boidマガジン

2018年05月号

俚謡山脈の民謡を訪ねて 第1回

2018年05月07日 19:12 by boid

日本各地の民謡を収集・リサーチし、DJプレイやCD・レコードの再発を手掛ける2人組のDJユニット俚謡山脈(ムード山+TAKUMI SAITO)の新連載「俚謡山脈の民謡を訪ねて」第1回目は民謡を聴き始めるきっかけについて対談形式でお届けします。



文=俚謡山脈 ムード山(M)・TAKUMI SAITO(S)


都内某所。連載第1回目ということで俚謡山脈が民謡を聴き始めたきっかけから始めよう。


「安くて未知!」が民謡レコードだった。そしてレコ屋的価値観からの脱却。

M:まず最初は?なんで「民謡」だったんだろね。

S:うーん…そもそも民謡を聞くつもりはなかったですよね。

M:正直日本文化が、とかルーツが、とかも特に意識したこともなかった。

S:祭りで馴染みがあったとかも別になかったし。知ってたのなんてソーラン節と炭坑節のイメージくらいですかね。

M:うん。身近なものでもなんでもなかった。元々民謡やってたんですか~?とかよく聞かれるけどな。

S:民謡でDJだなんてことも最初はもちろん頭になかったです。ただでも、たまたま?レコードがあったから。

M:じゃなんで「民謡のレコードを買ってみよう」と思ったんだろね。

S:え~なんでだろう?

M:こうなる前って「民謡のレコード」って持ってた?

S:うーん、少年八木節(※)とかは持ってたかもしれないですね。

M:それは「子供もの」の一環として?

S:そうですね。普通の「安い和モノ(※)」の中には紛れてはいたかも、でもそれを意識的に「民謡」として聴いてはいなかった。

M:演歌と区別ついてない的な?

S:うーん演歌とはついてたかもだけど「音頭」(※)とはついてなかったかも。というか「つけよう」って意識がなかったかもしれないですね~

M:うむ。俺はぶっちゃけると曲名とかジャケでは区別ついてなかったと思う。演歌も民謡も。で、最初に買うときは大量に買うじゃない?

S:そう、こないだ振り返ってみたんですよ。で思い出したんですけど、最初の頃に渋谷の某店に行って「それっぽいジャケ」のレコードを1枚残らず全部買ったんですよ。「和モノ」ではなくね。

M:うん。

S:その中には「舞踊歌謡」(※)も結構あり、「小唄端唄」(※)もあり、演歌はギリギリなかったかな?で、買ったものを全部聴いて、ハッキリ「民謡じゃないゴミ」があることを認識した、と。「民謡の中での良い悪い」を知る前に。ゴミとされてたレコードの中にもいろんなゴミがあるんだなと。もしかしたら民謡はゴミじゃないのかも、みたいな。それが最初の最初ですよね。

M:まあこれはいつもインタビューとかで聞かれるとそう答える、って感じの話かもだけど、モーラム(※)とかでSoiのパーティー(※)やってて、当時「辺境サイケ」(※)とかサブライム(※)みたいな流れもあって、その中で「辺境の中の一個」として日本のものに手を出した、って感は否めないのかもしれないけど…

S:否めないかもしれないけど、なんか違いますよね。なんていうのかな~意識して「日本が!」って掘り出したわけではなくて。

M:そうね。

S:やっぱ「安くて量もあったからとりあえず買ってみっか?」じゃないすかね。

M:まあね。

S:こんだけあるならとりあえず聴いてみるか、と。量聴かなきゃわかんない訳ですしね。良いか悪いかもわからないわけですし。で、ぶっちゃけ単なるレコード好きですから。「辺境好き」とかじゃなく単なるレコード好きですから。

M:でもさ。安ければ良いんだったらオフコースとかもあるじゃん。さだまさしとかも。

S:確かに!でもそれは聴かなくても大体わかってたから。やっぱ「未知のもので安い」っていうところが…

M:民謡は未知だったんだね。

S:完全に未知でしょう!

