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2017年09月号 vol.4+10~12月号

YCAM繁盛記 第40回 (杉原永純)

2017年11月17日 11:24 by boid

山口情報芸術センター=YCAMのシネマ担当・杉原永純さんが日々の仕事や生活、同センターの催しについて記録する連載「YCAM繁盛記」第40回は、YCAMによる映画製作プロジェクト“YCAM Film Factory”によって今まさに始動しつつある映画と、まもなく完成に至る映画のお話です。前者は三宅唱監督が山口で撮影する作品で、今回はそのロケハンの模様などを写真とともに紹介してくれます。そして後者は空族の『バンコクナイツ』メイキング作品となる『映画 潜行一千里』(向山正洋監督)。こちらは12月9日(土)にYCAMにてプレミア上映、そして12月16日(土)から新宿K's cinemaにて公開されます!
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映像の出し方をいろいろと実験中




山口を掘るロケハン/映画 潜行一千里 完成


文・写真=杉原永純


 三宅監督は引き続き滞在継続中。撮影、編集、上映会を開くというサイクルが出来上がってきていて、年明けから本格的に撮影が始動する。
 今やっていることは、ロケハンともシナハンとも言えるし、赴いている場所自体が被写体ともいえる。その意味では本番はすでに始まっている。山口を、『ギ・あいうえおス』撮影以降それなりに色々と巡っていたつもりだが、まだまだある。案内人はYCAMインターラボの高原文江さん。『ギ』撮影時に「柴田剛が好きそうな場所」を選んでくれたのも彼女だったし、三宅さんの関心をよく理解してもらい次から次へと面白い場所を紹介してくれる。少しだけロケハン写真を紹介してみる。さらに自分も同行していない場所も含めて、三宅さんの『無言日記』連載で紹介される場所もあると思う。これら全てYCAMから車で一時間以内の場所なので、ロケーション・サービスとかしっかりしたら、他の映画撮影誘致とかも結構いけるんじゃないかと思ったりもする。山口は実は、深い。

巨大なテトラポッドが整然と並べられる港
 
大きな川の中州に真っ直ぐ延びる路。歩ける、が、大雨で増水すると完全にこの足場がないことを想像すると結構怖い
 
港の先にぽつりと浮かぶ島にある神社。船でないと行けない。豊漁とか無事の帰還を祈るのだろう
 
断崖に生える木々。自然は圧倒的に強い
 
すでに操業を停止した採石場の海岸線。ゴロゴロした岩で敷き詰められている
 
廃工場。黒沢清作品的なロケーション。中に入れず
 
船着場。ここから切りだした石を運び出していたようだ
 
採石場の面積はとても大きく延々続く
 
山をくり抜いた跡地に巨大な池ができている。水の色が深くて、底が見えない



 足を運んでみて改めて気づくのは自然の強さ。山口は、他の地方都市とも同様人口減少は進んでいて、一時期人の手で切り開かれた場所も、人がいなくなってしばらくすると、容赦なく自然が覆いかぶさってくる。いずれコンクリートは朽ちて、鉄は錆び、土に還り分解されていくのだろう。国破れて山河あり。そこに浮かび上がってくるロケーションは、ある種近未来SF。これが日本全国の遠くない未来だと思うと、残酷であり同時に清々しい。

対岸を撮影する三宅監督
 
商店街の工事現場にて



 『無言日記』は順調に撮りためてもらいつつ、もう一手YCAMで作品化していく方向性も探っている。YCAMで滞在制作するメリットは、作品完成までのトライアル&エラーを重ねられることだ。YCAMでの映画制作では、これまでその特性を使いきれていなかった。映画制作は基本的に興行とか上映とか観客とか「出口」ありきで進めることは確かで、その方法は実に効率に適っているとも思うし、映画の外枠を決める上でもちろん今回も無視することはできない。伝統的な分業に基づいた制作方法についても、プロフェッショナルたちが協働してひとつの作品に収斂していくプロセスは、映画の歴史がまさにトライアル&エラーを繰り返していたった結果で、一朝一夕に乗り越えられるものではない。奇を衒った制作プロセスを採用することを優先してはいない。
 あくまで撮るもの、完成した作品から見えてくるものに実直にありたいと思っている。その魅力を十分に引き出すための方法は、きっとシンプルな形になるはずだと信じている。映すものと映される側の間に、YCAMだからこそ出来ることを発見するのが自分の仕事だろう。

