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2018年02月号

微笑みの裏側 第22回「爆音映画祭2018 特集タイ|イサーン VOL.2」特別編 後編(Soi48)

2018年08月07日 18:24 by boid
2018年08月07日 18:24 by boid

世界各国の音楽を発掘・収集するユニットSoi48が、微笑みの国=タイの表と裏を紹介する連載「微笑みの裏側」。今回は特別編として2/21(水)〜24(土)に渋谷WWWにて開催する「爆音映画祭2018 特集タイ|イサーン VOL.2」の上映作品についてSoi48の宇都木さんと俚謡山脈のムード山さんとの対談をお届けします。イサーン映画はこの機会でしか見れない貴重な上映ですのでお見逃しなく!




文=Soi48


「爆音映画祭2018 特集タイ|イサーン VOL.2」 / 上映作品

 

いよいよ今週2月21日(水)-2月24日(土)の4日間「爆音映画祭2018 特集タイ|イサーン VOL.2」が開催される。前回boidマガジンにて、22日上映される『花草女王』について日本の民謡を掘り、再発、DJするユニット俚謡山脈のムード山氏と語り合った。今回はその後編。映画祭で上映される作品について、その魅力と背景をSoi48と俚謡山脈の対談として少しだけ紹介したい。

 

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Soi48宇都木:前回はムード山さんが大好きなモーラム映画『花草女王』について対談しましたが、後編は「爆音映画祭2018 特集タイ|イサーン VOL.2」で上映される他の映画について語りたいと思います。今回のラインナップで気になっている作品ありますか?

俚謡山脈 ムード山:映画祭の初日、21日の一番最初に上映する『タクシードライバー』が気になってるな。


『タクシードライバー』



宇都木:平日、しかも真昼間の上映でお客さん来るのか?!と不安ですが・・・Soi48的に大推薦の作品です。イサーンからバンコクに出稼ぎに来た男が、子供を育てながらタクシー運転手をする話で、都会と田舎の格差が見事に描かれています。そして何と言ってもチャバープライ・ナームワイによるモーラム・シーンが痺れます。

ムード山:『trip to isan』にも掲載されているよね。Soi48がレコードのジャケットを見て色白美人だと思っていたチャバープライが、この映画を見ると色黒でまるで別人だったんでしょ?

宇都木:そうなんです(笑)。字幕作業していてクレジットにチャバープライの名前があったんだけど、映像があまりにも自分の想像と違っていて何回も見直してしまいました。でも声は間違いなくチャバープライだったし、後にタイ音楽の大物プロデューサーのスリン・パークシリ先生に彼女のスタジオで録音している時の写真を見せてもらって、やっとチャバープライだと確信が持てました。というか高木はプロのデザイナーなんだからジャケット見ただけで白く加工しているのを見抜いて欲しい(笑)。
音楽的な話をすると、主人公のイサーン人を苦しめる、悪役のバンコク不良たちが盛り場でタイ語カバーのファンクやロックを聴いているんですよ。

ムード山:インポッシブルとか?


チャバープライ・ナームワイ




The Impossible - Hot Pepper



宇都木:そうそう、所謂和モノ、タイファンクと呼ばれるような西洋音楽を真似した曲が流れるんです。身分や人種によって聴いている音楽が違うタイの裏側を味わえます。

ムード山:すげー観たくなってきた。

宇都木:平日の昼にタイ版『タクシードライバー』を観るなんて最高の贅沢ですよ。これこそリア充(笑)。


『バー21の天使』



ムード山:『バー21の天使』はどうなの?

宇都木:これも最高です!今回上映する映画の中で唯一イサーンがテーマではない作品がこの『バー21の天使』です。『バンコクナイツ』はタニヤ通りでしたけど、こちらはその隣のパッポン通りが舞台。

ムード山:売春もの?

