今週の映画川は現在公開中の『フォーカス』(グレン・フィカーラ&ジョン・レクア監督)を取り上げます。ウィル・スミス演じる天才詐欺師とマーゴット・ロビー演じる新米詐欺師のロマンスを絡めたクライムサスペンスを、前作『ラブ・アゲイン』で高い評価を受けたフィカーラ&レクア監督がどのように演出しているのか、ライターの渥美喜子さんが考察してくれます。




文=渥美喜子


 予告を見て、ウィル・スミスがパツキンのビッチと戯れてる映画、くらいの印象だったので特に見る気も起きなかったのだが、監督がグレン・フィカーラ&ジョン・レクアのコンビと知って、俄然興味を惹かれたのだった。
 このコンビといえば、デビュー作は実話を元にしたジム・キャリー主演『フィリップ、きみを愛してる!』(10年)、公開時にラブコメ愛好者界隈で話題になった『ラブ・アゲイン』(11年)の監督(ついでに、個人的に大好きな『キャッツ&ドッグス』シリーズの脚本家)である。

 そして監督第3作目の本作は、過去の作品がハリウッドで評価されたのか、これまでのものに比べて予算は大幅に増え、映画自体も派手な印象。
 ストーリーは、ウィル・スミス演じる天才詐欺師が、マーゴット・ロビー演じる詐欺師見習いと恋に落ち、ふたりは完璧なコンビに思えたが、いくら大金を稼いで幸せになっても所詮は犯罪行為、彼女の将来を案じた男は、何も言わず女の元を去っていく。そして数年後、偶然再会したふたりの駆け引きは、どこまでが真実でどこまでが詐欺なのか、スリリングな展開を見せる。
 タイトルの「フォーカス」とは、「視線」の意味で、騙しの対象となるカモの「視線」を盗むことが一流の詐欺師にとって最も重要な仕事だと解く男。それを実証するための、アッパーな音楽に乗せてスタイリッシュに演出される人混みの中での大胆なスリ行為は、ポップでオシャレなブレッソン、とまでは言わないが、視線と手が交錯する、中々見応えのあるシーンだ。

 しかし映画前半で繰り広げられるドキドキハラハラな騙し合いの世界は、後半になるにつれだいぶ地味になっていき、かわりに、ひとりの男の、真実と嘘の物語へと移行していく。

 デビュー作『フィリップ、きみを愛してる!』は、ジム・キャリー演じる警察官が交通事故に遭い命を落としかけたことをきっかけに、自分がゲイであることをカミングアウトし自由に生きることを決意、自由になり過ぎた結果起こしてしまった保険金詐欺で投獄された刑務所で出会ったユアン・マクレガーを幸せにするためだけに、そして愛してると伝えるためだけに詐欺を繰り返す物語である。
 続く『ラブ・アゲイン』は、スティーブ・カレル演じる妻に浮気された冴えない中年オヤジが、バーで出会ったライアン・ゴズリング演じるイケメンのヤリチンの手ほどきを受け、めきめきとちょいワルオヤジへと変貌していくも、素の正体はダサいまま、独身だと正体を欺き若い女をお持ち帰りしても気持ちは妻の元にある、そんな男が正直に家族を取り戻すまでの物語であった。
 そして今作『フォーカス』は、元々嘘をつくことが仕事だった男が、愛する女のために、真実と向きあうまでの物語だ。

 映画の中で、嘘が真実になる瞬間、そこに起こる奇跡を「視線」の先に映すことの可能性をこの監督たちは信じているのではないだろうか。
 もちろん、映画それ自体が壮大な嘘であることは、周知の事実だ。だからこそ、舞台が宇宙であろうと主人公が幽霊であろうと人は安心してその映画を楽しんで見ることができる。
 しかし、それでもそこに映ってしまう、リアルで本当の何か。
 先日アップリンクで見たキャロル・ランガー監督『ラジウム・シティ-羅針盤と放射線・知らされなかった少女たち-』は、キュメンタリー作品とは言え、20年以上も前のアメリカの作品であり、そこでしか有り得ない、既に過去の世界を映しているはずなのに、リアルで本当としか言い様のない映画の姿をしていた。
 それは、放射線にまつわるショッキングな内容以前に、そこに映る人々の姿が、映画とわたしたちを繋げる真実の回路であると感じさせる、嘘も本当も(=フィクションもドキュメンタリーも)関係ない、奇跡であった。

 もちろん、完璧に考えられた脚本にそって演じる俳優たちは、「嘘を告白し、真実を語る」という監督の要望通りの芝居をしているに過ぎないかもしれない。だが、スクリーンに映る俳優の姿に心打たれてしまう観客にとって、その芝居は、演じる俳優の肉体を通じて、映画という嘘が、自分のリアルへと、見えていく。

 現在、そのことにもっとも敏感な俳優はジム・キャリーだと勝手に思っているのだが(『トゥルーマン・ショー』の主演をやるくらいだし)、事実、『フィリップ、きみを愛してる!』の主人公を演じているときのジムは、コメディ映画の体をとりながら、ゲイとして詐欺師として生きる男の真実の愛の告白を、その瞬間のリアルな出来事として、映画の中に存在させる。彼は、フィクションを演じることで映ってしまうリアルを、自身の肉体を通してわたしたちに見せようとしてくれている。
 いかんせん、『フォーカス』のウィル・スミスにはそこまでの力はなく、彼が真実を告白するクライマックスシーンには若干の物足りなさを感じなくもないのだが、それでもそのシンプルな演出にこの監督たちが役者から生まれる奇跡を信じていることが伝わってくる。
 次回作は、タリバンで活躍した女性ジャーナリストの手記を基にしたコメディだそうだ。そこにはどんなリアルな嘘が待っているのか、非常に楽しみである。


フォーカス FOCUS
2015年 / アメリカ / 105分 / 配給:ワーナー・ブラザース映画 / 監督・脚本:グレン・フィカーラ&ジョン・レクア / 出演:ウィル・スミス、マーゴット・ロビー、ロドリゴ・サントロ、ジェラルド・マクレーニー
5月1日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー



渥美喜子(あつみ・よしこ)
東京渥美組代表取締役。映画ライター。2005年に開設した自身のサイト「gojo」で映画日記を執筆中。『森崎東党宣言!』(インスクリプト)のほか、女性カルチャーサイト「messy」、雑誌『映画芸術』『ユリイカ』などに寄稿。来月創刊の映画と酒の小雑誌『映画横丁』に同誌編集人の月永理絵さんとのラブコメ映画対談が掲載。