M:ワンダーランドだったんだね。

S:そうですね。

M:(一体これは)なんだろう?みたいな。

S:(内容が)悪いかもしれないけど未知、ってところにまずは惹かれたんだと思いますよ。

M:結果的にそれが日本であった、と。だってタイのレコードより民謡の方が安いもんな。じゃなければこんな短期間にこんないっぱい聴けないよな。

S:ホントにそうですね。で、内容よりもその体験としてもね。高校大学の時にユニオン(※)の10円コーナーで7インチを買ってたのと同じ体験ができたってことですね。それでなきゃこんなにハマってない。

M:うん、でもいわゆる「レコード好き」ってあるじゃん?文化として。あれって実はさ、「レコード屋に売ってるレコード」が好きというか。「レコード屋の付けた価値」に意味を置く文化でさ。まあそういう「レコード好き」の人もハードオフとか行って掘るんだけどさ、「レコード屋が高く付けてたレコードがハードオフだと100円」みたいな落差を楽しむっつうか。もしくは「レコ屋では値段つけてないけど内容は良い」とか、結局レコ屋が基準になってるのね。民謡はレコ屋的な価値はプラマイゼロなのよ。今んとこね。だから単に「音」が転がってるというか…

S:安物好きだったから…でもそれもありますよ。一般的に評価されてないものの中に何かあるのかな?っていう。

M:「レコード屋に売ってるレコード」以外を買うっていうのはSoiの二人も…まあSoiはモーラムの魅力ってのが先にあったのかもしれないけどね。

S:確かにそうですね!だって民謡の魅力が先にあって始めたわけじゃないですからね。

M:うん、まあこの話はそれこそ「辺境」が盛り上がったのにも重なる部分かもね。ebayっていう新しい市場が出来てさ、別に日本のレコード屋の価値基準に合わせることないんだって気づいてさ。俚謡山脈は、変な話だけどその日本国内バージョンって言えるのかもしれない。日本のレコ屋の付けた値段とか、その価値基準から飛び出したい!っていうかね。

S:葬儀屋(※)の値段とか価値基準には結構踊らされましたけどね…

M:そうね!ただ、Soiのパーティーは最初からいわゆる「辺境」的な面白がり方、つまりサイケやガレージやディスコやファンクの非西洋バージョンを探すような面白がり方ってよりは、より現地っぽさを感じる音源でってとこに重点があった気がするけどね。

S:そこに民謡がしれっと飛び込んで来た、と。


少年八木節 
ビクターには「ビクター少年民謡会」テイチクには「テイチクわらべ会」など、各レコード会社には子供による民謡グループが存在し、民謡的な価値とは別に「子供もの」として割と人気がある(ものもある)。

和モノ
主に日本の歌謡曲のこと。中でもファンキーだったりジャジーだったりDJに使えるようなサウンドのレコードを指すことが多い。


音頭

ここでの音頭とは、東京音頭以降に作られた洋楽とミックスされた音頭のレコードのこと。その手の音頭は「太鼓入りの洋楽」であり、民謡ではないのだが、一般的に区別がついていない場合が多い。


舞踊歌謡 

新舞踊と呼ばれるジャンルの踊り用に使われたレコード。ほぼ100%大仰なオーケストラアレンジによる演歌風のトラックで、テンポも遅くDJには使えない。民謡のレコードを集め出すと、もれなく舞踊歌謡も集まってくるが、ジャケや曲名が民謡と似ているので初心者は注意が必要だ。


小唄端唄

邦楽の一種で、三味線の伴奏で歌われる。小唄と端唄も厳密には違う音楽だが、この手のレコードも民謡レコードと一緒に売られていることが多いため自動的に集まってくる。ちなみに長唄は多くが10インチのレコードなので見分けが簡単だ。

