編集者の風元正さんによるテレビ時評「Television Freak」第2回。今回は年末年始の特番の中で気になった企画や、2015年の"Television Freak”的ベスト5、そして現在のテレビ界をリードする2人のタレントとその出演番組について――今年もテレビから目が離せそうにありません。
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有馬記念で最後の返し馬を行う白馬ゴールドシップ(撮影:風元正)



内村光良とマツコ・デラックスの時代


文=風元正


 有馬記念の入場者数は12万7821名。気まぐれな芦毛の名馬、ゴールドシップの引退レースだったせいか、中山競馬場は朝から大混雑で、すごい熱気だった。例によって、ゴールドシップは3コーナーから大まくりを始め、地響きのような歓声に包まれた。ゴールドシップのレースは、前走のJCと同じく4コーナーで先頭に並びかけたところで終わり、勝ちパターンの片鱗を出しただけとしても、いいものを見せて貰った。これで馬券が当たればね。


 年末年始の特番では、テレビ東京の『紺野、日本の絶景で踊るってよ』が愉快だった。ふだんは『紺野、今から踊るってよ』という5分間の深夜番組で、ただ紺野あさ美と各地の美女が踊るだけのことなのだが、尺が1時間になっても飽きない。沖縄の空や海の碧さや京都の紅葉が目に優しく、ながら視聴しかしない私にとって「チア環境ビデオ」として有用であった。なんだか元気が出るのだ。つまりは、モーニング娘。にいたアナウンサー、というキャリアをベタに生かした企画だが、紺野のダンスのキレと貫禄は脱帽モノで、モーニング娘。’15のメンバーの質問に対して、「でも、大丈夫。28になっても踊ることがあったりするから」と答える言葉に重みがあった。首都圏外郭放水路で「恋愛レボリューション21」を踊るシーンは絶品で、モー娘。の第5期のオーディションに合格して涙する痩せっぽちの少女だった紺野を覚えている身としては感慨深い。「撮影 紺野あさ美」というクレジットも、機材の進化を示していて現代的である。なにしろ、iPhoneのカメラで4K画像が撮れるというのだから。テレビはどんどん、機動力を増してゆくのかもしれない。

『紺野、今から踊るってよ』テレビ東京 毎週水・木曜深夜1時30分放送  (C)テレビ東京


 紅白では、AKB48を卒業する"総監督”高橋みなみの最後のステージに、前田敦子と大島優子がサプライズ登場したシーンが興奮のピークだった。別に今のメンバーが物足りないのではなく、アイドルグループはどれだけ才能が集まってもヤクザの跡目相続のような継承を行うのは難しいというだけの話である。かつて熱く議論された「前田敦子は真のセンターか」という問題に、ようやく決着がついたような気がする。2010年、あの『マジすか学園1』の頃の盛り上がりが懐かしい。もっとも、「アニメ紅白」という企画コーナーで、AKBのメンバーがセーラームーンのコスプレをして、セーラーヴィーナスに扮したぱるる(=島崎遥香)の脚があまりに細いのにぐっと来たりしているのだから、始末が悪い。NMB48の「365日の紙飛行機」も素晴らしく、私にとってはAKB勢を堪能した紅白だけれど、史上最低視聴率だったようだし、来年はどんな構成になるのやら心配になる。綾瀬はるかがどれだけやらかすか期待したのに無難だったが、人がトチらないのを残念に思ってはいけないね。紅白に出場した「四宮」=星野源について急速に認知する日々が続くが、小沢健二の遺伝子を受け継ぐ歌手がどんどん出ている中で、もしかすると一頭地を抜いているのかもしれない。


