boidマガジン

2018年03月号

YCAM繁盛記 第43回 (杉原永純)

2018年03月17日 17:31 by boid

山口情報芸術センター=YCAMのシネマ担当・杉原永純さんが日々の仕事や生活、同センターの催しについて記録する連載「YCAM繁盛記」。今回からはYCAMによる映画製作プロジェクト“YCAM Film Factory”第4弾となる三宅唱監督作品の撮影レポートをお届けします。地元の中高生が主要キャスト、YCAM職員もスタッフで参加するというこの映画、果たしてどのような試行錯誤のもと作られているのでしょうか。

35ミリフィルム上映作品のみを集めた「YCAM爆音映画祭2018特別編」終了。
家を開ける日が多すぎたので、最終日たまは事務所で待機することに




三宅唱新作映画現場レポ:1週目


文・写真=杉原永純


 3月2日から4日に突発的に企画した「YCAM爆音映画祭2018特別編:35ミリフィルム特集」も無事終了。樋口さんの報告にもあった通り、いつものYCAM爆音のLアコのセッティングに加え、テストだけの予定で準備したメイヤーのスピーカーも結局本番稼働させ、作品によってLRのスピーカーを選ぶという過去ない贅沢をしたフィルム特集。イレギュラーなことも起きつつも、フィルムの爆音を久々に堪能することができた。動員は想定内だったが、どれもおそらくもうYCAM爆音とフィルム上映の組み合わせではできない作品となったと思うので、見逃した方は相当悔やんでもらっていいと思う。リクエストされてもフィルム爆音は相当余裕ないと今後は無理です。

春が近づき、うちのベランダから、向かいに住むこちらも同じ名前の「たまちゃん」と交信中



 この新年早々の中高生ワークショップから、タイでの『バンコクナイツ』上映、戻ってすぐの三宅唱監督映画撮影で2月に突入、撮影最終日に樋口さんがYCAM入りしてから、すぐに爆音調整、本番、そして夏に向けての広報ミーティングと、なかなか家に立ち寄らない日々が続きすぎたせいもあったのか、この流れに一区切りついた3月5日の夜に、うちの飼い猫のたまが春の発情期を発症、夜通し泣き叫んだので、あまりの近所迷惑に耐えかねて、ベランダでおもむろに抱きかかえようとした瞬間、秘めた野生を発揮して大暴れ。左手を引っ掻き、右手を牙で噛み、早朝に両手から流血、飼い始めて2年半がすぎたが、初めての直接的な攻撃に一瞬呆然とするが、こういう場合は細菌による感染症を防ぐために、まずは流水で血をよく流すと聞いたので粛々と流しへ。冷たく、痛い。右手の親指に広く切れた傷口から押し出すように血を出していく。これが痛い。血は流れ続け、時間の感覚が薄れつつ、多分5分ぐらいのことだったと振り返って思うが、やっと血小板が固まり血が止まる。人間の体はよくできているものだ。
 ベランダから台所に戻ってきたたまの首回りの、冬の時期よく伸びた毛の白い部分に、黒っぽい赤い血が染みてしまったが、この時すでにたまは正気を取り戻したようで「何やってんの」という顔で見て来るのでほおっておき、まずは傷の事後処理ということで、時間外の受付のある山口赤十字病院に向かう。この時まだ午前6時。自分より5歳は若そうな当直の医師がやってきて、さっさと消毒しナイロン糸で縫合(最近は傷を無理に閉じず、開けたままキープするようだ)、待合室に「この病院は研修医を受け入れております」のサインが見受けられた通りにまだ20代前半の男性研修医も立ち会っており、女性のベテランの看護師が4人もいた。なんだか大ごとになってしまった。
 普段ほとんど病院に行かないのだが、おそらく4年ぶりぐらいに病院に行くハメになった。困ったのは、右手の親指は先端に包帯が巻かれたので、キーボードが思うように打てない。
 とかいう年始からの忙殺の、個人的な後日談はこの辺にして。

4月から始まる展示「ワールドツアー」のロゴも完成。サンフランシスコ帰りの今野さんが刺繍で作ってくれた!