モーラム 
タイ東北部イサーン地方やラオスに伝わる芸能。語り物の構造を持ち、伝統的な祭礼や劇の中で披露される一方、1970年代以降はポップスと融合を果たし、ルークトゥン・モーラムとして発展。現在に至るまでタイの商業音楽の中で確固とした地位を確立している。

Soiのパーティー 
歌舞伎町で不定期開催されているパーティー「Soi48」のこと。同名の2人組DJユニットを中心に、音楽仲間が集まって運営されている。俚謡山脈はそこに所属している。当初はモーラムをはじめとする、主にタイ音楽をプレイするパーティーとしてスタートした。

辺境サイケ 
00年代あたりから南米やアジア圏のサイケやガレージパンクを発掘する動きが盛んになり、レコード屋には「辺境サイケ」「辺境ガレージ」といったコーナーが作られたりした。それまでの「ワールドミュージック」とは違い、現行ではなく過去の再発・発掘に重点が置かれていたのがポイント。「辺境」という呼び名については色々な意見がある。

サブライム
SUBLIME FREQUENCIESのこと。マーク・ジャーギスとアラン・ビショップを中心に運営されているアメリカはシアトルのレーベル。それまでのワールドミュージック的な視点とは一線を画すDIY&パンクな姿勢で東南アジアやアラブ、アフリカの音源を次々にリリース。非西洋の音楽を「単にヤバい音楽」として紹介し、エキゾチシズムから解き放った。


ユニオン
赤と黒でおなじみのレコード店のことです。

葬儀屋
葬儀屋の民謡レコード在庫を大量に買いまくっていた時期があります。





アレンジへの考え方の変化・聴き方の変化「これは新しい音楽だ」

S:ムード山さんと民謡情報を共有したのって、俚謡山脈始める前の一年弱から半年ぐらいで、それまでは密やかな楽しみとして家のターンテーブルにしか乗ってない時期が一年半ぐらいあったんですよ。誰に聴かせるでもなく…

M:俺はハナからDJで使う気は満々でさ。というか、こんだけ買ってたら何かしたいな~というか… とりあえずMIX(※)作りたいなとは思ったかな。

S:俺が客観的に最初の頃のムード山さんを振り返ってみると、ルークトゥン的(※)な?アレンジされたものの中でのヤバい民謡を探したがってたじゃないですか。

M:そうね!まぁ今でもそうだけどね。

S:でも実際そういう(アレンジされた)方面でヤバい民謡ってそんなに無いから…

M:まあ無いんだよね。でもさ、「アレンジ」っていう概念も結構変わったよね!

S:そうですね!

M:そう、最初はさ。ベースや洋楽器やオーケストラが入ってるのが「堕してる」(※)もので、太鼓や三味線だけの民謡は昔ながらの素朴なものだな~って思ってたんだよね。でも、聴いていくうちに三味線や太鼓が入ってるってことがすごい洗練されたアレンジされた結果だってことに気づくんだわ。どんな民謡も、だいたい元々はほぼ声だけでさ、その声だけの唄が創意工夫の元、ああいう三味線や太鼓が入ったバージョンになっているっていうね。

S:「堕してる」「堕してない」って話はこの連載のはじめの方にするべきなんですかね?

M:割とベースになる話だからな… しかしさ、知らない安レコ買って嬉しいな~ってだけだと「新しい和モノ」ってとこでしかないと思うんですよ。

S:う~ん。でも…前段階の辺境、辺境っていうのもどうなのかな…まあモーラムとかも含めて、「西洋的な聴き方じゃなくなってきた」っていう部分が一番デカイわけじゃないですか。

M:うん!じゃあその「西洋的な聴き方」を規定してたものは一体なんですかね?斉藤くんとか特にDJしてたわけでもないから、ブレイクを探すとかもなかったわけでしょ?

