世界各国の音楽を発掘・収集するユニットSoi48が、微笑みの国=タイの表と裏を見せてくれる連載「微笑みの裏側」第23回目です。今回は今週末8月12日(日)に渋谷WWWXで開催される見逃せない音楽イベント「爆音映画祭2019 特集タイ|イサーン VOL.3 プレイヴェント」のために来日するクン・ナリンズ・エレクトリック・ピンバンドとイベントについての紹介です。ピンバンドとの出会いとその魅力については「微笑みの裏側 第10回」もぜひ読んでください。

文=Soi48
「爆音映画祭2019 特集タイ|イサーン VOL.3 プレイヴェント」〜ピン・プラユック・スペシャル〜

1970年代初頭、タイ東北部イサーン地方ではベトナム戦争の影響で米軍基地が設けられ欧米のカルチャーが盛んに流入していた。ウボンラーチャターニーのお笑い一座ペット・ピン・トーンのノッパドン・ドゥアンポーンは伝統音楽を守るためにタイに流入してきた西洋音楽に対抗できる方法を考えた。エルヴィス・プレスリーを聞いたノッパドンは音量の小さいイサーンの伝統楽器ピンを電気化し、エレキギターのように改造して、一座のピン奏者トンサーイ・タップタノンに演奏させることを思いつく。新しいイサーン音楽を作り出すことを目指したノッパドンとトンサーイは三本弦(現在のピン奏者は三本弦が圧倒的に主流)ではなく二本弦にしてギターのチューニング(西洋の十二音階平均律)ではなくポンラン(タイの木琴)に合わせて調整した。ポンランは西洋の十二音階平均律と異なり、七音階平均律であるためにズレが生じる。さらにトンサーイのピンはギターと異なりフレットが打ち付けられていない。粘土のような樹脂で張り付けられており可動式なのだ。トンサーイはSoi48のインタビューで「エレキギターと構造が同じにならないように気をつけた。西洋の真似ではなくてイサーンの新しい楽器を作りたかったんだ」と語っている。
そしてさらに驚くのは弦に電話線を使っていることだ。電気化に伴い様々な弦を張ったのだが電話線が切れやすいが一番いい音色が出るそうなのだ。このようにあえて西洋の価値観に合わせない電気ピンが制作された。この工夫は同じ時期にジャマイカで産声を上げたダブと同等といっても過言では無い。伝統楽器を発展させたそのサウンドはイサーン中で流行し電気ピンを取り入れる楽団が次々と現れ、電気ピンはイサーン音楽を代表する楽器となった。それまでは出家や冠婚葬祭のパレードは打楽器が中心だったがトンサーイとその弟子達は電気ピンを導入するために耕運機に拡声器を備え付けたサウンドシステムを制作。その奇抜なアイデアが娯楽好きのイサーン人の心を捉えウボンラーチャターニー周辺からイサーン全体へと広まっていった。これがピン・プラユックのはじまりである。
90年代に入るとピン奏者カマオ・プードタノンが7音平均律だったピンのチューニングを西洋音階に合わせ、ピンの教則本を作成し、徒弟制度を作った。それにより誰でも手軽にピンを習い、弾くことができるようになりピン・プラユックは全国的に流行する。00年代に入るとインターネットに誰でも動画を投稿できる時代になり、エフェクターやサウンド・システムのアップグレードやピンの早弾きなど競うようになり様々な編成のピン・プラユック楽団が生まれることとなった。
現在ではタイ全土で見ることのできるピン・プラユックだが、あくまで出家や冠婚葬祭の為に集められた地元ミュージシャンのグループなのでCDやカセット、レコードなどで録音されたものは非常に少ない。タイのCDショップで売られている物も電気ピンを学ぶための教則本ばかりでスタジオ録音されたものはほとんど無い。コンサートをするようなジャンルでも無いので、もし現地で体験したくても観光客にはなかなか大変だ。つまり現地の出家や冠婚葬祭行事に潜り込まないと体験できない音楽なのである。
今回来日するクン・ナリンズ・エレクトリック・ピン・バンドもタイで定期的にコンサートを開催しているわけではない。STONE THROWとも交流があるロサンゼルスのインディー・レーベルINNOVATIVE LEISUREからリリースされ欧米で公演したが、基本的に出家や冠婚葬祭行事でしか見られないバンドである。しかも空族『バンコクナイツ』の撮影以降、バンドは年長者と若者の2組に分けて活動。バンドとしては解散状態だったが、今回の来日では映画の世界観そのままにオリジナルメンバーを集めての演奏になる。クン・ナリンズ・エレクトリック・ピン・バンドはラオスからの移住者が多く住むペッチャブーン県出身。打楽器を多く取り入れた荒々しいスタイルはバンコク近郊のピン・プラユック楽団と異なっている。
