boidマガジン

2018年10月号

Television Freak 第32回 (風元正)

2018年10月11日 16:29 by boid

家では常にテレビつけっぱなしの生活を送る編集者・風元正さんが、ドラマを中心としたさまざまな番組について縦横無尽に論じるTV時評「Television Freak」。今回は久しぶりにバラエティ番組について。サンドウィッチマンのロケ番組の面白さ、坂上忍さんが司会を務める番組が増え続けている理由について考察されています。




そしてテレビは「最適化」に向かい……


文・写真=風元正


猪熊弦一郎の戦争画「〇〇方面鉄道建設」を見て、得体の知れぬ衝撃を受けた。ゴードン・マッタ=クラーク展と併催されていたMOMATコレクション展の中の一枚。猪熊は従軍画家として3度戦地に行っており、本作は1943年、ビルマ(現ミャンマー)へ派遣されて描いた現存する唯一の作戦記録画である。地名を秘すため「〇〇」が使われているが、モチーフは「死の鉄道」として知られる「泰緬鉄道」の建設現場だ。日本の軍人だけでなく、捕虜や現地人を何十万人も動員し、莫大な犠牲者を出しながら完成した鉄道は、今では「鉄」たちの巡礼の地となっている。
なぜ、猪熊はここまで精緻に現地を描写したのだろうか? 陽光に照らされた熱帯林の緑色は憂いに充ち、剥き出しの土の上で褌一丁の捕虜たちがのろのろと働いたり、膝を抱えたりしている。銃を背負った茶色い軍服姿の日本兵たちの影は薄い。細部は異様に鮮明だが、メッセージ性は含まれていない。ドラクロワの「民衆を導く自由の女神」やピカソの「ゲルニカ」を越えようとする野心に充ちた藤田嗣治の戦争画とは対照的である。
後に日本軍の捕虜虐待の代表例とされ、デヴィッド・リーン監督が『戦場にかける橋』で取り上げた悲惨さは当然、作者の眼にも入っていただろう。しかし、「〇〇方面鉄道建設」にはただ透明な哀しみがあるだけである。猪熊は戦中の想いを語っていない。どう受け取ったらいいのか、私の心はずっと落ち着かない。



今さらながらサンドウィッチマンの2人が素晴らしい。とりわけ『帰れマンデー見っけ隊‼」の「秘境路線バス旅(バスごろく)」は毎回、秀逸である。もちろん、『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』が元祖だが、2代目の田中要次・羽田圭介コンビはやや老人虐待の気配がある『路線バスで寄り道の旅』の徳光和夫・田中律子にすら押されている。先代の太川陽介・蛭子能収の名人芸と比較するのは可哀そうとして、理性的に解決に向かおうとする態度が戦後民主主義的で退屈である。ついでに、『news zero』の有働由美子さんは頼りになる男性キャスター不在が痛いと思う。
伊達みきおと富澤たけしは「仲良きことは美しき哉」(武者小路実篤)。横山やすし・西川きよし的なプロ「仮面夫婦」が当たり前という常識をつき崩した上で、慣れ合いは一切なくお互い芸には厳しい。どちらも似た体型でゆるキャラ的な雰囲気もあり、好感度抜群。ライブに全力投球という姿勢も揺るぎなく、しばらくは独走が続くだろう。
松田龍平が出演した「バスごろく」は神回だった。「川そのものが温泉」という秘湯を目的地に群馬県中之条町を旅するのだが、バス停を降りる度に入るルールの飲食店がとにかく少ない上にやっと辿り着いたら定休日。夏日なのに「汗をかかない」バラエティ初挑戦の龍平くんは、山道を何時間も歩かされるうちに妙なテンションになってゆく。「このうどん白いからカロリーゼロ」と力説する伊達に「何の話してんですか?」と真顔で返したり、取材交渉の可否でウソを吐こうとしてもすぐ頬が緩んでしまい、「演技ヘタだな」とさんざんツッコまれたり、体力の限界から生まれる笑いが満載。龍平くんが主演した映画『泣き虫しょったんの奇跡』のパブ企画だったが、内容を説明するつるの剛士が「映画出てないけど」と繰り返すのもおかしかった。
番組に2度出演した石塚英彦もバスの中で冷房の出口を2個独占したり、食べ物があるかないかで露骨に表情が変わったりするのが愉快で、プチ蛭子さん化しつつある。「棚田と雲海の里」松之山温泉の「美女と野獣回」も最高だった。菜々緒はいくら歩いてもメイクが崩れないし、疲れを知らぬ2本の脚が長く細く、常に涼し気に振る舞うプロ根性を十二分に堪能できた。滝沢カレンの天然も、よかったですよ。鶴瓶の『家族に乾杯』の、必ず面白いハプニングが起きるという鼻高々な感じが鬱陶しい昨今、旅バラエティの頂点はこの番組だろう。同じ枠でもタカトシがMCの方は生彩がなくて残酷。サンドウィッチマンのギャグは2人の人柄から自然に生まれるものだから、太刀打ちできない。




