人によって「ボブ」と名付けられたその猫は怪我をしていたため、ジェームズは動物病院に連れて行き、自分の食費もままならないのに猫の薬代を払う。その日から、ボブとジェームズの生活が始まる(まったくの余談だが、イギリスには福祉動物病院があるらしく、素晴らしい)。
この映画はロンドンが舞台で、一応観光名所のビッグベンやコヴェント・ガーデン・マーケットなどが映ったりはするものの、基本的には、炊き出しに行ったりビッグイシューを売ったりするホームレスの日常がメインなので、街の風景はなんだか薄汚い。
野良猫同然の主人公の姿を追っていたと思ったカメラが、突然本当に猫目線の世界になったりして驚くのだが、猫が見ているからといって特別に世界が美しくなったりするわけでもない。世界はあくまで薄汚れたままで、猫もただそれを見ているだけだ。

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