 3/16(金)に三宅唱監督新作映画のオールラッシュ。今回の撮影はその日ごとに素材を毎日見ながら進められたので、だいたいは把握できていたたが、スクリーンで見直して安心した。三宅さんグッジョブ。プロではない出演者たち(それぞれがリアル中高生で、リアルに掛け替えのない瞬間を生きている)と、それぞれの専門はありつつも映画撮影をメインにしているわけではないYCAMスタッフとで編成されたチームで、映画を作る。それで何を狙うべきか、どういった瞬間を押さえていけるのか、当初から三宅さんとずっと話していたことが結果として示されるわけだが、試み、狙いともにちゃんと的に当たっている。いい手触り。
 振り返って撮影の時の気づきを記しておきたい。



DAY1:2月3日(土)

 
 
一日の段取りの共有→ワークショップをやってもらいつつ、そのまま撮影しつつ、色々テスト→実際に植物の採取



 クランクインはYCAMでここ数年おこなっているバイオのワークショップを、撮影用に、要素を足したり引いたりして編集してもらい、それを中高生たちが実際に体験するシーンから。ラボ長の伊藤さんがレクチャーを繰り返し演じてくれた。
 このワークショップは、映画の冒頭になるだろうというシーンであり、その内容は出演者に対しては今後の撮影時の参考のためでもある。カメラを回すのは三宅さん自身。この日は撮影のテストも兼ねており、Canonの5Dを使ったり、iPhoneを使ったり、7Dも使ったりと試行錯誤が続く。画角やフレームレートも同時に探る。クランクインでもあり、テストでもある、というふわっとしたまま、カメラは回り続けるし、三宅さんも粛々と演出を加えていくのだが、何せ初日に10人ほどを集めて、演出部がいるわけでもない。頭も体もフル回転で初日を乗り切った記憶しかない。
 YCAMバイオラボにはただただ感謝。



DAY2:2月4日(日)

 
 
YCAMからすぐの椹野川周辺



 YCAM館内での撮影から始めることで、スロースタートで慣らしていく。YCAM館内各所で探り探り撮影をおこなう。主人公の一人「シュン」がYCAMに訪れるカットを撮影した時に、館内は当然通常営業しているのでフレームの外にはたくさん人がいるのだが、ほとんどそれまで物怖じする様子のなかった「シュン」はしきりに周りを気にしていた。
 彼らの友達が、普通に館内にいてダベっていたり勉強していたりする。友達に演じているところを見られることに非常に敏感、というか本人たちは露骨に嫌がったりもする。演じることと恥ずかしいが近接している感覚を想像する。そりゃそうだ、と。まだ中高生たちとの信頼関係も発展途上だったので、今後どうしようかなと少し悩んだ。
 少し外のロケに出て、この映画をリードする役になる「うめ」ちゃんが、川を渡るシーン。といっても船に乗る訳ではない。東京や都会ではまず出くわせないロケーションは徒歩5分の距離にもゴロゴロある。



DAY3:2月7日(水)

 
水曜はメインの3人のために集中する



 この週、YCAM作品の展示の巡回のため、多くのラボスタッフが東京に向かい、一方で前の現場が終わって羽田から録音の戸根広太郎さんがこの前日に山口入りし、以後録音は戸根さんが担当。張り切って様々な機材を持ち込んできてくれたことがまず嬉しかった。
 引き続きYCAM館内。ただこの日はカメラは回さず、楽屋で過ごす。三宅さんが滞在制作場所にしている部屋の隣の楽屋にセットを作っていた。セットを撮影のために作ったのはYCAMでの映画制作では初。YCAMインターラボ岩田さんと何度も打ち合わせと実験を繰り返したどり着いた。
 この日は「シュン」「うめ」ともう一人の主人公の「タケ」の三人。もちろん彼らは普段は学校があるので、基本は土日祝日を出演者たちに撮影日としてもらっていたのだがこのメインの三人だけは学校後、塾のない水曜日だけは時間をもらっていた。
 ここまで脚本がない芝居をどう組み立てていくのか試行錯誤の連続でもあり、ぼちぼち撮影にエンジンをかけていくタイミングになったので、一度立ち止まり、三人は三宅さんと相談しながら色々な話題設定でエチュードを重ね、三宅さんと一緒にセリフを作っていく作業に時間を使った。最後、少しだけセットの中でのテスト撮影をおこない、あ、いけるという感触を得て、22時に帰宅してもらう。


 というような1週目の撮影でまず覚えているのは異常に寒かったこと。例年よりも雪が多く、正直撮影がまだまだ続くことを考えると天気が心配でしょうがなかった。続く2週目の週末が、この冬最強の寒波と重なってしまい、冬の北海道で『やくたたず』を撮った三宅さんですら「こんな寒いところで撮影したことない!!!」とまで言わしめたロケになるのだが、この続きは次回。





杉原永純(すぎはら・えいじゅん)
4/21(土)からは映画と並行して作っている展示「ワールドツアー」オープン。初日は樋口泰人×三宅唱トーク、OMSB、Hi'Specによる展示内で行なうライブなどもりもりでお待ちします。いずれも入場無料。5/27(日)までの短い会期になりますのでお見逃しなく!

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