boidマガジン

2018年05月号

Television Freak 第27回 (風元正)

2018年05月16日 21:44 by boid

家では常にテレビつけっぱなしの生活を送る編集者・風元正さんが、ドラマを中心としたさまざまな番組について縦横無尽に論じるTV時評「Television Freak」。今回は現在放送中の連続ドラマから、『半分、青い。』『Missデビル 人事の悪魔・椿眞子』『シグナル 長期未解決事件捜査班』の3作品を取り上げます。 

益子陶器市のシンボル(撮影:風元正)




時はただ優しいだけではない


文=風元正


 ゴールデンウィーク、益子陶器市に足を運んだ。もとより、焼き物については無知にひとしいが、妻は少し習っていた。長く愛用した妻作の青いビアマグはふちが欠けている。朝6時出発、東京より150km。2時間半かかったが、到着して愕然。街中、色とりどりの陶器で溢れ返っており、めまいがする。50店舗500張以上のテントがあるらしいが、どこがどこやら。一回りして、いわゆる「作家さん」のちゃんとした器はいいお値段だが、普段使いならば1000円前後の器でも十分だし、掘り出しものはいくらでもあると知れた。ただ、サイズが大きいと途端に高くなる。あらゆる意匠の陶器が揃っていることを確認した頃にはもう、刺激を受けすぎてヘトヘトだった。
 益子陶器市は春秋開催で101回を数え、最近の人出はすさまじい。昼前にはもう、道という道は人と車で一杯になるし、人気作家の作品を手に入れるのは朝6時前から整理券を求めて行列しなければならない。しかし、私はこの催しに深く納得した。ぜひ、柳宗悦に益子の市の熱気を見て頂いて、「民芸運動」の未来の姿を知らせたい。あるいは、IKEYAやニトリをバウハウスのデザイナーが見たら、自分たちの思想が不思議な形で実現したと考えたりはしないか。

典型的な店先の風景(撮影:風元正)
どこも陶器と人だらけ(撮影:風元正)
 



 『半分、青い。』にノッている。子役が出ていた頃から快調だったが、いま書くと決めたのはくらもちふさこ『いつもポケットにショパン』が出現した興奮を記録したいからだ。劇中ではくらもちふさこではなく秋風羽織(豊川悦司)作。ちょっと古ぼけた本のあの表紙に違う名前が記されているのに仰天した。でも、マンガの中味は同じだから、一風変わったパラレルワールド。舞台の梟町も岐阜にある架空の街である。主人公の楡野鈴愛(永野芽郁)と萩尾律(佐藤健)の長い成長物語の一幕、高3の夏休みに律が秋風のマンガを1タイトルずつ貸すのだが、方向は男女逆がフツーかもしれない。全作品を読み終わった鈴愛の「秋風羽織のマンガには、私の思ってる事がみんな描いてある。私は世界が分かった」というセリフには大同感だった。
 脚本の北川悦吏子は美濃加茂市出身で1961年生まれ。鈴愛と律は1971年の同じ日、同じ産院生まれだから10歳下であり、『ひよっこ』の岡田惠和と同じく、物心ついてからの同時代史を書いている。馴染み深い昭和の終わりと平成の初めが舞台なのが嬉しいのはオジさんだから許して欲しい。左耳が聞こえない鈴愛と引っ込み思案の元神童・律の組み合わせは、北川の内奥にひそむ2つの人格の表われという印象を受ける。
 永野芽郁がすばらしい。飛んだり跳ねたり走ったり。「ふくろう商店街」をスキップで駆け抜けてゆく躍動感はだれにも出せない。授業が聞こえなければ付け耳をしたり、ハンデをものともしない明るさで逞しく生きてゆくわけだが、何か事件が起こるたびにちがう表情が飛び出してくる。東京行きを反対する「マグマ大使」のゴア、母の晴(松雪泰子)の説教に対して「漫画は競争の世界やない。夢の世界や。私は夢の種を手に入れたんや」と涙を浮かべた瞬間、こちらも貰い泣き。書き起こしてみると、さすが北川悦吏子、名セリフの宝庫である。
 鈴愛中心だとほのぼの空間が基本だが、由緒正しき写真館の子で「永久機関」が不可能と気づいたのが挫折、という律と2人になると、とたんにしっとりとする。佐藤健は「ガラスのハート」でプライドは「チョモランマより高い」少年を涼し気に演じている。鈴愛が「マグマ大使」の笛を吹いて呼び出し、2人で歩くシーンはいつも心なごむ。律の母親・和子役の原田知世は、やっぱりよろめかない方がいいです。『時をかける少女』のまま、母となって頂きたい。中村雅俊、滝藤賢一、谷原章介、矢本悠馬、奈緒など、周囲の役者さんも好演しているが、目はついつい鈴愛と律に向かう。
 それにしても、豊川悦司。フリーダムだけどめちゃ神経質。出てくる毎に爆笑してしまう。鈴愛の実家の「つくし食堂」の五平餅を「うっま! これは真実の食べ物だ」という表情は、エキセントリックな天才を演じ続けてきた年輪の賜物と形容するしかない。きしんちゃんが大人になったら、こういうキャラになるのかも。弟子入りした鈴愛は、さて、憧れのマンガ家になれるかどうか。橋本治の『花咲く乙女たちのキンピラゴボウ』を読み、くらもちふさこは文学を越えた、とかトンチンカンなことを考えていた当方の昭和の終わりをつい思い出してしまう。
 『半分、青い。』は、テレビドラマによって平成年間のかなりの歳月を総決算するはじめての試みになるはずだ。「ぎふサンバランド」計画が頓挫したバブル崩壊直後はまだのんびりしているが、食堂も写真館も当然、経営危機に瀕するはずで、時はただ優しいだけではない。半年続く朝ドラ枠でなければ取り組めない意欲作。少女マンガ的感性を待つ2人がどんな運命を辿るのか、毎朝、見逃せない。