 ここで、2015年の"Television Freak”的ベスト5を挙げておく。
1 11月29日東京競馬場JCデーにおけるライアン・ムーアの神騎乗
2 シャルリー・エブド事件の当日に発売されたミシェル・ウェルベック『服従』
3 ラグビー史上に残るジャイアント・キリングを成し遂げた南ア戦のラグビー日本代表
4 山田孝之の『東京都北区赤羽』
5 岡田惠和の『ど根性ガエル』
次点 次代を担う才能が集結した『表参道高校合唱部』
 以上、あんまり説明はしません。全部テレビ的なもののつもりです。
 そうそう、前クールのドラマは大豊作で、『掟上今日子の備忘録』と『釣りバカ日誌~新入社員浜崎伝助~』もよかった。『掟上今日子』は、一日ですべてを忘れてしまう「忘却探偵」を演じた新垣結衣の魅力を満喫できたドラマで、忘れてはならないことを自分の身体にメモするマジックの筆跡が妙に生々しく蠱惑的だった。『釣りバカ』は、ついにハマちゃんでなくスーさんになった西田敏行が名演である。もちろん、濱田岳は当たり役になるはずで、広瀬すずが小林みち子を演ずる姉アリスに近づいている件も確認できて有益であった。このドラマ、当然、続くでしょう。


 今、テレビの世界は内村光良とマツコ・デラックスという2トップによりリードされている。視聴率をチェックすれば一目瞭然だから、卓論を展開しているつもりはない。ただ、ちょっと前まで日本の「反知性主義」の元凶と名指したい島田紳助の番組群も多かったから、ずいぶん爽やかになった気がする。いわゆるBIG3も健在だし、ダウンタウンやナインティナインもいるではないか、という疑問も承知の上で「ウッチャンとマツコの時代」と名指してみたい。「現在」の本質は、この2人の番組に宿っているような気がして仕方ないのだ。

『世界の果てまでイッテQ!』日本テレビ系 毎週日曜よる7時58分放送  (C)NTV

 内村光良=ウッチャンは、私にとってはまず『ウリナリ』で社交ダンスを踊っていたヒトである。周囲のメンバーがどんどん必死になる中、ひとりだけ涼し気な顔でステップを踏んでいた。大ヒット番組の『世界の果てまでイッテQ!』では、なんといっても「珍獣ハンター・イモト」だろう。原生林を、珍獣に追いかけられて疾走するスピードは目に焼き付いている。かつての「川口探検隊」のテイストを、よりリアルに身体を張って追及するスタイルは王道ど真ん中で、長く斬新さを失っていない。イモトにはつい親のような感情を抱いてしまい、水着になると目のやり場がなくなる。高度障害になったイモトを励ますべく開かれた「キャンプ4ライブ」で、「音声なのに にしおかすみこやらされたり」というセリフには貰い泣きをしてしまった。『スカッとジャパン』にも共通することだが、MCとしてのウッチャンは出しゃばる訳でもなく、ほぼ無色透明なのに「はい、論破」のイヤミ課長・木下ほうかなど、ユニークなキャラクターがどんどん誕生している。『無痛~診える眼~』で、楳図かずおのマンガに登場する絶叫美女というキャラクターを見出した石橋杏奈も、ウッチャンのNHKのコント番組『LIFE!〜人生に捧げるコント〜』の中で既に、いじめると魅力的だと確認されていた。ウッチャンの番組は、未知の才能を発掘するという点で突出している。
 まとめて番組を見直すうち、ウッチャンは、もしかすると「批評家」なのかもしれない、と思えてきた。少なくとも、現場スタッフの頑張りはあるにせよ、動画のテイストとクオリティのばらつきのなさは尋常ではない。そう騒いでいたら、家人からナンチャンや出川哲朗は同級生で、学生時代からずっと一緒、と教わった。世間の人もウッチャンに詳しい。慌てて経歴を確認したら、横浜放送映画専門学院出身でもとは映画監督志望、「劇団SHA・LA・LA」もやっていて、学校の講師に内海桂子・好江がいなかったら、現在の姿になっていたかどうかわからないことが判明した。つまり、一貫して「自主映画ノリ」なのだ。
 通常、芸人はどうしても自分の芸がウケなければ世に出られない。最近はコースが確立されているから、ギャグのメソッドも教科書的に学んでゆき、それゆえバリエーションが狭まってゆく。ところが、ウッチャンは自身の芸の必要性をさほど感じていない。一座全体が魅力的であれば、それでいいという姿勢なのだ。番組での目つきを観察していると、ウッチャンを本気で笑わせるのがかなり難しいことが分かる。出演者も、出川のように図々しくない限り、タイヘンだろう。基本、芸に拘泥しているコンビの相方ナンチャンとは方向性が違う。ウッチャンは、「雛壇芸人」が「おいしい」コメントの瞬間を奪い合う浅ましさから最も遠い存在なのだ。


