boidマガジン

2018年11月号

Television Freak 第33回 (風元正)

2018年11月13日 14:37 by boid

家では常にテレビつけっぱなしの生活を送る編集者・風元正さんが、ドラマを中心としたさまざまな番組について縦横無尽に論じるTV時評「Television Freak」。今回は現在放送中の連続ドラマから『獣になれない私たち』(日本テレビ系 水曜ドラマ)、『僕らは奇跡でできている』(カンテレ・フジテレビ系 火曜ドラマ)、『リーガルV~元弁護士・小鳥遊翔子~』(テレビ朝日系 木曜ドラマ)の3作品を取り上げます。

(撮影:風元正)




「アメリカ映画」の血脈


文=風元正


ユーロスペースで青山真治監督『冷たい血』を鑑賞した後、黒沢清、青山の両氏が対話をはじめた瞬間の硬い空気は忘れがたい。『冷たい血』は黒沢先輩も賞賛する通りの快作であり、こちらは画面の格調の高さと緊迫感に圧倒されたまま、2人が壇上に出てきて、観衆は固唾を呑み込むように2人の言葉を聴く。中心テーマは「アメリカ映画」という観念だが、お二人も認める通り、何となくは存在するとしても、はっきり指し示せるものではない。黒沢さんは何度も「確信」という言葉を口にしたが、『冷たい血』は逡巡があったら撮れないシーンに充ちている。たとえば元刑事である石橋凌が銃で撃たれて片肺となり、「空洞」を抱えながら早足で歩いて、走り、息切れして咳き込む動作。あるいは、団地から荒川べりに駆け寄ってくる永島暎子の笑顔。だれもいない野球場で戯れる鈴木一真と遠山景織子に突然降る雨。これらすべてが「アメリカ映画」なのかもしれない。青山真治監督には、是が非でも新作を撮って欲しい。とりあえず、みなさまは青山さんが撮ったカーネーションの最新MV「サンセット・モンスターズ」(名曲)や、『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』、『Helpless』、『EUREKA』などもぜひとも。

 



『獣になれない私たち』に心打たれている。主人公・深海晶(新垣結衣)は大手企業の元派遣社員で「完璧な笑顔」を繰り出しながら忘年会でみんなのお酒を作るタイプで有能。転職した今は営業アシスタントなのに社内中の仕事を押し付けられている。クリオネが待ち受け画面。同僚の酔っ払いたちに酒を「自分で作れ!」と声をかけたのがきっかけで恋仲になった花井京谷(田中圭)とは交際4年。結婚目前のはずだが、実は部屋に元カノで失業者の長門朱里(黒木華)が住んでいる。基本、ストレスの塊だけど「今は恋がしたい」。つい線路に飛び込みたくなったりもする。
深海さんの生活は、クラフトビールバー「5tap」で隣り合わせた毒舌家の公認会計士・根元恒星(松田龍平)とブランドデザイナーの橘呉羽(菊地凛子)との出会いで揺れ動く。「直感と感情で動く生き物」である呉羽の店のエッジの効いた服で勢いつけて、原節子が心のアイドルのワガママ社長にぶち切れたら、「特別チーフクリエイター」に昇進してしまう。晶は恒星の「笑顔がキモい」という悪口を聞いて腹を立てたけれど、夜道での「バカになれたら楽なのにね」という言葉に心が波立つ。ちなみに「5tap」、一緒にいる客が同時にグラスを傾ける演出を見ると、日本酒をビールに変えて小津安二郎映画の酒場を引用しているのでは。
髭を生やした恒星ちゃんは、「5tap」でナンパした女の子を近所の自分の事務所にお持ち帰りするけど、酒が弱くて最中に寝る男。大手監査法人を辞めていて、「いつも笑顔の人気者」だったけど失踪中の兄に関して何やらトラブルに巻き込まれているらしい。でも、心の中には柔らかい部分も残っている。田中圭が、みんなにいい顔したい優柔不断な一流企業のリーマン役で飛ばしている。今までのイメージの集大成。恒星が晶と部屋で一夜を明かして、「晶さんてああ見えて声でかいんですね」と口走り、京谷がぶん殴る瞬間の「いい男」対決の火花は凄かった。
野木亜紀子の脚本は絶好調で、リアルかつ緻密な構成に舌を巻く。相当なダウナー系ドラマだけれど、爆笑しながら見てしまうのは、自虐的な方向で「俗情との結託」を誘わないからだ。「深海さん」は日本のどの社会にもいる。ちゃっかりといいとこどりする松任谷夢子(伊藤沙莉)も、ポンコツ新入社員上野発(犬飼貴丈)も、夫の介護を続けて京谷の結婚だけが楽しみの花井千春(田中美佐子)も。そして、呉羽の夫、橘カイジは何者なのか? 「幸せなら手をたたこう」のメロディーが頭から離れない。