S:全くない。でも民謡に出会う前からアウト・オブ・キーなものはずーっと好きで、実験音楽とかフリージャズとかニューウェーヴの中のノイズな部分とか、いわゆる「西洋基準」からいかに逸脱しているか?みたいな聴き方は昔は確かにしてて、まあそれもその「基準」があっての話なんですけど。で、民謡のレコードに出会った時に、それを買って聴いてみて「これは西洋基準とか関係ないぞ」ってのは割と早い時期から感覚的にはわかったんですよね。実際に民謡を聴いてみたら「あ、違うんだ」っていう。じゃなきゃこんなに大量に買うことにはならなかったと思うし。

M:うん。感覚的なもんだよね。中々言葉にできない。モーラムの中でも「これは(西洋ではなく)ここにしかない、特別なもんだ」ってやつと「そうでもないかな?」ってやつがあると思うし。感覚。で、最初は演歌も間違って買っちゃったじゃん?でも「演歌はつまんない」っていう感覚って今も当時もそんなに変わってなくない?

S:そうですね!演歌も舞踊歌謡も間違ってたくさん買って、迷わず「民謡」を選択できましたね。演歌は聞いた瞬間に…

M:これは洋楽でしょ、って。

S:なりましたね~ 演歌も舞踊歌謡も和モノも「国産の洋楽」でしたね。

M:洋楽だとさ、買う意味がないんだよ。いや、洋楽好きな人いるのわかるし俺も好きだけどさ。なんというか民謡は…フレッシュだったんだよ、やっぱり。「これは全然違うわ!」っていうのに気づいたんだよな。演歌、舞踊歌謡、音頭はさ、「全然違く」ないんだ。まぁだいたい同じなんだよロックとかと。民謡は違うんだよ。そういう意味では小唄端唄の方がフレッシュだったよな。

S:そうでした!俺、小唄端唄はデレク・ベイリーだとか言ってましたもん。まあ一番言いたいことは「聴いたことない音楽だった」ってことですよね。「これは新しい音楽だ」と。それで、俺らがそう思うんだからみんなそう思うんだろうなっていう確信があった。

(続く)


MIX
俚謡山脈として活動を始める以前、タイ人DJのマフト・サイが経営するZUDRANGMA RECORDSのZUDRANGMA RADIOに民謡のMIXを提供したことがあった。今でも聴けます。


ルークトゥン 
タイの音楽ジャンルの一つ。「田舎の歌」という意味を持つ歌謡曲の一種だが、ここでは前述した伝統芸能のモーラムと結びついたルークトゥン・モーラムのことを指している。土着の芸能+電化ポップス、ぐらいの意味で読んでください。



「堕してる」

俚謡山脈用語。浅野建二著「日本の民謡」(1966年)に出てくる言葉「堕す」を、我々はよく使用する。浅野先生的には「郷土色を失う」という意味だが、我々は「洋楽的なアレンジがされている」ぐらいな意味でも使います。この話は連載の中で詳しく触れていきたいです。
以下引用:民謡の本質は、やはりその生まれた土地の匂いという点にあるべきで、その土地の匂いーすなわち郷土色を失った民謡は、もはや「民謡」ではなくて最下級の「流行唄」に堕したものといってもよかろうと思う。



俚謡山脈(Riyo Mountains)[ムード山+TAKUMI SAITO]
世界各国の音楽がプレイされるDJ パーティ「Soi48」内で活動する日本民謡を愛する2人組DJユニット。日本各地の民謡を収集/リサーチし、DJプレイしたりCDやレコードの再発を手掛けている。主なリリースにMIXシリーズ「俚謡山脈 MIX VOL.1」~「VOL.4」、「田中重雄宮司/弓神楽」(監修/エムレコード)、「境石投げ踊り」(監修/エムレコード)など。ロンドンのインターネットラジオNTS LIVEに日本民謡だけで構成されたMIXを提供。農民ダイナマイト(山梨県)、大和町八幡神社大盆踊り会(東京)など各地のパーティーにDJで参加。
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Twitter @riyomountains
E-Mail riyomountains@gmail.com

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