VRを片目で体験してみる。あの映画のアレ、と言ってわかるだろうか



 これまでのYCAMでの映画作品に共通するテーマ設定はないが、「入口」から順番に、ひとつずつマイルストーンを置いていくやり方だけは一貫している。招聘作家のアイデアの原石から一緒に磨いてみる。今回の原石はこのboidマガジンで連載している『無言日記』。それを山口に置いてみる。磨くための時間を出来るだけ長く、贅沢に使っている。

YCAMインターラボの岩田氏に作ってもらった(何かの)プロトタイプ



 YCAMのスタッフの誰がどのような関心とスキルがあるか、自分がやっと理解を深められてきたこともあるし、三宅さんが東京から映画撮影クルーを呼ぶ以外の方法で映画制作を進めてみる、という覚悟が大きいと思う。やっとここにまでに至れた。

 
 
 
 
撮影:田邊アツシ 写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]

10/28(土)JR山口線の走行車両で行なわれたツアー形式のライブ豪華な出演者たちがお客と空間が交じり合いながらのライブ

 10月から11月にかけては例年イベントが多いが、過去比較する例がなく、かつ、大変盛り上がったライブイベント「sound tectonics #19:Boombox TRIP 」。1日目は「Boombox TRIP in TRAIN」と題し、JR山口線の車内で、走行しながらU-zhaan、鎮座DOPENESS、環ROYという豪華メンツによるラップとタブラという異色の即興セッション。チケ発即完売で、乗車できる人数が限られるため自分は体験できなかったものの、この熱狂は駅のホームからも十分伝わってきた。

撮影:田邊アツシ 写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]


 2日目は「Boombox TRIP in YCAM」。舞台をYCAMに移していつものスタジオでのライブ、ではなく、館内「各所」事前に360°撮影で収録されたU-zhaan、鎮座DOPENESS、環ROYのライブを体験し、最後、貨物のエレベーターに乗り地下へと移動、扉が開くと次は生の三人がその場にいて、5分間の即興が目の前で始まる。まさに真剣勝負。一回の鑑賞ツアーに5名に対して、一日で全30セットをやるというあり得ないライブ。二日間ともにまさにYCAMでしかあり得ない特別なライブになっていたと思う。普段は入れないYCAM内の導線を辿りつつ、最後5人のためだけのライブを体験できるというのは贅沢すぎる。

 
 
『映画 潜行一千里』 12 月 16 日(土)より新宿 K's cinema にて公開!


 インスタレーションとして昨年完成し、巡回している「潜行一千里」、その劇場版『映画 潜行一千里』が間も無く完成する。12/9(土)にYCAMにて初上映、その1週間後、K's cinemaで公開される。
 そもそもYCAM Film Factory第二弾は『バンコクナイツ』メイキングを作ることがミッションだったので、この劇場版が終着地点である。本作の監督は、stillichimiya、そして『バンコクナイツ』撮影班・スタジオ石の、MMMこと向山正洋氏。とんでもない長大な撮影素材を抱えていたはずだか、やはり天才的に編集が上手い。『バンコクナイツ』を見る前でも、見た後でも楽しめる。
 インスタレーション版ではタイ〜ラオスの土地の空気にどっぷり浸かれることができた。あの空気を知ることが、『バンコクナイツ』を理解する上で必須だった。今回の映画版は、より撮影隊に密着しながらも、むしろboidマガジンで連載していた「潜行一千里」に近いようにも思う。
 ラオスの奥地シェンクァンで、ガイドの若い男性とクレーターを前に語り合う。その流れで地元の男性たちと語りあうシーンがあるのだが、一人の男性が楽器のケーンを持ってきて、おもむろに演奏を始める。そのメロディに皆が体を揺らす。
 そうこの流れの連なりが、空族とスタジオ石による映画作りなのだと。彼らが何を発見し、人に出会い、「バンコクナイツ」へと繋がっていったか、その足取りがよくわかる。自分が富田さん、相澤さん、正洋さんとタイ〜ラオス撮影旅行に同行させてもらった昨年6月の旅の記憶がよみがえる。
 映画作りとは発見の連続だと、三宅さんは、YCAMでの映画制作ワークショップで言っていたが、それを追体験できるのが『映画 潜行一千里』である。11/27には書籍版の『バンコクナイツ 潜行一千里』も発売される。あわせて読まれることをお勧めしたい。





杉原永純(すぎはら・えいじゅん)
12/2(土)~12/10(日)の間YCAMシネマで「空族全作品特集上映」に加えて、12/9(土)に『映画 潜行一千里』をどこよりも先に先行上映します。本作監督となる向山正洋監督(スタジオ石)、富田克也・相澤虎之助両氏に加えて、空族の音を一手に支えている山﨑巌氏も来場し、上映後トークします。

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