第35回目となる梅田哲也さんによる「ほとんど事故」は前回の「お盆の儀式」での出来事の続き?です。

文・写真=梅田哲也
ポーンて鳴って、たった今離陸しましたところで、離陸って気持ちいいよね、なんて軽口たたいてるそこの餓鬼わかってるのかい、飛んでるの、鉄の塊だよ、それも駅のホームくらいの、こーんなにでっかい。すごい音してるじゃないか。よくみたらいろんなところがビリビリ震えて、足の下もずいぶんカタカタなって。窓の外は鉄の羽しかみえない、嫌な席にされてしまったもんだ。お飲物って、まだもらえないんでしょうかね。ワインでもがぶ飲みしてないと、わたしだんだん不安になってきました。ポーンて鳴って、緊急時はご協力ください、なんていわれてまあわたし多少英語もわかってしまうもんだから、オーケーオーケー、ノープロブレム、なんて応えてしまったけれど、そんな余裕あるわけないじゃないですか。隣りの席の若い男がわたしたちの席を隔てる黒い手すりに手を置いたまま眠ってるのをみて、その手の甲をぎゅっと掴みたい衝動にかられてしまう。この人もう寝てるんだわ、さっき飛び立ったばかりなのに。旅慣れしてるのかしら、羨ましい。わたしだって踊ってるときは貫禄があるっていわれるんだよ。誰よりも余裕の顔をみせられるんだよ。そもそも、こんなでっかい鉄の塊が飛ぶんだか飛ぶことと比べたら、わたしなんて取るに足らないわ。そんな中途半端な自己なんて、それこそ吹き飛ばされてしまえよって、ふざけんなこのばかやろうって、威勢がいいのは思い込みだけで、本当はこの先9時間も耐えられるわけがないんです。という気持ちなんだろうか、3列前の席で和服の背筋をピッと伸ばしたまま不安を漂わせているあの初老の女性は
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