boidマガジン

2018年10月号

映画は心意気だと思うんです。 第2回 (冨田翔子)

2018年10月03日 17:15 by boid

ホラー映画をこよなく愛する冨田翔子さんが“わが心意気映画”を紹介してくれる連載第2回は、前回の『ダーク・スター』に続き再びジョン・カーペンター監督作品の登場です。今回取り上げるのは、現在〈製作30周年記念HDリマスター版〉が公開中の『ゼイリブ』。サブリミナル効果によるエイリアンの侵略を描いた本作を今見て思うこととは? そしてタイトルにある、スカイプに書き込んだ「obeeeeeeeey」とは!?




スカイプに書き込んだ「obeeeeeeeey」
『ゼイリブ』(1988年、ジョン・カーペンター監督)


文=冨田翔子


『ゼイリブ』が、9月28日より〈製作30周年記念HDリマスター版〉としてリバイバル上映中だ。最新のリマスターでは、画質・音声ともに向上しているとのこと。

実は、私は『ゼイリブ』と同級生。本作がアメリカで封切られた12日後に誕生した。うれしいことに、イベント上映や映画祭での上映に巡り会い、劇場で3度この作品を鑑賞したことがあるが、自分より一回りから二回り上の世代の観客がたくさん集まり、ワイワイと盛り上がったことを覚えている。

『ゼイリブ』は、主人公のホームレス、ネイダが世界の危機に立ち向かう物語だ。ネイダは相棒のフランクとともに、巨大な敵に戦いを挑む。巨大な敵とは、地球を侵略したエイリアン。ふだんは人間と同じ姿をしていて見分けがつかないが、特殊なサングラスをかけると世界がモノクロになり、ガイコツのようなエイリアンの顔が露わになって、だれが宇宙人か識別することができる。それだけではなく、街のいたるところの看板や本の表紙などに「OBEY(服従せよ)」「CONSUME(消費しろ)」「WATCH TV(テレビを見ろ)」といったサブリミナル効果の扇情句が描かれていることが発覚し、人類は無意識下で宇宙人に洗脳されていたことが分かるのだ。

さて、私が『ゼイリブ』を初めてみたのは、前回書いた『ダーク・スター』とほぼ同時期。まだ学生気分だったので、ネイダのかけるサングラスにドラえもんの秘密道具のようなときめきを覚えた。この映画が製作された当時、アメリカで声高に謳われた消費主義。それに怒っていたカーペンターがこの映画に込めた「目を覚ませ」というメッセージは、頭ではなんとなく理解していたものの、すでに『ゼイリブ』が言わずと知れた“カルトSF”という立ち位置の作品だったので、本当の意味で実感していたわけではなかった。



かつて、『ゼイリブ』の反骨精神に一番近づいたのは、会社員のときであることは間違いない。それは社会に足を踏み入れて3年ほど経った頃、私はIT会社に身をおいていたのだが、相も変わらず落ちこぼれで、プログラミングを理解する能力がまるで無く(これは大げさではなく、本当になかった)、「なぜこの業界に来てしまったのか…」と自問自答する日々を送っていた。それはさておき、ITの現場は過酷だ。客の無茶振り、システムの不具合、納期との戦い。中でも辛いのは「デスマーチ」だ。デスマーチとは、理不尽なスケジュールで開発を迫られた結果、隅々まで行程が行き届かずシステムがガタガタになり、働いても働いても完成するどころかプロジェクトの終わりが見えず、「死の行進」をするように現場が疲弊することをいう業界用語である。そうなると、私のような役立たずでもテストに動員され、よくわからない仕様書を片手に四苦八苦することになる。

社員同士のやり取りはスカイプを使っていた。簡単な連絡事項や、テストや本番を迎える合図などは、メールや電話よりもスムーズに伝えられるからだ。そんなスカイプには、当然ながら愚痴も書き込まれる。夜も更けてくると、先輩からの「眠い」「ツライ」「(疲れて)目が見えない」などの悲痛な叫びを目にすることも多くなる。そこで私がやっていた遊びが、そういったつぶやきに対してすかさず「sleeeeeeeep」「obeeeeeeeey」と書き込むことだった。すると、『ゼイリブ』の映画を知っていても知らなくても、言葉のゴロが面白かったのか、次々「obey」「obey」と書き込まれ、スカイプが「obey」まみれになるのだった。

実のところ、「デスマーチ」に陥るような案件は、一度開発をやめて、ゼロから作り直すほうが早いのではないかと思えてくる。しかし、そんなことは許されず、エンジニアはプログラムを1箇所直すと他の箇所に不具合が発生する「デグレ(デグレード)」を繰り返しながら、見えないゴールを目指すのである。それはなんだか、とても間違ったことをしているような、おかしな状況だったので、「obey」「don’t think」と書き込んでいたのは、「私たち、誰かに操られてこんな無意味なことしているのよ…目を覚まして…」という思いを込めた私なりのギャグであった。

そんな、密かな楽しみを与えてくれた『ゼイリブ』は、30年経った今も、こうしてリバイバル上映が企画され、ファンにとても愛されている映画だ。宇宙人を判別できるサングラスや、サブリミナルによる煽動という手法が分かりやすく魅惑的。西部劇が好きなカーペンターがこしらえた、とっておきの大喧嘩シーンは、何度観ても長過ぎておかしい。ネイダはカーペンターの思いを体現した人物であり、その権力に立ち向かうパワーは、演じたプロレスラー、ロディ・パイパーの俳優ならざる魅力も相まって嫌味がなく、永遠に失われない輝きとなった。

当時カーペンターが『ゼイリブ』で伝えたかった消費問題は、今になってもあまり変わっていないように思える。「WATCH TV」は「WATCH INTERNET」にすり替わりつつあるだけかもしれない。しかし現在、映画が公開された1988年より「消費」のシステムは複雑なものになった。紙幣に描かれた「THIS IS YOUR GOD(これはお前の神だ)」の意味は変わりないが、私たちにはより多くの選択肢が与えられている。宇宙人がいるとしたら、その種類も、きっと1種類じゃないはずだ。今の宇宙人はどこに潜んでいるのか、考えてみるのも面白いかもしれない。

ゼイリブ〈製作30周年記念HDリマスター版〉  THEY LIVE
1988年 / アメリカ / 96分 / 配給:合同会社是空 / 監督:ジョン・カーペンター / 原作:レイ・ネルソン / 脚本:フランク・アーミテージ(ジョン・カーペンター)/ 出演:ロディ・パイパー、キース・デヴィッド、メグ・フォスター他
9月29日(土)から新宿シネマカリテにてレイトショー、以降全国順次公開
公式サイト





冨田翔子(とみだ・しょうこ)
エンタメWebサイト編集部勤め。好きなジャンルはホラー映画。心意気のある映画を愛する。

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