『獣になれない私たち』 日本テレビ系 毎週水曜よる10時放送

 



『僕らは奇跡でできている』は、高橋一生、小林薫、田中泯が共演している。そして、要潤も。そのメンバーが一同に会しただけで嬉しいドラマだけれど、高橋の演じる生命科学部の大学講師の相河一輝が好もしい。自転車通勤だけれど都市や森の生態系の変化に目を凝らし過ぎてすぐ寄り道する。人間界の変化にはさほど興味はなく、超マイペースで組織のルールなど頭に入らないが、自然界から得る情報量はかなり多いライフスタイルである。
第4話が秀逸だった。群馬県でタクシーに乗っている最中、一輝がイノシシを発見して物語は始まる。環境破壊で、山に食べ物が減ったから里に下りる状況を踏まえている。そして、シュウ酸カルシウムのえぐみでイノシシさえ食べないコンニャク畑に紛れ込み、泥棒と間違えられ、畑の持ち主が偶然、学生の実家だったので、仲良し4人組も押しかけてくる。そのうちのひとり、新庄龍太郎(西畑大吾)は、コンニャク農家という家業を恥じていて皆を案内するのが嫌だったのだが、一輝が「どうしてコンニャクは絶滅せずに千年も存在しているのでしょう」という疑問を徹底的に追及し、星降る美しい夜をみなで見学することで、自然にコンプレックスを解きほぐす。だけれども、一輝は、すき焼きは糸こんにゃくでなく肉から食べる。
「こんにゃくを味もそっけもないものだと思ってみるとそうでしかないんです。でも、その奥に隠れた見えないものをしっかり見れば、そのすばらしさを感じることができるんです」
美人で親の歯科クリニックを継いで院長となり、人も羨む境遇なのに、なぜか周囲と摩擦ばかり起こす水本育実(榮倉奈々)に、路上でお土産のこんにゃくを渡そうとして一輝が熱く語りかける言葉だ。でも、育実は受け取らない。話も聞かない。難しいシーンで、知的水準の高いけれどやや意味不明でもある長セリフを違和感なく発せられる高橋の個性を得難いと思う。
森に住む祖父の陶芸家・相河義高(田中泯)や学部長・鮫島瞬(小林薫)以外に、一輝を一番理解している学生の尾崎桜(北香那)はいつも控え目なメガネ女子で愛らしく、今後に重要な何かの役割を果たすはずだ。蟻の観察に余念のない変人・沼袋順平(児嶋一哉)の「グッジョブ」も気が利いているし、育実とともに「いい学校・いい会社」という価値観のグループにいる准教授・樫野木聡(要潤)の芸達者ぶりもいい感じだ。「愛されたい」と泣く「こじらせ気味」の意識高い系女子・育実の孤独は解消されるのか。成果主義に毒されて日本の理系が危機にある中、タイムリーなドラマ。「面白がる天才」一輝がどうやって人の価値観を変えてゆくのか、先行きにワクワクしている。


『僕らは奇跡でできている』 カンテレ・フジテレビ系 毎週火曜よる9時放送

 