一方バンコク近郊のピン・プラユック楽団の代表と言えるのがP-VINEから1STアルバム『Samurai Mekong Activity』リリースする日本人初のピン・プラユック・バンド、モノラル・ミニプラグである。彼らの師匠はバンコクの近郊のサムットプラーカーン県のコンプートン楽団のテック・ラムプルーンである。テック・ラムプルーンはピン奏者カマオ・プードタノンとも交流がありエフェクターや早弾きを駆使したハイブリッドなスタイルが特徴だ。8月12日は2組の異なるスタイルを楽しんでいただきたい。
さらに、ROVO、stillichimiyaとタイ音楽に魅せられた豪華ゲスト陣が強力サポート!こちらも見逃せない。 イベント開催にあたりピン・バンドが2組いるならできるだけ本場タイと同じように楽しんでもらいたいと考えた。ということでステージという概念を取っ払ってWWWXのフロアをピン・バンドが練り歩きます!WWWXの最高の音響システムを使って本場の出家儀式同様歩きながら踊りまくる、まさしく室内レイブ。クーラーの効いた場所で酒を飲んで踊れるなんで最高じゃないですか?!夏フェスもいいけど世界的に類を見ない貴重な音楽体験ができること間違いなしです。タイムテーブルはこちらから。
「爆音映画祭2019 特集タイ|イサーン VOL.3 プレイヴェント」〜ピン・プラユック・スペシャル〜
http://bakuonthai2019.com/
<日時>
8月12日(日)
15:45 OPEN&START
15:45-16:15 開場/クン・ナリンズ・エレクトリック・ピン・バンドによるお出迎え
16:15-16:45 Soi48
16:45-17:45 ROVO
17:45-18:15 Soi48
18:15-18:55 stillichimiya
18:55-19:25 Soi48
19:25-21:25 MONAURAL MINI PLUG〜クン・ナリンズ・エレクトリック・ピン・バンド
<出演>
クンナリンズ・エレクトリック・ピンバンド、ROVO、stillichimiya、MONAURAL MINI PLUG
DJ:Soi48
FOOD:36 chambers of spice、piwang
<料金>
前売5000円/当日5500円(ドリンク代別 500円)
※中学生以下はドリンク代500円のみでご入場いただけますが、必ず保護者同伴の上、保護者の方が責任を持って見守っていただくことが条件となります。ピンバンドはフロアで動いての演奏となりますので、安全面にご協力いただけますようお願い申し上げます。
<前売券>
イープラスにて発売中!
http://eplus.jp/bakuonthai2019pre/
※出演者については、必ず公式サイトをご確認の上お申し込みください。
※ドリンク代別/各整理番号順にご入場いただきます。
※再入場は不可となります。
<会場>
WWW X
〒150-0042東京都渋谷区宇田川町13-17 ライズビル2F
TEL 03-5458-7688
http://www-shibuya.jp/access/
微笑みの裏側 第10回
クン・ナリンズ・エレクトリック・ピン・バンドとの出会い、その魅力について。
https://boid-mag.publishers.fm/article/13926/
[Soi48(宇都木景一&高木紳介))
(KEIICHI UTSUKI&SHINSUKE TAKAGI)
旅行先で出会ったレコード、カセット、CD、VCD、USBなどフォーマットを問わないスタイルで音楽発掘し、再発する2人組DJユニット。空族の新作映画『バンコクナイツ』にDJとして参加、EM Recordから発売されているタイ音楽作品の監修も手がけている。タイ音楽と旅についての書籍「TRIP TO ISAN :旅するタイ・イサーン音楽ディスクガイド」好評発売中。Soi48ウェブサイト
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