宇都木:そう。売春婦が主人公で貢いだ男に捨てられたり、客と恋に落ちたりするのを描きながらタイの格差社会と正義とは何かを観客に問う社会派映画です。でもこの作品は重いテーマとは裏腹に明るいミュージカル映画になっているのがミソ。ジャズや軽音楽、そしてルーククルン(※通称都会の音楽。上流階級が好むタイ独自の音楽ジャンル)、スティンが沢山流れます。

ムード山:そう言われればルーククルンの歌詞とか気にしたこと無かったな。


ルーククルンの帝王ステープ・ウォンカムヘーン



宇都木:モーラムやルークトゥンと異なるタイ音楽の一面が楽しめます。ちょっとマニアックな話をするとパヨン・ムックダーという積極的にマンボ、カリプソ、ジャズなど西洋音楽をタイ音楽に取り入れたプロデューサーがいるんですけどそのグルーブ感覚が味わえます。

ムード山:パヨンさんってアンカナーン・クンチャイをプロデュースしていたスリン・パークシリ先生が尊敬していた人物だよね?

宇都木:そうです。だからこの映画の音楽は都会的でゴージャスだけど、全くルークトゥンやモーラムと関係がないわけではない。音楽作家は当時の重要メディアだった映画やラジオから影響を受けるわけですから。ともあれ音楽映画としても完成度高いのがこの『バー21の天使』です。

ムード山:『田舎の教師』はどう?

宇都木:『田舎の教師』、『モンラック・メーナム・ムーン』、『ルーク・メー・ムーン』はどれもイサーンを題材にした作品で共通点がある。どれもペット・ピン・トーンのノッパドン・ドゥアンポーンが出演しているという。

ムード山:おー。さすがイサーンを代表するコメディ俳優。『モンラック・メーナム・ムーン』はSoi48がEM RECORDSから再発したパイリン・ポーンピブーンの名曲「ラム・クローム・トゥン」を歌うシーンがあるんでしょ?観たいなあ・・・。


『モンラック・メーナム・ムーン』




パイリン・ポーンピブーン「ラム・クローム・トゥン」



宇都木:「ラム・クローム・トゥン」の場面は最高ですよ。とにかく美しい。70年代のイサーンの人はこうやって音楽を楽しんでいたんだと体感できます。「ラム・クローム・トゥン」はビートが激しく、ファンキーなブレイクがある曲ではないけど、この映画を観たらDJに使いたくなりますね。

ムード山:やっぱり映像で見せられるのと、字幕で歌詞を知れるのはでかいっ!

宇都木:こういった知識があると家にあるタイのレコードが輝き出し、曲を聴くのが楽しくなります。さらにこの3本の映画で使われているインスト音楽はペット・ピン・トーンなんです。だからピンやケーンが沢山鳴り響きます。『田舎の教師』の字幕作業していたらEM RECORDSから発売されているソー奏者トーンファッド・ファーイテートが使われているのに驚かされました。

ムード山:つまりこの3本はSoi48が集めているレコード、大好きな歌手を映画で楽しめる訳だね。


トーンファッド・ファーイテート



宇都木:僕らが字幕付きで観たかったから上映している部分も強いです(笑)。『田舎の教師』は原作の小説が有名で、社会派映画としての側面もあります。80年代に日本でも上映されたので年配のタイ音楽ファンから「久しぶりに観れるから行きます」とありがたいお言葉をいただきました。NHKでも放送されているんですよ。
『モンラック・メーナム・ムーン』、『ルーク・メー・ムーン』は男女の恋愛を描いたミュージカル映画。だから同じミュージカル映画である『バー21の天使』と対比して観ると面白い。映画の作りは『バー21の天使』は西洋的だから理解しやすいかもしれない。でも『モンラック・メーナム・ムーン』、『ルーク・メー・ムーン』はタイ、イサーンの匂いがプンプンします。イサーンの人々は映画館や野外映画でダラダラこういう映画を観ていたんだと想像するとより楽しめるでしょう。

ムード山:『ルーク・メー・ムーン』はアンカナーン・クンチャイさんも出ているんでしょ?