テレビ朝日は、プログラム・ピクチャーの精神を伝承している局である。『リーガルV~元弁護士・小鳥遊翔子~』の仕上がりには、もう、拍手しかない。はぐれ者が集まって敵を撃つ西部劇の骨法を基本に、短い時間の中で逆転また逆転の法廷劇をびしっと成立させる。「管理人」小鳥遊翔子(米倉涼子)を筆頭にした弱小「京極法律事務所」の面々には、意外とお飾りでない所長・京極雅彦(高橋英樹)、米倉ドラマではお馴染みの勝村政信演じるヤメ検・大鷹高志、「ポチ」が嵌っている青島圭太(林遣都)という弁護士たちに加え、前科者だらけのパラリーガルの安達祐実、三浦翔平、荒川良々。対する大手の「Felix & Temma法律事務所」のメンバーは小日向文世、向井理、菜々緒の3人がずらっと並び、それだけでド派手ではないか。そんな相手に米倉が……と思いきや、翔子は「だって私弁護士資格ないんだもん」と自らは法廷に立たない。
第2話でいうと、まずゲスト、斉藤由貴の存在感がすばらしい。製紙会社の初の女性役員役だが、3人の社員から突然パワハラで訴えられて取締役を解任され、会社に3億円の損害賠償を請求する。まず、パワハラする人柄かどうか、翔子は高級フランス料理屋を抱き込み無礼を働かせて確認、元ストーカーのパラリーガルを演じる荒川良々に浮気の証拠をおさえさせ、絶対的と思われた音声データの証拠を覆す。あの手、この手が愉快だが、最後にもうひとつの男と女のドラマが秘められていた。翔子の重度の「鉄ちゃん」趣味も小道具として効いており、真岡鐡道SLもおか号でカップ酒を傾ける米倉、斉藤の迫力といったら……。形容はしません。第4話に銀座のホステス役で出演した“ぱるる”こと島崎遥香も、「塩対応」を活かしながら大人の雰囲気を漂わせていた。
法廷があって新証言探しがある、そのテンポがいい。ジオラマがある鉄道バーとか、男のために横領した元銀行員の安達祐実の嘆きとか、現役ホストの三浦翔平のシャンパンとかお約束のギャグを挟み、「企業の番犬」向井の鉄仮面や菜々緒の七変化などの見せ場も作りつつ、「真実」は二転三転する。鎧塚平八の『現場百回』という架空の定番ドラマを踏まえた上で、あの『桃太郎侍』の高橋英樹の大時代な余裕の演技が、赤ワインを秘書の頭からかけたりする現代劇的な小日向文世と好対照を成している。
翔子は元「Felix & Temma法律事務所」のメンバーで、かつては向井演じる海崎と交際しており、とある事件で弁護士資格を失った過去がある。その因縁も、やがて大きなドラマを生むだろう。定番は、徹頭徹尾明るく痛快であって欲しい。米倉涼子は、ずっとゴージャスなドラマの女王のままで。


『リーガルV~元弁護士・小鳥遊翔子~』 テレビ朝日系 毎週木曜よる9時放送

 



「アメリカ映画」の血脈ははてしなく伝承されてゆく。ジョン・フォードの西部劇があって黒澤明の『七人の侍』があり、『荒野の七人』から『スター・ウォーズ』に至る夥しいオマージュが生まれてきた。小津安二郎もまたエルンスト・ルビッチなどのハリウッド映画から出発した人。『秋刀魚の味』のトリス・バーは「5tap」に繋がり、『晩春』の原節子が乗る自転車は、高橋一生のマウンテンバイクに繋がってゆく。『リーガルV』では、アメリカの法廷劇に「金さん」や「桃太郎侍」が流れ込んでいって愉快だ。秀作揃いの今クールのドラマを愛でながら車を運転していたら、ひさしぶりに大きな虹を見た。『奥様は魔女』に笑っていた子供の頃を思い出した。

左下に薄い虹が見えないだろうか。慌てて写真を撮った時にはもう消えかかっていた……(撮影:風元正)





風元正(かぜもと・ただし)
1961年川西市生まれ。早稲田大学文学部日本史学科卒。週刊、月刊、単行本など、 活字仕事全般の周辺に携わり現在に至る。ありがちな中央線沿線居住者。吉本隆明の流儀に従い、家ではTVつけっぱなし生活を30年間続けている。土日はグリーンチャンネル視聴。

関連記事

無言日記 第37回 (三宅唱)

2018年11月号

宝ヶ池の沈まぬ亀 第29回 (青山真治)

2018年11月号

映画は心意気だと思うんです。 第4回 (冨田翔子)

2018年11月号

読者コメント

コメントはまだありません。記者に感想や質問を送ってみましょう。

バックナンバー(もっと見る)

2018年10月号

【10月号更新記事】 ・《10/30更新》冨田翔子さん「映画は心意気だと思...

2018年09月号

【9月号更新記事】 ・《9/28更新》杉原永純さんによる「YCAM繁盛記」...

2018年08月号

【8月号更新記事】 ・《8/29更新》青山真治さんの「宝ヶ池の沈まぬ亀」第...