MC坂上忍の番組が増えている。好感度の低いタレントなのに、どういう訳か。マツコ・デラックスが「この人には敵わない」と持ち上げ、「この人はスタジオで死のうとしているんだ」と評するのも理解できなくもないが、ちょっと鼻白んでしまう。しかし、『ワイドナショー』での「いやあ、老人はテレビをよく見ていますよ」という古市憲寿の発言で卒然と事情が理解できた。
弁護士懲戒請求事件により、「ネトウヨ」が実は50、60代が中心(つまり私の同世代)ということが判明したのはかなり残念なニュースだった。テレビにも同じ理屈が当てはまる。専業主婦が贅沢品となった時代、昼間にテレビを見ているのは老人だけである。だから、『バイキング』の坂上忍は主にテレビ局の「編成」方面にウケた。いつも同じセットでひな壇芸人を揃えれば済むのだから安上がりだろう。『ちい散歩』ではあれだけ丁寧なロケをしていたのに『じゅん散歩』が通販番組になった如く、「F1層」にアピールしたい夜の時間帯のほかは経費節約。テレビ局の「最適化」のために坂上忍というタレントの個性はぴったりだった。
坂上は「卓越したMC力」を持っているらしい。しかし、あの押しつけがましさに慣れることはできない。私は明石家さんま+島田紳助の番組回し術と見ているが、とにかく暗い。『バイキング』では宮迫博之や小藪千豊など降板者が相次いでおり、独裁的なMCの断定に逆らう者は許されないようだ。いったい、縁もゆかりもなく自分で取材したわけでもない人物や事件について、ある「空気」を醸成しつつ、はっきり白黒つける自信はどこから来るのか。置物の柳原加奈子とか政治だけは語って欲しくないそのまんま東とか、実はお追従が十八番の土田晃之とか不愉快な物件も揃っており、まあ許せるのはアンガールズ田中の純真さだけ。
迂闊に褒めてしまって後悔しているのだが、『ワイドナショー』は安倍晋三が出演してから圧倒的に退屈になった。芸人は反体制であるべきとは思っていないが、松本人志は強者に優しいと判明してげんなりしている。もとより、『THE われめ DE ポン』に出ていて年末に稼いだ金全額競艇に賭ける人、という認識しかなかった苦労人・坂上忍の出世を批判するつもりは毛頭ない。視聴者は見ない権利を行使すればいいだけだが、逃げ場がどんどんなくなってゆく感じがしんどい。橋本大二郎がついに去り、お昼の時間帯は大下容子さんだけが頼りの秋である。もう台風来るな。



最も古い記憶のひとつが、『シャボン玉ホリデー』のザ・ピーナッツの2人が映っている白黒テレビの画像である。いわゆる「テレビっ子」世代として、番組編成全体が少しづつ世知辛くなってゆく消耗戦を眺めるのは寂しい。新聞・出版を含めたオールドメディアの苦境は明白であるが、かといってすべての機能がネットに移行するわけでもない。現場ではますます経済効率が優先されることになるだろう。
大江健三郎と同い年で同窓生の久世光彦は、友人の華々しい文壇デビューを見て小説家志望をいったん諦めてTBSに就職した。『時間ですよ』で一世を風靡した演出家はジロドゥを語る「インテリヤクザ」だったが、テレビ局が誇り高き拗ね者の遊び場だった時代はとうに過ぎている。久世さんが缶ピースを燻らす姿を思い出しながら、超絶技巧で「戦争画」を乗り切った猪熊弦一郎の精神について考えている。「最適化」のうねりより、こちらの足の方が早ければいいのかな……。あるいは、とんでもなく遅れるか。いや、サンドウィッチマンの2人もいる。





風元正(かぜもと・ただし)
1961年川西市生まれ。早稲田大学文学部日本史学科卒。週刊、月刊、単行本など、 活字仕事全般の周辺に携わり現在に至る。ありがちな中央線沿線居住者。吉本隆明の流儀に従い、家ではTVつけっぱなし生活を30年間続けている。土日はグリーンチャンネル視聴。

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