
構成=土居伸彰
写真提供、協力=松冨淑香
「なんとかなる」をパターン化していく
樋口泰人 大学を辞めるくらいから80年代のほとんどを高円寺のレコードレンタル屋さんで働いてた。自分のコレクションも混ぜていたので、他のレンタルレコード屋さんにはぜんぜんないものがいっぱいあって、たくさん万引きされた。なんなんだよ、って思った。レンタルレコード屋さんて、みんなのものになるってことじゃない? それなのに万引きするってどういうこと?
土居伸彰 どんだけ強欲なんだって話ですよね。
樋口 高円寺すごいなって思い知りながら10年間を過ごして、その間に映画関係の文章を書くようになった。「スタジオボイス」とか「エスクァイア」とかそんなあたりかな。で、90年代に入ると「カイエ・デュ・シネマ・ジャポン」っていうフランスがベースになっていた映画の批評誌が創刊されて、それに関わって10年間ほぼ映画のことをやって。ただ多分90年代の半ばくらいから、文字を書いたり、文章読んだりするのが辛くなってきて。
土居 ちょっと待ってください、boidで本売ってますよね(笑)?
樋口 これだけでは面白くない、何か違う、っていう……例えば映画を批評するっていうやり方にしても、文字書くだけだと文字を読む人にしか訴えられない。違うところに踏み出さないと今までやってきたことも台無しになる、みたいな気分がなんとなくあって、それでなんかちょっと違うことをって始めたのがboidというレーベルなんですよ。それで最初にやったのが、青山真治に監督してもらった『カオスの縁』という作品。クリス・カトラーっていう、イギリスでインディペンデント・レーベルをやって、本やレコードを出して、ミュージシャンでもあるという人がいた。その人のソロのライヴが日本であったんですね。で、彼は既製の路線にも乗らず、なおかつアンダーグラウンドでもなく、いろんな人たちと交流をしながら、レコードだけではない、文章だけでもない、合わさった何かをやろうとしていた人なので、この人のドキュメンタリーを撮ると面白いじゃないかと思い、ライブドキュメンタリーみたいなものを作ったのが最初。
その時のインタヴューの中で「カオス理論」っていう話をクリス・カトラーがしていて。当時流行っていたのね、カオス理論が。で、俺も理解していたわけではないので本を読むと、いろんなことが語られている。その中で仮想の鳥の集団、鳥の集団が集団なのにもかかわらず全体として一羽の鳥のような動きをするのはなぜか、なんでバラバラなのに集団になると1つのまとまりになって世界を飛び回るのか、みたいな話があった。それを研究する為にパソコン上に作ったバードイドという仮想の鳥がいて、それの略がboidだった。
土居 だからロゴが鳥マークなんですね。
樋口 それが98年。それ以来、映画や動画作品を作ってみたり、本を出してみたりCDを出したりっていうなかなか説明がしにくい活動をしてる。鳥は一羽一羽が集まって1つの集団になるんだけど、boidは今のところ逆。1人が勝手な動きをして集団を作っている。そんなイメージでいろんな活動をしているので、なかなか何をしている会社かっていうのが説明しにくいままもう20年が過ぎてしまって。言っちゃえばずっとこの20年間、別の形で映画批評やってたみたいなそんな感じなんですけど、でも生活は大変です。
土居 樋口さんがなんとかなってるからなんとかなるのかなと思って僕も会社を始めたのですが……
樋口 なんとかならないです(笑)。
土居 会社を立ち上げてみたらこれ難しいなと思って。
樋口 難しいよね、会社経営って。
土居 すごく大変なんですよね、びっくりしちゃって。お金がすごいなくなっていくんですよ。一人でやっていても、個人で活動するのと会社で活動するのと違いますよね。お金がなくなっていく感じが。
樋口 会社作る時もそうだし、常にすごく儲けようと思ってやってるんだけど……
土居 それは冗談で言ってますよね(笑)?
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