連続テレビ小説『半分、青い。』 NHK総合 月~土曜 午前8時放送

 



 『Missデビル 人事の悪魔・椿眞子』は、老舗の損害保険会社「共亜火災」の新人研修でいきなり「退職願い」を書かせ、50人いる新入社員を10人に絞ると宣言し、ビリーズブートキャンプ風の外人の監視下、ランニングや穴掘りで地獄に落とす展開を見た時は、いったいどうなることか、怖いものみたさの興味が先行した。しかし、人事コンサルタントの椿眞子が最後に残った新人11人のうち、小生意気な財務省の局長の息子の同僚いじめの現場動画を押さえて「会社に真に不必要な人材」と断じるオチを見て、これは筋が通っていると感心した。
 凄腕の「人事の悪魔」椿眞子を演じられるのは、ピンヒールで軽々と回し蹴りができる「和製シャロン・ストーン」菜々緒しかいない。鉄の指し棒で演台を叩き、ミニスカで足を何度も組み換え、「あなたには会社を辞める権利があります」という決めセリフがよく似合う。隅々まで「どS」でゴージャスな女性像を作り込んでゆく演技は真にプロフェッショナルである。研修後、眞子は「人材活用ラボ」の室長として迎えられて次々とリストラを断行するが、きちんとした人材は退社した方がよかったと感謝しているから血も涙もある。一方でセクハラ上司や産業スパイは、会社にマイナスという証拠を固めた上できちんと成敗される。
 物語の狂言回し役を務める新入社員・斉藤博史(佐藤勝利)は、眞子の部下となり、無茶な命令に絶叫し、右往左往しながらいい味を出している。まだ油断されない若手で、正義感溢れる性格が実は情報収集に役立っているのを、いつ気づくのか。同期と呑むたびに、特命をつい明かしてしまわないか、ハラハラさせられるのも面白い。第3話、まるで働かない若手独身「モンスター社員」を、年次と年収から決してリストラ候補にしてはならない、と命じられるが、眞子の判断の意味を知れば一歩前進。だんだん、エリート教育を施されている気がしてきた。眞子の実力に目を開かれてゆく温情派の人事部長・伊東千紘を演じる木村佳乃ははまり役だし、斉藤の同期の藤堂真冬(白石聖)はまっすぐで清潔感があり、成長しそうな注目株だ。
 日本の「会社」は、社会の中で世界でも類を見ない大きな位置を占めている。「就活」から一括採用される社員は、基本、ずっと同じ「ムラ」的な組織の中で生きる前提を受け入れている。手垢のつかぬ「新卒」中心の採用は、会社の寿命が短くなり終身雇用を守れないのに一向に変わる気配がない。ドラマでも、会長・喜多村完治(西田敏行)が「社員は家族」という信念を披露し、その方針のせいで駄目になったと考える社長・大沢友晴(船越英一郎)と対立しているが、身に覚えのある会社員は多いだろう。「働き方改革」の画餅ぶりと無責任部長の軽さもありがちな話でリアルだった。最先端の情報機器を使いこなす「劇薬」椿眞子の外資流の「改革」の行く末をぜひ知りたい。


『Missデビル 人事の悪魔・椿眞子』 日本テレビ系 毎週土曜 夜10時放送

 