宇都木:はい。でも脇役なのでしっかりと画面を観ていないと見逃します(笑)。それに対してダオ・バンドンとテープポーン・ペットウボンが重要人物として登場します。もちろん歌う場面有り。ダオさんの哀愁漂う歌詞に痺れます。


ダオ・バンドン



ムード山:観たい!アンカナーンさんの歌う映像観たかったなあ・・・。

宇都木:アンカナーンさんをデビューさせたスリン先生が音楽監督だから歌わせたらよかったのに。今度スリン先生に理由聞いてみます。事務所問題とかいろいろあったのかも?!
『ルーク・メー・ムーン』は空族の富田監督も大好きな作品で、上映を後押ししてくれました。自分は技術的なことはわからないけど、しっかりと構図を考えて撮影しているそうです。

ムード山:実は俺、『サウダーヂ』観ていないのだよね。

宇都木:ムード山さんはヒップホップ好きなんだから観なきゃダメですよ!23日空族デー来てください。『映画 潜行一千里』も『バンコクナイツ』観ていたら絶対楽しめますから。まあ全部観るということで(笑)。

ムード山:はい。頑張ります(苦笑)。


『サウダーヂ』



宇都木:せっかくムード山さん呼んで対談したのでタイ音楽と民謡、そしてヒップホップの事とか色々語り合いたかったのですが映画の話で時間があっという間に過ぎてしまいました。この辺の話はまた別の機会で。

ムード山:了解!俺も最近Soi48が夢中になっている初期ルークトゥンの事知りたいし機会を設けましょう。




『爆音映画祭2018 特集タイ|イサーン VOL.2』
公式サイト
日程:2018年2月21日(水)〜24日(土)
会場:Shibuya WWW(東京都渋谷区宇田川町13-17ライズビル地下)
主催:boid、空族、Soi48
協力:WWW、Thai Film Archive、オリエンタルブリーズ
助成:国際交流基金アジアセンター




俚謡山脈(Riyo Mountains)
(ムード山+TAKUMI SAITO)
世界各国の音楽がプレイされるDJ パーティ「Soi48」内で活動する日本民謡を愛する2人組DJユニット。日本各地の民謡を収集/リサーチし、DJプレイしたりCDやレコードの再発を手掛けたりしています。

MIXシリーズ「俚謡山脈 MIX VOL.1」~「VOL.4」をリリース
「田中重雄宮司/弓神楽」を監修/エムレコードより2016年7月にリリース
「境石投げ踊り」監修/エムレコードよりを2018年12月にリリース
ロンドンのインターネットラジオNTS LIVEに日本民謡だけで構成されたMIXを提供
農民ダイナマイト(山梨県)、大和町八幡神社大盆踊り会(東京)など各地のパーティーにDJで参加

Facebook
www.facebook.com/riyomountains

Twitter
@riyomountains

E-Mail
riyomountains@gmail.com



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Soi48監修『旅するタイ・イサーン音楽ディスクガイド』DU BOOKSより好評発売中!
http://diskunion.net/dubooks/ct/detail/DUBK167



単行本: B5変形/380ページ/並製/オールカラー
出版社: DU BOOKS
言語: 日本語
ISBN-10: 4866470127
ISBN-13: 978-4866470122



[Soi48(宇都木景一&高木紳介))
(KEIICHI UTSUKI&SHINSUKE TAKAGI)
旅行先で出会ったレコード、カセット、CD、VCD、USBなどフォーマットを問わないスタイルで音楽発掘し、再発する2人組DJユニット。空族の新作映画『バンコクナイツ』にDJとして参加、EM Recordから発売されているタイ音楽作品の監修も手がけている。タイ音楽と旅についての書籍「TRIP TO ISAN :旅するタイ・イサーン音楽ディスクガイド」好評発売中。Soi48ウェブサイト

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