 マツコ・デラックスはまさに「批評」が芸である。『マツコの知らない世界』と『アウト×デラックス』のどちらでも、世間の基準からやや外れた方々が、身悶えしながらマツコに自身の生の核心を披露している。私が見た中で一番好きなのは、「5000個の駅弁を食べた」という鉄道カメラマン・櫻井寛さんの回なのだが、「あなごめし」「海苔のりべん」「吾左衛門鮓・鯖」「三大鶏めし」ブラッカウズ「チーズバーガー」などなど、食べる食べる。車窓セットの中で登場したJR八代駅・より藤「鮎屋三代(塩焼き・甘露煮)」を口にしてマツコが感に入った瞬間、思わず旅立ちたくなった。あの圧倒的な雑学はどこで身につけたのだろうか。櫻井さんが沈着な大人だった分、マツコの見事な食べっぷりと興奮がそのまま、日本の駅弁がいかに素晴らしいかを雄弁に物語っていた。身振り手振り発言など、すべてが「批評」である。
 『アウト・デラックス』では、長年の将棋ファンとして、「神武以来の天才」と呼ばれて名人位にも就いた加藤一二三九段が「アウト」としてブレイクするとは予想だにしなかったが、見て退屈したことはない。最近では野間口徹が登場した回が出色だった。満員電車で、この人さえ下りればスムーズに乗降できると感じた瞬間、「降りた方がいいですよ」と押す身振りが真に迫っていた。スナックのママである矢部美穂の母親が血液型の話題を振った時、にイラっとして、顔をぴくぴくさせた刹那、テレビ画面に戦慄が降臨した。
 マツコの底力は『夜の巷で徘徊する』で十二分に発揮されている。代田橋の沖縄タウンを訪れた回、「まず笹塚よね。次の明大前で、ちょっと予算オーバーをした時代田橋」という的確な形容に痺れ、「今日は吉田類さんみたいに酔っぱらっちゃうか」というセリフにも、「酒場詩人」へのリスペクトが微妙に込められていた。隣の女子会中の3人に声をかけ、どうやら恋に悩んでいるらしき女性に気づき、「人間交差点ね」と呟く呼吸は絶品で、品のいい教養を感じる。「都立家政→曙橋→明大前→中野新橋→幡ヶ谷」と住み、「恵比寿に行って新宿起点人生が変わった」という指摘は東京論としても秀逸だった。ついにキムタクと高校の同級生だとテレビ的に解禁された今、マツコの進撃はまだまだ続くだろう。身体は大きいけれど慎ましやかなのがミソ。人気がなくなれば自分から消えるわよ、と腹をくくっているから迫力がある。
 ウッチャンもマツコも、「やる気のあるタモリ」ではないか、というのが私の仮説である。芸人志願でなかった点がまず共通しており、自分自身も十二分に面白いのだけれど、そっち側にはあまり興味がない。改めて『ブラタモリ』と比較してみたら、マツコとは知識のタイプがまったく違うが、アナウンサーや案内人が魅力的に見えてくる点で共通していた。「現在」はたぶん、基本、より過激にするしか展開のない自己の芸だけでは勝負できない、「批評家の時代」なのだ。理由は、胸に手を当てれば数え上げられなくもないけれど、単純な結論を出さないようにして、折々に考えてゆきたい。
 みなさま、本年も宜しくお願い致します。


花園神社の酉の市にて(撮影:風元正)




風元正(かぜもと・ただし)
1961年川西市生まれ。早稲田大学文学部日本史学科卒。週刊、月刊、単行本など、活字仕事全般の周辺に携わり現在に至る。ありがちな中央線沿線居住者。吉本隆明の流儀に従い、家ではTVつけっぱなし生活を30年間続けている。土日はグリーンチャンネル視聴。