 『シグナル 長期未解決事件捜査班』は、過去とつながる謎の無線機を手にしてしまった刑事の物語である。相手も刑事。電池もない廃棄寸前だった無線機が作動するのは23時23分だけだが、いつの時点からの通信かはわからない。韓国のドラマのリメイクだが、主人公の現代の刑事・三枝健人(坂口健太郎)が過去の刑事・大山剛志(北村一輝)に未解決事件の解決の糸口を教えたら、ホワイトボードにマジックで書かれた文字が揺れながら消えてゆくシーンにクラクラした。
 タイム・トリップにより過去を改変するとどうなるか。1人の生死が動くだけで影響は甚大だから、思考実験としては難度が高い。このドラマでは、過去と未来の人間が事件を解決するために力を合わせ、結果、「長期未解決事件捜査班」のファイルが書き換えられたり、事件が消えたりしてゆく。足元が常に揺らいでいる世界の物語である。タイム・パラドックスの論理の面倒臭さを軽々と乗り越える大胆さが好ましい。
 三枝は子供の頃、誘拐事件の現場を目撃し、犯人の情報を伝えたのに無視された経験がある上、兄が無実の罪で逮捕されて自殺しているから、警察組織をまったく信用していない。アメリカでプロファイリングを学び、2つの事件でこころに傷を負った自分のような犠牲者を出さないよう情熱を傾けている。1997年の事件を担当している刑事と会話ができる事態に慣れるのは難しいはずだが、坂口健太郎は青白い狂気を孕む演技で見事に応えている。
 一方、20年前の刑事である大山も、警察社会の論理からつい外れてしまうが真相に迫ろうとする意志は人一倍強く、三枝を動かして事件を防ごうとする。北村一輝は、不器用な生き方しかできない男の怒りと哀しみを体ごと表現している。また、今は三枝と同じ班にいる桜井美咲(吉瀬美智子)は、かつて大山が教育係であり深い絆で結ばれていた。三枝の活動により、どこか歪んでゆく捜査現場で怒る時の険のある表情がなんともいえず美しい。
 秀逸なのは犯罪者たちで、女児誘拐犯の吉本圭子(長谷川京子)の赤い唇は官能的だし、引きこもりの息子の連続殺人を隠そうとするバス運転手・田中修一(モロ師岡)の妄執は恐ろしい。また、捜査一課係長の岩田一夫を演じる甲本雅裕の決壊寸前の鬱憤に充ちた顔にも惹き込まれる。いかにも腹黒い刑事部長・中本慎之助(渡部篤郎)の悪事の揉み消し役だから、ストレスフルだろう。
 戦後、この国が相対的な安定を享受していたのは、結局、経済成長が確実だった時期だけだった。組織の倫理が危機に瀕し、地震や台風などの天災による大被害が頻繁に起こる平成末には、ところどころに不気味な穴が開いている。「シグナル」の世界観は、何が起こってもおかしくない、という私たちの脅えと背中合わせに成立している。


『シグナル 長期未解決事件捜査班』 カンテレ・フジテレビ系 毎週火曜 夜9時放送

 



 先日、4人家族で契約していたスマホの2年縛りが解けたので機種変更に行った。すると、店員さんに他社への乗り換えを断固勧められて、別の窓口まで連れてゆかれたのに驚いた。「そちらの方が安いです」の一点張り。さまざまな条件が揃っていたせいだが、もう、訳がわからない。スマホを変えるたびにぐったりするが、2年たつと自然に使いにくくなるからどうにもならない。大量すぎて読み切れない契約の条件や、問い合わせるたびに流れる「品質向上のために録音します」という無機質なアナウンスなど、煩雑に感じる事どもは限りなく増えてゆく。
 脈絡をつけたいわけではないのだが、社会のややこしさが限度を越えたのと、益子陶器市のような催しや美術展、観光地や人気の街が滅茶混みになり、どこへ行っても行列覚悟が当然になった時期は重なっている気がする。人口はここ30年ほど、だいたい同じなのに。いま『半分、青い。』はちょうど1990年頃を描いているが、あの頃からおっそろしく世の中は変わった思うと同時に、ただ深い停滞が続いている気もする。
 3つのドラマは、人混みの中でふっと捉われる空白とか、どこぞの窓口でしばし呆然とする瞬間の不安のありかに触れてくる作品だった。あんたがただ歳とっただけや、と言わんといて。

(撮影:風元正)





風元正(かぜもと・ただし)
1961年川西市生まれ。早稲田大学文学部日本史学科卒。週刊、月刊、単行本など、 活字仕事全般の周辺に携わり現在に至る。ありがちな中央線沿線居住者。吉本隆明の流儀に従い、家ではTVつけっぱなし生活を30年間続けている。土日はグリーンチャンネル視聴。

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