boidマガジン

2018年02月号

樋口泰人の妄想映画日記スペシャル 新宿ピカデリー爆音映画祭爆音調整レポート第2夜

2018年02月11日 15:29 by boid

boid社長・樋口泰人の連載「妄想映画日記」のスペシャル版。3/2(金)まで開催の「新宿ピカデリー爆音映画祭」の爆音上映20作品の音調整2晩目。新旧『トレインスポッティング』、『パーティで女の子に話しかけるには』、『20センチュリー・ウーマン』、『アンダーグラウンド』5作品の爆音調整をご紹介します。どの作品をご覧になるかぜひご参考にしてください。




文=樋口泰人

2月10日(土)-11(日)
爆音映画祭初日の最終回終了が23時15分。その後の爆音調整作業である。スタートしたのが23時40分くらいだったか。最低5本はやらなければならない。ブルーレイ作品の確認作業もあったのだが、問題が起こり、ブルーレイ作品は明日に持ち越した。その作業の分だけスケジュールが押し、5本目の終了は5時30分くらいになってしまった。


『トレインスポッティング』
20年以上前の作品で、昨年丸の内ピカデリーで上映した際にはやはりどこか古臭い音がして、今の耳に合わせるための苦労をした。記憶の中の音とも違っていた。だが確かに今ここで聞こえてくる音がこの映画の音であるという、奇妙な現実感もあった。では新宿ではどうなるか。機材も丸の内とは全然違う。冒頭から、それぞれの音がくっきりとクリアに聞こえてきた。リマスターされたかのような違い。そのせいか目の前に映るスコットランドのクソのような現実が、過剰にリアルに見えた。今の新宿が当時のスコットランドへと連れ去られた感じと言ったらいいか。そんな「リアル」な視線でこの映画を観ると、というか、この映画の中に入ってしまった人の視線で主人公たちを観ると、彼らの怒りや痛みやバカな行動よりも、彼らの悲しさの方が際立って見えた。『T2』をすでに観てしまっているからだろうか。悲しさに満ち溢れたスコットランドで立ち尽くしていただけたら。



『T2 トレインスポッティング』
丸の内ピカデリーでは冒頭の音楽の低音がすごすぎて階下に影響あり。それでだいぶ低音を抑えた。もうちょっと低音を出せたらという願いを込めての調整になったのだが、新宿で聞くと低音はそれほど出さなくてもいいのではないか、その方がバランスが取れるという判断。最終的には当たり前のことなのだがテーマ曲とも言えるイギー・ポップの「ラスト・フォー・ライフ」に合わせた。『T2』では、実家に戻ってきたユアン・マクレガーがイギーのアルバムを取り出し、レコードに針を落として1音出たところですぐに針を上げ、ようやく物語の最後になって同じレコードに再度針を落とすという音による大きな物語構造があって、その音の断絶と接続を意識することで彼らの20年が聞こえてくる。一瞬であげてしまった針を再度落とすまでの物語。だがもちろん20年前に戻るわけではない。プロディジーによるリミックスは、彼らのさらなる20年に向けての始まりの音のようにも聞こえた。





『パーティで女の子に話しかけるには』
LRのスピーカーとセンター・スピーカーとの音量のバランスが難しかった。そのバランスが取れるまで試行錯誤。ライヴの時の音と、純粋な劇伴として流れる音楽との差がかなりあって、両方がうまく聞こえてくる地点を見つけなければならない。しかも77年のロンドンのパンクがいい音を出すはずがない。耳障りでスカスカなクソ野郎たちの音を聞いてもらいつつも、宇宙人であるエル・ファニングの地球人離れした不思議な存在感をも感じてもらいたい。彼女はここにいるのか他所にいるのかいつの時代にいるのか。あらゆる場所とあらゆる時代に遍在する木霊のような存在から聞こえてくる音。物語の最後、77年からだいぶ年月が過ぎた(映画の中では年号が出ていたはずだが失念)ある日、サイン会をしている主人公の前に何人もの若者たちが訪れる。どうやらエル・ファニングの産んだ子供たちらしいのだが、彼らの名前はどれも77年を共に生きた人々の名前で、主人公と同じ名前を持つ若者もいる。ふたつの時代が重なり合って、ひとつの時代となる。右と左のスピーカーから出るそれぞれの音が重なり合ってひとつのステレオサウンドなるわけだ。そんないくつもの重なり合いの音が聞こえてくれたらと思う。



