山口情報芸術センター=YCAMのシネマ担当・杉原永純さんが日々の仕事や生活、同センターの催しについて記録する連載「YCAM繁盛記」第41回です。YCAMによる映画製作プロジェクト“YCAM Film Factory”第4弾となる三宅唱監督作品の撮影もいよいよ開始。今回はその前に行われた地元の中高生向けの映画制作ワークショップや、12月にYCAMで行われたイベントや展示のことを書いてくれています。
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いよいよ三宅唱監督新作映画撮影が始まる。「YCAM爆音映画祭2018 特別編」のことなど。
文・写真=杉原永純
これを書いている今日、都内某所で某初顔合わせ(まだ何も言えないが大仕事になりそう。3月末には諸々リリースされます)、羽田から山口宇部、速攻YCAMに戻り、三宅さんとミーティング。明日は8:00出発のロケハン。19:00にはキャスト候補に会う。1月最終週は、自分はバンコクに行かないといけないが、戻って早々、2月には三宅さんのキャストありの映画撮影がついに本撮影(もちろん日々の『無言日記』撮影も本撮影なのだが)が始まってくる。
1月7日(日)、8日(月・祝)の二日間を使って、三宅唱監督による地元の中高生向けの映画制作ワークショップを催した。この連載の第33回で取り上げたYCAMスタッフ向けの三宅監督による映画制作ワークショップを、2日間に圧縮した内容。その前日の1月6日(土)にはいつものYCAMシネマの上映で「変態アニメーションナイト2017」上映+ニューディアー土居伸彰さんを招いてのトークイベントもおこない、その翌日に急に気持ちを切り替えての映画ワークショップだったもので、大変ではあったが、文字通り走りきった新年最初の連休だった。本当に遅ればせながら新年あけましておめでとうございます。
YCAM繁盛記を書いていると、毎度のことではあるが先月、そして2017年の記憶がすでに遠すぎるぐらい遠い。忘れないうちにいくつかまず記しておきたい。12月にYCAM繁盛記を書き記すことができなかったゆえに、期間が空いてしまっただけ書くべき内容が多すぎる。『全日記 小津安二郎』ぐらいに、ただ淡々と日常のことを記してみたいものだが、キュレーターという仕事はそうもいかないらしい。

12月は空族特集で始まった。『映画 潜行一千里』を初お披露目後、山口屈指の焼肉店「鞍山」に案内するというミッションを完了。お店を出る際に肉のうまさに感激した旨伝えたら、鞍山のお父さんが「遊びだから」とボソリと一言。一同痺れた。
12/9には二つの展示がオープンした。一つは「布のデミウルゴス―人類にとって布とは何か?」。もう一つは「The Other in You—わたしの中の他者」。いずれも3/2-4に開催する「YCAM爆音映画祭2018特別編:35ミリフィルム特集」までやってますので、これを期に合わせてみてもらえれば。

今回のYCAM爆音は35ミリでしか上映できない作品を集めた。同時にどれもおすすめで本当に選ぶのが難しいですが、迷った方はやっぱり先ずは『AKIRA』から。自分は『AKIRA』爆音は京都の同志社でが初だったが、冒頭(爆音ではなく見た人はきっと忘れてると思うが)、とんでもない音で幕を開けるのでド頭から浸ってください。芸能山城組の音楽は爆音でこそ映えることはいうまでもない。YCAMスタジオAが「揺れる」上映になるはずです。おそらくこの先YCAMで、35ミリでの爆音はできないと思います。必見。

YCAMの活動紹介を目的とした「YCAMオープンラボ2017 HELLO, YCAM!」では、2年ぶりに小川紳介『1000年刻みの日時計 牧野村物語』ほか、あれやこれや上映したり。一度アルコールが入ると酔いから醒めないギ・柴田剛監督としばらくぶりに山口で再会。ご近隣のおじいさんといつの間にか仲良くなっていた。異常なコミュニケーション能力。
中高生映画制作ワークショップは三宅さんのテーマ通り「発見の連続」だった。二日間、まず何より、参加者たちのみずみずしい姿に常に感動してしまっていた。彼らが「子どもだから」感動するということではない。たった二日間だけれども、成長の瞬間に立ち会ったような感慨が残っている。
三宅さんとワークショップを始める前に確認したことは、子ども扱いしない同時に、放任しすぎないこと。積極的に撮影のヒントは出していこうというと。この按配は実に難しい。
小学生とも大学生ともこうした映画ワークショップをやった経験のある三宅さんからの提案で、中高生を限定して対象とすることにした。小学生だったら「単純にやれた(撮影できた/演技できた)」ということと彼らの自発性を引き出すこと(=逆に、大人は放任するしかない)にゴールがあると感じる一方、大学生の場合はすでに大人であるため、これまた手をかける必要がないし、逆に積極的に講師側が意見を出しても、意見の取捨選択は参加者側のジャッジに任せることができる。
いちばん難しいのは、これまでやったとことのない中学生・高校生の時期だろう。子どもと大人のその間。



やはり初日は正直手間がかかった。山口県内、近郊の様々なところから集まりつつ、一部同じ高校から数人固まって友だち同士できてくれたチームもあり、「アイスブレイク」(エデュケーターの用語としてはこう言うらしい)に至るまで、本当に着地点が見つかるかヒヤヒヤだったが、一度撮影が回りだすとA班、B班ともに独特のグルーブ感を生み出した。これをどう表現して良いか正確な言葉がわからないのだけども、三宅さんがずっとこだわってきた「空気感」「雰囲気」というものが、俳優ではない彼らからにじみ出た瞬間だったと思う。
今回のワークショップの参加者から、2月に三宅さんが監督する映画の出演者を探す旨は、事前に告知していた。そして今目下その選考作業も行いつつ、脚本も、どういう形に落ち着くのかまだわからないが、三宅さんが磨き上げている。
前回紹介した、三宅さんの『無言日記』撮影兼ロケハンで出くわした、山口の風景に彼らを立たせることになることは間違いない。徐々に映画の輪郭が見えてくる。
杉原永純(すぎはら・えいじゅん)
1月最終週は久しぶりにタイに行ってきます。東南アジアの映画キュレーターたちと共同でプログラムした「KALEIDO ASIA」という上映プログラムで、『バンコクナイツ』をタイ語字幕付きでタイ初上映します! 1/28(日)15:00@Thai Film Archive、バンコクの隣のサラヤという街にあります。富田監督&相澤虎之助両氏にも会場に駆けつけていただきます!
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