boidマガジン

2015年10月号 vol.2

映画川 『GONIN サーガ』 (渥美喜子)

2015年10月17日 22:02 by boid
今回の映画川は、現在公開中の『GONIN サーガ』(石井隆監督)を取り上げます。1995年に公開された『GONIN』の19年後を舞台とし、前作の襲撃事件で命を落とした暴力団員の息子たちが新たな"GONIN”として死闘を繰り広げる本作。 "GONIN”がサーガ(伝説)として生き返るために約20年という月日が必要とされたのは何故なのか。『GONIN』公開当時、学校をさぼってまで劇場に足を運んだという渥美喜子さんが書いてくれました。
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文=渥美喜子


 19年前、13歳の頃にヤクザの襲撃事件に巻き込まれて父親を失った青年たち。東出昌大演じる勇人は、未だ夫の無念を晴らすため身内のヤクザを恨み続ける母を支えながら真面目に生きている。勇人の幼馴染みで、同じく父親を亡くした桐谷健太演じる大輔は、父の組の復活を目指して、ヤクザのボディーガードとして働いている。そんなふたりの元に、ルポライターを名乗る正体不明の若者(柄本佑)が現れ、過去の事件を追っていると残されたものたちに近づき、今まで誰も知らなかった事実を明らかにしていく中で、ヤクザに囲われている元アイドル(土屋アンナ)も巻き込んで、2015年の男/女たちの運命も徐々に狂い始めていく。

 頭のおかしな中学生だったわたしは、何を思ったかレンタルビデオ屋で『ヌードの夜』(92年)を借りて見て以来、石井隆という映画監督に熱狂し、『GONIN』が公開された95年には、初日に学校をサボって映画館まで足を運んだものである。
 20年前(映画の中では19年前)、あのGONINたちの姿(佐藤浩市/本木雅弘/竹中直人/椎名桔平/根津甚八、そしてビートたけし)と、石井隆が描く暴力と愛の世界に痺れたものとしては、今回、その息子たちが活躍するという『GONIN サーガ』は心底楽しみであった、と同時に、前作に比べて全然つまらなかったらどうしよう……という勝手な不安も、正直抱いていた。しかし本編を見て、それはとんだ杞憂だったと気付く。

 まず、劇中には一応、『GONIN』を見ていない人のためか、20年前の映像が流れはするのだが、その編集と映画自体の荒っぽさにより、前作の内容なんてまったく伝わってこない。つまり、多分、伝える気がない。
 そして、最近の日本映画には珍しいほどのベタベタなハードボイルドな世界において、日常的なリアル感、もしくは共感、ナチュラルなお芝居、といったものははなから求められていない。なんせ、映画が始まってから終わるまでの129分、すべてのシーンは雨だ。空が晴れていても、室内でもまさかの、雨が降っている。そして、明らかに銃で撃たれたはずの登場人物たちが、かっこよく死ぬまで平気な顔をして生き返ってくる。その他にも、強盗直前の犯人たちがふざけ合いながら今から襲撃しようとするビルの前で変装用の衣装に着替えてみせたり、スマホを使いこなす一方でカセットテープで音楽を聴いたりと、「そんなアホな」と突っ込みたくなるような要素が盛りだくさんだ。その過激な過剰さこそが石井隆といえば石井隆なので、ファンにとっては期待通りで嬉しい展開なのだが、それではGONINがサーガとして生き返る意味はないだろう。


 決して芝居が上手いとは言えない東出昌大が、濃密な世界でひとり明らかに違和感を放ちながらぼそぼそとセリフを話す。その彼がGONINになるまでの/なるための今作、と言えることは明らかだ(事実東出の頑張りには目を見張るものがある)。そして、父と息子の物語を語るための20年間という時間も、この映画には必要だった。しかし、例えばリチャード・リンクレイター監督『6才のボクが、大人になるまで。』(14年)のように、ひとりの俳優の人生の時間を切り取って映画にするわけではなく、完全に作られた脚本の中で、20年という時間が必要だった意味は何か。

 鶴見辰吾の息子がこれで、永島敏行の息子があれで…、と『GONIN』を思い出し頭を整理しながら本作を追う。前作に登場した人物たちはほぼ全員死んで終わったはずだ。しかし生き返る。根津甚八が、生き返る。
 これは既に宣伝や広告で明らかにされていることなのでネタバレでもなんでもないが、本作では、2010年に身体的理由から俳優業を引退した根津甚八が一度きりの復活をとげている。現在では鬱病と重度のヘルニアによりほぼ車椅子生活という根津が、前作では死んだと思われた元刑事役で、再びスクリーンに現れる。彼は20年間GONINとしてそこにいたのではないかと思わせる瞬間が石井隆によって作られたとき、『GONIN』と『GONIN サーガ』という完全なフィクションであるはずのこの映画が、「殺されたヤクザの息子たちが熱い復讐心のもと20年の時を経て父親と同じ現金強奪事件を起こすアクション映画」として現れると同時に、フィクション以上の何かになる。
 根津の芝居が鬼気迫っていて凄いとか、あの演出はかっこいいとか、もちろんそういうことも言えるのだが、今作に限ってはその映画の姿そのものが見るものの心を揺さぶるのだ。
 そして、これが父と息子の物語であるという点において、もちろん設定上、『GONIN』と『GONIN サーガ』の登場人物たちは親子関係にあり、それがサーガ(物語)として語られるのだが、わたしには、今作でヤクザの若頭演じる安藤政信と、前作でヒットマンを演じたビートたけしとの関係を無視することはできない。俳優としての安藤を1996年に『キッズリターン』で見出したたけしも、そこには在るだろう。

 まさに文字通り、息子たちがスクリーンを切り裂いて映画というフィクションを飛び越えるとき、激しい銃撃戦が繰り広げられ、その場にいるものはほとんど死に、真っ白なウエディングドレスも防弾チョッキも真っ赤に染まる。そこには何もない。しかし生き返る。GONINの幽霊が20年ぶりにまたひとり現れる。なぜならこれは作られた映画なのだ。雨の中、誰が死んだって生き返ったって構わないのだ、と名美が呟いた瞬間、もうひとつの映画が生き返るのだが、それはまた別のお話。



GONIN サーガ
2015年 / 日本 / 129分 / PG-12 / 配給:KADOKAWA/ポニーキャニオン / 監督・脚本:石井隆 / 出演:東出昌大、桐谷健太、土屋アンナ、柄本佑、安藤政信、根津甚八、竹中直人
大ヒット上映中!




渥美喜子(あつみ・よしこ)
東京渥美組代表取締役。映画ライター。2005年に開設した自身のサイト「gojo」で映画日記を執筆中。『森崎東党宣言!』(インスクリプト)のほか、女性カルチャーサイト「messy」、雑誌「映画芸術」「ユリイカ」などに寄稿。11月下旬発売の映画と酒の小雑誌 『映画横丁』第2号に同誌編集人の月永理絵さんとの「ほろよい談義」が掲載予定。

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