『20センチュリー・ウーマン』
こちらは79年の物語。冒頭、舞台となるサンタバーバラの町が俯瞰で映されるのだが、これが短いのが残念。これが3分くらい続いてくれたら言うことなしだったのだがと、改めて思う。ここで流れる音楽は私が最も音楽漬けになっていた頃の音楽なので、いくつか聞けば問題なく音のバランスが取れる。爆音で改めて観てみると、グレタ・ガーウィクが演じる主人公の少年より7歳ほど年上のいとこの抱える悲しみに心が揺れた。母と子の物語であるはずなのだが、その中間にいてどちらにも振り切れず只ひたすら人生の分岐点でうろうろするばかりの彼女の悲しみ。LRのスピーカーの音量を適度なバランスより少しだけあげてもらった。部屋の中の静かな会話のシーンで窓外から聞こえてくる虫の音の反復が、彼らの心やそれを観るこちらの心を解きほぐし、スクリーンと客席とが溶け合ったもうひとつの場所を作り上げてくれたと思う。音楽だけではなく、ほとんど音のない静かなシーンで耳をすましてほしい。



『アンダーグラウンド』
バウス時代は定番で何度も上映してきたのだが、その頃はフィルム。今回はDCPでデジタル・リマスターされたもの。音の感触が全然違う。フィルムの頃は、バンドの演奏が賑やかでその騒がしさとそうではないシーンの静けさという躁鬱的な振幅に乗せられて一気の3時間という感じだったのだ、デジタルヴァージョンは音が安定して、全体にどこか鬱々とした空気が流れる。いつまでも終わらない怒りと悲しみの連鎖に映画全体が静かに泣いているようでもある。爆撃音さえ悲しい。とにかく何も終わらないのに生き物の命だけが終わっていく。フィルムの時代の騒々しさより、わたしはこちらの方が好みである。

というところで調整終了。外に出るとまだ暗く、夜はまだ続いていた。寒さは和らいでいた。新宿駅の温度計では6度。先日までなら昼間の気温である。雨は止んでいた。





新宿ピカデリー爆音映画祭
会場:新宿ピカデリー(東京都新宿区新宿3丁目15番15号/TEL:03-5367-1144)
期間:2018年2月10日(土)~3月2日(金)※各日上映スケジュールは公式サイトにて発表
料金:1作品一律1,800円(税込)
*各入場券は下記日程にて、新宿ピカデリー公式WEB、及び劇場窓口にて発売
※但し、劇場窓口での販売は残席がある場合のみ

【2/10(土)~2/16(金)分】
WEBでの販売:2/7(水)18:00~
劇場窓口での販売:2/8(木)劇場OPEN~


【2/17(土)~2/23(金)分】
WEBでの販売:2/14(水)18:00~
劇場窓口での販売:2/15(木)劇場OPEN~


【2/24(土)~3/2(金)分】
WEBでの販売:2/21(水)18:00~
劇場窓口での販売:2/22(木)劇場OPEN~
公式サイト:shinpicca-bakuon.com



樋口泰人(ひぐち・やすひと)
映画批評家、boid主宰。2/10(土)~3月2日(金)に「新宿ピカデリー爆音映画祭」が開催。また、2月21日(水)~24日(土)は渋谷WWWで「爆音映画祭2018特集タイ|イサーン VOL.2」も。

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